資格なしでも最初の一歩は踏み出せる!「介護業界への再就職とは?」【First Step トークショー#8 リポート】Report by Mai Todagishi
2020年10月11日にオンライン開催された、First Stepのグッドモーニング企画。17年間の専業主婦生活を終え、47歳で再就職にチャレンジした薄井シンシアさんが、今一番気になるゲストをお招きして繰り広げるトークショーです。
今回はご自身のお父様を介護した経験から、定年退職後に介護業をスタートした株式会社こみなみの代表取締役の近藤章夫さんをゲストに開催されました。
▼近藤さんの主なキャリアは、以下となります。
1973年 明治学院大学法学部卒
1973年〜1976年 大和ハウス工業
1976年〜1980年 アメリカ合衆国 カリフォルニア州 オレンジ郡 オキシデンタル保険会社
1980年~定年退職まで バイエル薬品株式会社
定年退職後、 2008年1月 株式会社こみなみ創設。現在5事業所、職員数140人、売上年商約5億円。
現役時代は、長野県、大阪、京都、神戸で、アメリカでも、主に営業職 として活躍。
資格は、ホームヘルパー2級、認知症ケア管理指導士、宅地建物取引主任者、普通自動車運転免許、カリフォルニア州生命保険取引、カリフォルニア州運転免許をお持ちの、現在70歳。
今回のトークショーでは、現場の採用側である近藤さんという立場以外に、以前に介護業界最大手でのキャリアを持つ荻野さんも、参加者として情報シェアを織り交ぜながら、数々の盛り上がる場面がありました。
介護業界に詳しくない立場として、このトークショーを聴き、リポートを書く意味は?・・・と考えながらトークショーを聞いていくうちに、「何も知らないからこそ、まずは聞いてみることに意味があった!」と実感できた時間でした。その理由となったポイントをお伝えしてみたいと思います。
(※介護の専門メディアではないため、詳細部分や数値データなどは掲載していません。更に詳細・専門的な情報を求められる際は専門機関や各企業にお問合せ頂くのが適当かと思います。その点をご了承頂ければ幸いです。)
●知らない?誤解?の多い「介護」
まずはシンシアさんから介護に詳しくない立場として、様々な疑問が投げかけられました。近藤さんや荻野さんからの答えをまとめてみましたが、介護に関して、知らないことや誤解していた部分も多いことに気付かされます。
Q: 介護とは?
A: 元々は北欧から日本に入った考え方であり、高齢者の年齢に伴う体の衰えに対して、過度な医療治療は必要ない。その人それぞれの人生や生い立ちを踏まえて、「生活をサポートする」ということが介護である。
日本においては、60年~70年の歴史を持つ医療保険制度に対して、まだ20年ほどと歴史の浅い介護保険制度。ひとり暮らしの高齢者が多い日本では、地域コミュニティの形成も含めて、過渡期であり発展途上である。一方で高齢化により急速にニーズが増えている特殊な状況も併せ持つ。
Q: 介護業界での仕事探しへの検索方法は?
A: 単に「介護 求人」と検索するのではなく、資格の有無によって就職候補先が異なる。ホームヘルパー2級(※現在の名称は、介護職員初任者研修)は、誰でも取得可能な資格であり、最初の一歩となる。在宅介護か施設介護かで仕事内容の違いがあるが、全くの未経験であれば、まずは施設でチームによる仕事を経験することがオススメ。
今は多くの企業が【資格取得の補助金制度や、時間制正社員、有料ボランティア制度など】も準備しており、良心的な企業の見極めも大切と言える。
Q: 介護業界は今も人材不足?
A: 不足は若干緩和されているように感じる。コロナ禍の影響もあり、サービスによっては利用者が減るなど、必要な人材数に変化があった。また飲食業界からの人材流入も起きている。
Q: 海外人材の活用については?
A: こみなとでは東南アジアの人材へのアプローチを継続している。東南アジアを候補とする理由は、仏教文化への共通理解があることが大きい。実際に現地でコミュニケーションした経験からも、死生観などは日本の仏教と通ずるところが多いと感じる。日本としても最近1~2年で受け入れを本格化したばかりで、海外からの人材が多い状況にないが、今後の人材の動きによって、外国人スタッフのマネジメントなどのニーズも生まれるかもしれない。
●女性には介護への適性がある!?
