映画『アイアンクロー』の感想~プロレスとは人生であり、人生とは悲劇である~【新作映画レビュー】
これはプロレス映画という範疇を超えた、21世紀の映画史に残る傑作と言っても過言ではないであろう。
学生である私自身は、時代に似合わないオールドスクールなプロレスマニアであると自負している。何せかれこれ10年ほど前の小学生時代に、漫画・プロレススーパースター列伝を読んでいたのだ。
確かブルーザー・ブロディの回であったか、フリッツ・フォン・エリックが登場していた。
一度つかむと離さない必殺技アイアンクローとそれによって流血する選手、実際に手を鉄のように描いていた画は今でも鮮明に脳裏に焼き付いており、また同時に少年の心に深く恐怖を抱かせていたことも記憶している。
エリックファミリーについて知ったのはその後の事。ケビンもデビッドもケリーも試合を見た記憶があんまりない。しかし、この一族の呪いに関して知ったときは、それは少年時代に抱く恐怖心とはまた違った種の怖れ慄きがあったはずだ。
「こんな怖い話が実際に存在するのか…」
そう思ったであろう。
史実は小説よりも奇なり、とはこのことを言うのであろう。
でも、この映画では呪いについて、ある種の必然性を解いている。
親のしがらみと一族の呪い
これはスピリチュアルな話でも何でもなく、「親の呪縛・怨念」に話が尽きる。
この親の元に生まれた子どもたちには運命づけられた最期だったのかもしれない。
親のリベンジとして世界王者になることを宿命づけられた子ども達に待っていたのは、悲劇的な運命だったのである。
親が自分の子どもに夢を託すなんてちっとも綺麗な話ではないし、美談にされるべきでもない。私は常々子どもの習い事や部活動に熱心な親(あるいは熱心をはき違え一線を明らかに超えている親)には疑問を持っていた。
よくある物心がつく前の子どもに特訓をさせたり、練習を強制させたり、全く以て意味が分からない。
単なる悲劇チックな話ではない、それが傑作と呼べる所以であろう
この一家、悲壮感が漂っているかと言えば必ずしもそうではない。子は親を尊敬し、兄弟も仲がいい。
劇中、楽しそうな大家族の日常が映し出され、思わず観客もほっこりとしてしまう。
厳しいことがある一面には目を背け、何だかこの一家が羨ましくも思えてしまう。
人生と悲劇は切っても切り離せない関係にあるが、人生に完璧なる悲劇というものは存在しない。
それを映し出すのがプロレスであり、映画なのであろう。
監督、制作陣、役者、誰もがエリック家に対してリスペクトして挑んでいることがうかがえるし、これを「本気で作った作品」と言えるのであろう。
私は映画を見終わったとき、素直にすごい映画に出会ってしまった動悸と胸騒ぎが止まらなかった。
※個人的に気に入ったシーン、ポイント
何より役作りが完璧だった。肉体の作り込みが素晴らしい。
エリック兄弟の肉体美は素晴らしかったと記憶してたので、これを演じ切った俳優には拍手をしても仕切れない。
他のレスラーの似せ方も良かった。リック・フレアーもハーリー・レイスも良い感じに似ていた(笑)
ちなみにブルーザー・ブロディは、
「これはキング・イヤウケアに似てるだろ!」
と思ってしまいました😅
暗黙の了解である、プロレス界の掟や裏事情、所謂“ブック”的な側面については、深入りせずに自然な形で触れていたのに好感が持てた。