タバコが吸えたら

人と無駄話するのが苦でなく、数字どれが好き？レベルの話もわりとずっとできる。

答えの無い話をダラダラ追求するのが好きで、働く理由だとか、あいつってウザいけどじゃあウザい理由って何だろ？とか、このアニメって超面白いけど何が心を震えさせるんだ？とか自分の頭が悪い分、そういう「答えの追求」的な話を人と延々とするのが死ぬほど好き。長い話の末答えに辿り着くとまるで自分が頭が良くなったかのように思えるからってのがある。

また、ことお笑い芸人ってのは皆お喋りが上手で、人として大好きな人がたくさんいるので、僕は楽屋に永久にいれる。
飯と飲み物が目の前に自動的に供給されるのであれば家に帰りたくない。芸人と話すのが楽しすぎるからそれくらい永久にいれる。とか言ってるが、単に寂しがり屋なだけかもしれない。

そんな芸人と喋るのが楽しい僕がずっと後悔してることがある。それは、

「タバコが吸えないこと」

芸人はとんでもない数の喫煙者が存在する。

今これを読んでるあなた。

1人芸人を思い浮かべてください。
その人、吸ってます。
2人目、思い浮かべてください。
なんとその人も吸ってます。

偶然ピュートを思い浮かべた人。
その2人は吸ってません。針の穴通しましたね。

ただそれくらい多いし、なんせ僕がお世話になってる先輩はもれなく皆吸ってる。
よく楽屋の喫煙室に行ってだべってる。

一方僕は酒もパチンコも好きなくせにタバコだけは手を出さない。
タバコってのは酒の席で語らう時に皆で吸うと場の
連帯感を作るのに一役買う。
タバコってのはパチンコで大当たりした時に周囲の客にクール装って無表情でドヤ顔したいという矛盾した願望をどてかいひと吸いに込めて煙を放つことでそれを叶えてくれる。

どう考えてもタバコは酒とパチとの親和性がど高い。
でも僕は一切吸わない。こんなやついない。
だから僕はここに“いる”のに“いない”という奇跡が発生している。

タバコを吸う人に聞いたら家族が吸ってると喫煙のハードルが下がるから吸う人が多いらしい。
僕の家族は誰1人吸わない。
昔爺ちゃんがベビースモーカーだったらしいけど、孫のぼくが可愛すぎてこの世に爆誕した瞬間、即やめたらしい。

さらに一番吸い始める人数が多いであろう大学時代の友達も僕の周りの奴らはたまたまタバコ吸うやつが少なめだったので、喫煙者による「吸ってみる？」の定番の誘惑が全くなく、ちょーーーーーど誘惑の網の隙間すり抜けて今日まで生きてしまった。

僕は楽屋とか飲みの場で皆と話すのが大好きだけど、このタバコを吸えないことによる、芸人と仲良くできる機会損失がハンパじゃないなと最近痛感した。

先日も先輩との飲み会にご一緒させて頂き、3日連続で喫煙者全員が喫煙所に移動し、僕だけが席にひとりぼっちで座るダークネスゾーンを生み出してしまった。

健康上吸わないことの方が良いことなのに、吸ってねぇやつの方がなんか異端でキモいみたいな異次元が発生したのは震えた。

別の日楽屋でもあった。めちゃくちゃゴシップが盛り上がってて話のピークに差し掛かったところでゴシップ言い出しっぺの大ちゃんと笹本さんがこっからは喫煙所で話そうと言い出した時のショックったら無かった。

急にトークの続きを試聴する方法がタバコによる課金制になったのは非喫煙には残酷な世界だった。

思い出せばあの時もこの時もタバコ吸えたらもっと早く知り合えたり、仲良くなれたかもしれない人が沢山いる。
最近じゃ吸わないのに喫煙室行くみたいなむちゃくちゃなことしてる。

ただもう今から吸う勇気は僕には無い。

若気の至りでカッコつけるために吸いたくても、もう今年32歳では至る若気は無い。
日々に忙殺されてふと手を出してしまうみたいなことも無い。だってストレスの発散は”風呂”か”寝る”の２つが最適解だと言うことに32年生きて辿り着いてしまったので。

つーか32歳にして、初めてタバコ吸ってむせる姿は恥ずかしいよ。見てらんないよ。

ただ、それでも、憧れは止まんなかった。
ある日家に帰ってソファに座って存在しない透明のタバコを手にして、二本の指で透明タバコを挟み、透明なライターを手で覆いながら透明な火をつけ、思いっきり肺に透明なヤニをぶち込み、透明な煙を宙に放ってみたことがある。

なんかあり得ないくらいリラックスできた。とんでもなく落ち着いた。一服とはこういうことかと。そう僕には喫煙の才能あったのだ。

そう思って、次の日ライブで一緒の大仰天の田口にその話を嬉々としてしたら


「ただ深呼吸して落ち着いただけじゃないっすか？」

と揺るぎない目と声で僕に教えてくれた。

ンフフwと恥ずかしく笑って早く僕自身が透明になっちゃいたかった。