最後の特別列車

冬の夜、山間の廃駅に一人の老人が佇んでいた。辰巳源次、83歳。毛糸の帽子をかぶり、古びたコートを着込んだ彼の手には、古い切符が一枚握られている。その切符には「特別列車」とだけ書かれていた。

この駅に列車が来ることはない。50年前に廃線となり、今では地元の人間すら足を運ばない場所だ。それでも源次は「何か」が起こると信じて、この場所に足を運んでいた。

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