星降る夜の贈り物
静かな田舎町の夜、星々が天を埋め尽くしていた。空気は冷たく、澄み切っている。人々は暖炉の前で一日の疲れを癒し、外にはほとんど誰もいない。ただ一人、小さな少女が夜道を歩いていた。名をミナと言う。
ミナの手には、古びた紙袋が握られている。その中には母が焼いた焼き菓子が数個。ミナはこれを隣町の孤独な老婆に届けるため、2キロ先の丘を目指していた。
「お母さん、どうしてこんな夜に私が行くの?」
「星が君を守ってくれるからよ。」
母のその言葉が心に残り、怖さを感じながらもミナは歩き続けた。
途中、大きな樫の木の下に差し掛かったとき、何かが草むらで動く音がした。ミナは立ち止まり、耳を澄ませた。
「……誰かいるの?」
返事はなかったが、小さな青い光がぼんやりと現れた。その光はふわふわと空を漂い、まるでミナを誘うかのように揺れている。
ミナはその光を追いかけることにした。「星が守ってくれる」と言われたことを思い出し、心に不思議な勇気が湧いてきた。
光を追ううちに、ミナは丘の頂上にたどり着いた。そこには小さな祠があり、星明かりが静かに祠を照らしていた。その横に立つ老婆が微笑んでいる。
「おや、ミナ。よく来たね。」
ミナは驚いた。「どうして私の名前を知っているの?」
老婆は笑いながら答えた。「星が教えてくれたのさ。そして君が持っている贈り物もね。」
ミナは紙袋を差し出した。老婆はそれを受け取り、中から一つの焼き菓子を取り出した。それを一口食べると、彼女の目には涙が浮かんだ。
「懐かしい味だね。この焼き菓子、君のお母さんが昔、私に作ってくれたものと同じだよ。」
老婆は語った。かつてミナの母と親しかったこと、そして星空を見上げるのが大好きだったことを。
「君のお母さんが言ったように、星は確かに君を守ってくれた。そして、こうして私を君に会わせてくれたんだ。」
ミナと老婆はしばらく一緒に星空を見上げていた。星々はまるで二人を祝福するように輝き続けている。
翌朝、ミナが目を覚ますと、自分の家のベッドにいた。昨夜の出来事を思い出しながら窓を開けると、机の上に老婆の祠の写真と、一枚のメモが置かれていた。
「ありがとう、ミナ。星たちが君の未来をいつも照らしますように。」
その日からミナは夜空を見るたび、あの老婆を思い出し、星が持つ不思議な力を信じ続けた。