夜明けの灯台

1

海辺の町にある古びた灯台。今は誰も使わないその灯台に、少年リクはひとり通い続けていた。彼が灯台にこだわる理由、それは幼い頃に父と過ごした思い出が詰まっているからだった。

父は灯台守だったが、数年前の嵐の夜、沖で起きた事故で命を落とした。以来、リクは父が灯し続けた光を忘れられず、学校が終わると灯台へ足を運び、ひっそりと中を掃除している。


2

その日も灯台の螺旋階段を登り、最上階のランプ室にたどり着いたリクは、ふと違和感を覚えた。机の上に見知らぬ封筒が置いてあったからだ。

「誰か、ここに来たのか…?」

封筒には「リクへ」とだけ書かれている。彼は恐る恐るそれを開けた。


「リク、久しぶりだね。
灯台の光が消えた夜、君のお父さんは最後まで海を見つめていた。
今夜、もう一度灯りをともしてごらん。何か大事なものが見えるはずだ。」


手紙にはそれだけが記されていた。書き手の名前はない。誰がこんな手紙を置いたのか、リクにはまったく見当がつかなかった。


3

日が沈むと、リクは父が使っていた灯台の機械を動かしてみることにした。灯火は何年も消えたままだったが、驚いたことにランプはすぐに点灯した。古びたレンズが輝き、回転するたびに光が海へと投げかけられる。

リクは灯台から海を見下ろした。その瞬間、遠くの波間に小さな光が揺れているのを見つけた。

「…あれは何だ?」

彼は慌てて灯台を駆け下り、海辺へと向かった。


4

浜辺にたどり着いたリクが見たものは、波間に漂う古びたボートだった。ボートの中には小さな木箱が置かれている。勇気を振り絞って箱を開けると、中には父の写真と古い航海日誌が入っていた。

航海日誌には、父の字でこう記されていた。


「リク、灯台の光は命を守るためのものだ。この光を見失わない限り、君はどんな闇の中でも進むべき道を見つけられる。」


リクは泣きながら日誌を抱きしめた。父の想いが、この灯台の光を通じて自分に届いたのだと感じた。


5

その夜、リクは灯台の光が海を照らし続けるのを見守った。父の声がどこかで聞こえる気がしてならない。そして彼は決意した。自分も父のように、人々を導く光になりたいと。

灯台は再び町の象徴となり、夜ごと海を照らす。その光を見るたび、リクは父との絆を胸に抱きしめながら、新たな一歩を踏み出していった。

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