蟹の家
蟹の家
蟹の家ですか。
はい、私は蟹の家です。
ヤドカリではないのですか。
もしかしたらヤドカリかもしれません。
右手を上げてください。
左手でもいいですか。
あなたには右手がありませんね、左手でお願いします。
はい。
左手ではないですね、それは右足です。
はい。
左足。
はい。
そうそれです。ワニの頭のような左手ですね。
すみません、これは頭でした。
ワニの頭のような頭ですね。
私はワニです。
そうですか、ではあらためて左手をあげてください。
はい。
ワニのような左手ですね、あなたは蟹の家ではないのかもしれません。
私はもしかすると蟹の家ではないのかもしれません。
そうするとあなたはなんなのでしょうか。
生まれた時から私は自分のことを蟹の家だと思っていました。
そうですか、お辛かったでしょう。
蟹の家は蟹の家です、辛くはありませんでした。
立派ですね。
でも今は自分が蟹の家ではないことを知ってしまいました。
自分が蟹の家ではないことを知ってどう思いましたか。
では自分は何者なのか、それだけです。
私も私が何者かがわかりません。
何を言っているのですか、あなたはごつ盛りです。
私はごつ盛りだったのですか。
はい、あなたはごつ盛りです。
では私はごつ盛りとしてこれから生きていきます。
羨ましい限りです。
あなたは私から見るとワニに見えますが。
はい、私はワニです。
それはおいておいて、あなたは何者なのでしょうか。
かいもく見当もつきません。
では私があなたが何者か決めてもいいでしょうか。
何を言っているんですか、とても失礼ですよ。
申し訳ございません。
恥を知りなさい。下種め。
ではあなたが何者か決めてはどうでしょうか。
自分で自分が何者か決めていいのでしょうか。
いいと思います、場合によっては。
では私はやはり蟹の家です。
蟹の家ですか。
蟹の家です。
ではどうもよろしく。
よろしく。