「帝国」とは①

世界史に幾度となく登場する「帝国」。しかし、それらの政治体は何をもって「帝国」なのか。「王国」や「共和国」と異なり明確な定義のない「帝国」。その実態を紐解いていく。

●継承権を持つ政治体

主に中世から近世にかけての政治体には、古代に絶大な権力と領土をもった政治体の後継者としての役割を果たすものが存在した。中世や近世における「帝国」には、そのような政治体が当てはまることが多い。そのような帝国は、主に①ローマ帝国②中華帝国③イスラーム帝国④ユーラシア遊牧民帝国⑤インカ帝国に分類される。

例)①ローマ帝国、西ローマ帝国、西ローマ帝国(フランク王国)、神聖ローマ帝国、ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、東ローマ帝国(ビザンツ帝国)、第一次ブルガリア帝国、第二次ブルガリア帝国、ニカイア帝国、トレビゾンド帝国、ラテン帝国、モスクワ大公国、ロシア帝国 ②秦、漢、魏、晋、隋、唐、宋、元、明、清 ③初期イスラーム共同体、ウマイヤ朝、アッバース朝、後ウマイヤ朝、ファーティマ朝、マムルーク朝、オスマン帝国 ④匈奴帝国、柔然帝国、突厥帝国、ウイグル帝国、契丹帝国(遼)、モンゴル帝国、元、チャガタイハン国、キプチャクハン国、イルハン国、ティムール帝国、後金、清 ⑤インカ帝国

●近代的な皇帝位を擁する国家

ナポレオン1世の戴冠によるフランス帝国成立により、近代的な「帝国」が誕生する。これらの帝国の特徴としては、主権国家であることや、時の権力者が皇帝を称することによって成立するなどがある。また、前近代の帝国概念を継承している国家も、主権国家であるものは近代的な皇帝位を擁する国家といえる。それらの国家は、継承権を持つ政治体としてその枠組みを保ちながら、国際的には近代的な主権国家として存在したのである。

例)フランス帝国、ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、ロシア帝国、大日本帝国、大清帝国、中華帝国、大韓帝国、大南帝国、インド帝国、エチオピア帝国、ハイチ帝国、メキシコ帝国、ブラジル帝国、パフラヴィー朝イラン帝国、中央アフリカ帝国

●帝国主義的な植民地帝国

帝国主義的な国家は、宗主国が王国や共和国であっても、その植民地を含み、その性質から帝国と呼ばれる。 

例)ポルトガル海上帝国、スペイン帝国、オランダ海上帝国、第一次フランス植民地帝国、スウェーデン植民地帝国、ノルウェー植民地帝国、デンマーク植民地帝国、大英帝国、第二次フランス植民地帝国、ベルギー植民地帝国、ドイツ植民地帝国、イタリア植民地帝国、大日本帝国

●古代オリエントの帝国 

オリエント地域に古代に興った政治体は、その性質から帝国と呼ばれるものが多数ある。また、オリエント地域には、「ペルシア帝国」という継承権を持つ政治体となりうる帝国概念ができつつあったが、イスラームの拡大によってそれは阻止されたため、古代オリエントの帝国に含むこととする。

例)アッカド帝国、バビロニア帝国、アッシリア帝国、ペルシア帝国(アケメネス朝、アルサケス朝、サーサーン朝)、ヘレニズム帝国(アレクサンドロス大王の帝国、セレウコス朝、バクトリア)


●帝国的性質、帝国的イメージを持つ国家

その実態は帝国でなくとも、その覇権や勢力範囲を指して、帝国と呼ぶことがある。

例)アテナイ海上帝国(デロス同盟)、北海帝国、アステカ帝国、オマーン海上帝国、バルト帝国、トンガ帝国

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