次に、「介護業界は給与が安いと言われますが、そこには誤解がある」と近藤さんは切り出されました。
その理由として、資格取得やスキル向上が給料に反映されやすいことが挙げられました。
この点には、介護福祉士、ケアマネージャーなどの資格を取得していくこと
で、具体的なキャリアップが可能であるという点に、やりがいやモチベーションを感じる!という参加者からの声もありました。
そのような介護業界の現場について、こみなみでも職員の9割が女性である、という点や、こみなみで採用時に実施されているエゴグラム診断でも女性の母性が顕著に表れていることなどを踏まえて、「女性に適性があると言える業界なのではないか」という話題になりました。
この点には、シンシアさんが
「母性があるから・・・といった理由で、女性を介護業界の現場職に追いやるのは反対」と強く意見を示しました。とはいえ、冒頭に紹介されたヨーロッパにおいても、介護人材に女性が多いという状況もあるそうです。
また、日本でも4人に一人が認知症になる現状がありますが、認知症介護においても、女性スタッフは利用者に共感や安心感を与え、喜ばれる機会が多いとのこと。また実際には、入浴なども女性の場合、同じ女性に介護してもらう方が安心といった声があるなど、ごく自然な声にも頷けます。
このトークのやり取りを見ていた立場としては、人間が性として持ち合わせている資質があり、個々に違った性格もある。男性だから女性だからというバイアスではなく、個々人の特性や人生経験が活かされる場所が見つかる、という点が重要だと感じます。その着目への足掛かりとして、エゴグラム診断による母性や適性の有無も活用されることを願います。
●適性次第でキャリアアップの道は拓ける
シンシアさんからの「パートから正社員になることは可能か?」という質問には、事業所の運営に関わる規定は、介護保険制度に基づいて法律で定められているため、正社員比率は事業所ごとに異なるとされつつも、
最も肝心なことは「資格があるかに限らず、実際の仕事が出来るか」という近藤さんのお答えがありました。これは業界限らず当然ですね。
そして、仕事が出来るか、において具体的には「チームで仕事が出来るかどうか」というスキルが挙げられました。訪問介護で、訪問時に1人で活動するとしても、ニーズごとの医師やケアマネージャーとの連携によって介護は成り立っているとのこと。何もかも1人で抱えなければいけないと誤解されがちな点かもしれません。ここには、シンシアさんもPTA経験がチーム経験の1つになり得るはず!と期待を寄せていました。
また、ブランク期間が長く「チームで仕事をした経験がない専業主婦」にオススメとされたもう1つの選択肢が、資格スキルを取得すること、でした。理由として、先に触れたように資格によるステップアップが具体的な業界だからこそ、この選択肢も期待が持てる点かもしれません。
その他、会場からの質問として「例えば、料理が好きだから、ずっと調理の職種を続けたい場合、それは可能か?」という質問もあり、「大きな規模の事業所であれば、職種が細分化されているので、より自分に合った選択肢が可能だろう」とのお答えもありました。
●業界として未熟である理由
このトークショーでは全体のやり取りを通じて、多くの場面でシンシアさんが多くの経験を持つホテル業界と比較しながら話題が展開されました。
その終盤に、業界としての1つの大きな違いが見えたシーンがあります。
それは介護業界が発展しない理由について深堀されたシーンで、近藤さんから示されたある興味深い視点にあります。
【戦略性・人材開発力・財務力】
この3点において介護業界は大手も中小企業も未熟である。
特に財務力は人材開発や戦略性にも大きく影響することもあり、詳しく解説された点です。
ポイントとしては、以下となります。
・日本の介護保険制度の規定では、サービス提供側の自由度は高くない。
・介護サービスの料金体系は、保険点数で決められている。
・財務力が安定している印象もある有料老人ホームは、業界内でも一部。
・ホテル業界は、海外展開や競争意識で発展するが、介護業界は国内限定。
この話題は、参加者からの
「親の介護が身近になった今、10年前に介護資格を取得した時と今で、問合せやマネジメントの方法などが何も変わっていない点に課題感を感じた」という声を起点に展開された点です。
確かに上記を踏まえて考えると、日本独自の文化や慣習・制度が確立していて、競争が生まれない業界は介護以外にも存在すると感じます。
●次へのFirst Step
この日の最後の質問で「特に印象的なエピソードや伝えておきたいこと」について、近藤さんは身を乗り出して、
介護の仕事の魅力は「ありがとう」を直接聞けることにある。そして、泣いて喜ばれることが度々ある。これほど尊い仕事は無いと強く感じています!との想いを伝えてくださいました。
超高齢化社会であり、少子化である日本では、日頃のニュースでも「介護」の話題は尽きず、「日本の介護業界に魅力はない」と感じる方もいるかもしれません。それでも親世代も介護が身近となる中では、その業界で働かないから無関心、では過渡期にある介護は状況は、一層深刻になるかもしれません。
自分や家族にとっても身近な介護の今や、今後について誤解していることはないか、家族や子供とのコミュニケーションを通して、「家庭というチーム」でも介護について考える機会も、今後求められると感じます。
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