批判されていた漫画『ドラマクイン』を読んだ
ジャンプラで始まった新連載『ドラマクイン』を批判しているツイートを見たので、内容が気になって読んでみた。その感想です。
倫理観が危ういテーマではあるものの、まだ第1話しか更新されていないので今後の期待も込めて、ネタバレ込みで感想を綴っていく。
以下ざっくりとしたあらすじ(ネタバレ注意)
宇宙人が地球を救ってから、人間と地球人がともに住むようになった日本で、主人公・ノマモトは上司の宇宙人に暴力を振るわれながら劣悪な環境の工場で働いている。
地球を救った宇宙人を賛美する人類に辟易しているノマモトは、ある日同じ工場で働いている同僚の男・北見と意気投合し、宇宙人の悪口で盛り上がっていた。
そんなある日、上司の宇宙人が発火事故を起こして焼死してしまう事件が起きる。ノマモトは事件を目の当たりにしながら傍観していたので、仕事をクビになり、自宅で腹を空かせていた。そんなところに北見が宇宙人を殺害してしまったので死体処理を手伝ってほしいと訪問してくるのだが・・・。
かなり省略しているが、第1話の大まかな内容はこんな感じである。
短絡的な登場人物
作中に登場する宇宙人は移民の風刺であり、排外主義的な思想を肯定しているのではないか、と問題にしている意見も見受けられたのだが、私は何よりも北見の短絡的思考に衝撃を受けた。
自分たちの生活圏で害をなす宇宙人に憎しみを抱く流れは、まだ理解できた。
ノマモトは未成年で、冷房も無しに暑い職場で低賃金で働かせて、あまつさえ暴力も振るう上司や、道でぶつかって鼻血が出るけがをしていても謝罪しない宇宙人に対して、「正しくない」感情を持っていることを自覚している。多数の人類が隕石の衝突から地球を救った宇宙人に感謝しており、確かに恩恵は受けているけれど、宇宙人なんてみんな消えてしまえばいい、とどうしてもノマモトは考えてしまう。
そしてそんな自分を「惨めだ」と客観的にとらえており、ここは良い表現だと思った。
問題は、同僚の北見である。
彼は「家族を宇宙人に殺された」と言っており、宇宙人が乗っていた高級車が逆走して事故を起こし、家族が亡くなったらしい。彼は「あれはきっと飲酒運転だ。犯人は逃走。警察も探そうとしない」と嘆いている。
彼の境遇には同情できるのだが、その後「宇宙人が肘を顔にぶつけてきて謝罪せず喚いていたので殴り殺した」という殺害動機に関しては、全く擁護できないのだ。
宇宙人のせいで家族が事故で死んだ点と、職場でも宇宙人にこき使われているという点で彼は宇宙人を憎んでいるけれど、それだけで偶発的にぶつかってしまった宇宙人を殴り殺すというのはさすがに短絡的すぎないか?と、そこが一番引っかかってしまった。
北見は、「宇宙人は人間ではないし、世の中が間違っているのだから殺してもいい」という危険な思考回路で動いている。交通事故の犯人をたまたま見つけて復讐心から殺してしまった、なら理解できなくはないのだが、同じ種族という理由で宇宙人を殺すのはただのサイコパスである。
今後の展開
終盤の展開を読んでいて度肝を抜かれたのが、ノマモトの考えた死体処理は「宇宙人の遺体を食べる」ことだった。
結局、まともかと思っていたノマモトも頭のネジが飛んでいる奴だったのだ。
そして極めつけは、北見の発した台詞である。
「俺が殺してお前が食う その繰り返しでいつか本当にこの街の宇宙人みんなスッキリ消えるかもな」
最後まで読んで、「この漫画の目指すゴールってそこ?」と衝撃を受けた。 まさかの、ゆるやかに宇宙人殲滅を目指す漫画だった。
この倫理観が危ういキャラクターでストーリーを展開するのは相当な茨の道だと思うのだが、作中で言及されていた「宇宙人は、最初から平和的な侵略を果たすために自作自演で隕石を落としたのではないか」という内容は光るものがあるし面白いと思う。ある意味今一番目が離せない漫画なので今後も楽しみに更新を待つつもりだ。
私は実在の事件とフィクションを結び付けて批判する気は無く、あくまでもサイコパスコンビの暴走を楽しむ作品と割り切っている。
というか、作者は最初から移民問題を批判する意図で作っていないのではないかと思うし(もしそうだとしたらあまりにも思慮が足りていないのでそれはそれで問題)、藤本タツキ作品に影響を受けているのは明白なので、露悪的な作風で独自の面白い漫画を描いてくれたら良いなと思う。