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ドラクエ5 ~さまよう我が心~

細々とやっていたドラクエ5が遂にラストダンジョンであるエビルマウンテンを残すのみとなった。
最後の戦いに向けチーム編成を考える中、魔界で出会った若手選手が次々とスターティングメンバーへ決まっていくと同時に、序盤からチームを支えてきたさまようよろいのサイモンへ最後通牒を突きつけるべきか私は選択を迫られていた。

既にフロントはキラーマシン選手との交渉にも着手しており、あとは彼が首を縦に振れば入団は確実なものとなっているとのことだ。出場選手登録ができるのは選手兼監督の私を含め8枠のみ、キラーマシン選手の入団が決まってしまえば必ず弾き出される選手が出てくる。オーナーは私に告げた。
「サイモンももう歳だ、後進に席を譲ってあとはモンスターじいさんのところでゆっくりさせてやったらどうだ。彼が望むならコーチとしてのポストも用意できる」と。
確かに彼はベテランで、最近入団してきたグレイトドラゴンのシーザー選手やギガンテスのギーガ選手と比べて耐性も少ない、特技の一つだって覚えてはいない。段々と強くなっていく敵には彼だって不安や苦悩を抱えていることだろう。だが彼は私と話すときにいつも言っていた。

彼はまだ現役での活躍を諦めてはいない、彼には身体というものはなかったがからっぽの鎧の中に何か熱いものが揺らめいていることを私は確かに感じていた。

思えばこんなことは初めてだ、今まで私は監督らしくあろうとし実際そのようにできていたように思う。ひたすらに強いチームを作ることを考え、ルカナンを覚えるアークデーモンのアクデン選手が入団した際には血縁でもある娘へ容赦なく戦力外を命じた。唯一例外としてスライムナイトのピエール選手に対しては子供達と一緒に並んだ時に名前へ別の意味合いが出てきたためやむを得ず移籍してもらった。

もうええでしょう

だがサイモンはあまりにも特別な選手だ。
創立当初弱小球団で資金力も乏しかった我がチームは、他の球団とは違い精一杯の誠意を見せるしかスカウトを成功させる方法はなかった。
先程話にも出たスライムナイトのピエール選手はスカウトに何度足を運んでも「1/4の確率で入ります」と言うばかりで、結局3時間の交渉の末ようやくの入団となった。
それに比べサイモンは一度交渉を行っただけで入団を快諾してくれ、それ以降チームの屋台骨として八面六臂の活躍をし続けてくれた。

私は彼との数々の場面を思い出す。
ラインハットのにせたいこうを倒し、チーム創設メンバーの一人であるヘンリーが退団した。二つの肩にかかっていた重圧が私一人に覆いかぶさり次の大陸へ向かう足が止まった私に彼は言った。

結婚相手を決めなければならない、人生の岐路となる夜に思わず町から逃げ出してしまった私に彼は優しく言った。

8年間私が石にされている間試合へ出場できず全盛期である二十代を棒に振ってしまった彼に再会した時、かける言葉が見つからない私にいつもと変わらない調子でこう言った。

彼はいつだって先の未来を見てどんなときも逆境を楽しんでいた、彼のその前向きさに私はどれほど救われただろうか。

サイモンとの旅路、世界を脅かす宿敵、今まで戦力外を言い渡してきた選手達の表情、数々の光景がフラッシュバックしイオナズンを受けたときのように頭が張り裂けそうになる。サイモンは私と初めて会ったときから、最初からさまよってはいない、さまよっているのはいつも私の心だったのだ。



私は決断を下した。
























終わり

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