消火戦術
消防の火災戦術には、火災現場の状況に応じて迅速かつ効果的に火災を制御・鎮火し、被害を最小限に抑えるためのさまざまな手法があります。以下に、主な火災戦術を具体的に説明します。
---
### 1. **基本的な火災戦術**
#### **① 火災の種類ごとの対応**
火災の種類によって適切な戦術を選択します。
- **A火災(普通火災:木材、紙、布など)**
水を使用して冷却し、燃焼を抑制します。
- **B火災(油火災:石油、ガソリンなど)**
泡消火剤や粉末消火剤で酸素を遮断します。水は使用しません。
- **C火災(電気火災)**
電源を切り、二酸化炭素消火器や粉末消火剤を使用します。
#### **② 迅速な火点攻撃**
- 火災の「火点(出火元)」を素早く特定し、直接攻撃することで火災を早期に制圧します。
- 主にホースラインを使用して集中的に放水。
#### **③ 燃焼拡大の防止**
- 火災の延焼を防ぐため、火が広がる可能性のある方向(風下や建物内部)に防御ラインを構築します。
---
### 2. **消火戦術**
#### **① 内部攻撃(インテリアアタック)**
- 建物内に消防隊が進入し、火元を直接攻撃する方法。火災の早期鎮火に効果的ですが、安全確保が最優先されます。
- **戦術:**
- 高熱や煙に対応するための防護具と熱画像カメラを使用。
- 階段や窓を利用しながら、進入経路を確保。
#### **② 外部攻撃(エクステリアアタック)**
- 外部から放水し、火勢を弱める戦術。建物内への進入が困難な場合に用いられます。
- 特に**ブリッツ攻撃**(大量の水を短時間で集中放水する方法)で火勢をコントロール。
#### **③ 防火帯の構築**
- 延焼を防ぐため、周辺建物や構造物に水をかけて冷却します。
- 森林火災の場合、火の進行方向に障害物を設置することもあります。
---
### 3. **換気戦術**
#### **① 自然換気**
- 窓や扉を開けて、火災現場から煙や熱を排出し、視界を改善。
- 風向きや周囲の構造を考慮して行います。
#### **② 強制換気**
- ファンや送風機を使用して煙を排出する方法。視界の確保や内部攻撃の支援に有効です。
- **プッシュプル換気:** 火災現場から煙を押し出すと同時に新鮮な空気を送り込む。
---
### 4. **救助戦術**
#### **① 人命優先**
- 火災現場では「人命救助」が最優先されます。まずは避難が困難な人々を特定し、安全な場所へ移動させます。
- **部屋の検索:** サーマルイメージャーを使用して視界の悪い場所でも迅速に救助対象を発見。
#### **② 水平避難と垂直避難**
- 水平避難(同一フロアで安全な場所へ移動)と垂直避難(階段やはしごで上層または下層へ移動)を状況に応じて選択。
---
### 5. **特殊な火災戦術**
#### **① 大規模火災への対応**
- 複数の消防署や応援隊と連携し、統一指揮システム(ICS)を使用して組織的に対応。
- ヘリコプターやドローンでの現場状況把握。
#### **② 危険物火災への対応**
- 危険物(化学物質、ガスなど)が関与する場合、専用の防護具と消火剤を使用し、安全距離を保ちながら鎮火。
#### **③ 高層ビル火災**
- 消防用の連結送水管を使用して高層階に水を供給。
- エレベーターの使用を避け、階段を通じて隊員が移動。
#### **④ 地下火災**
- 高温で煙がこもりやすい地下火災では、換気が最優先されます。強制換気や特殊装備を活用。
---
### 6. **防御戦術**
#### **① バックアップラインの構築**
- 延焼リスクが高い方向に放水を行い、防御ラインを確保。
- 風向きや周囲の構造を考慮して配置。
#### **② 被害最小化**
- 延焼を防ぎつつ、火災の影響を受ける可能性がある重要な物品や設備を保護。
- 例えば、美術館や図書館では対象物に直接放水せず、他の手法を使用。
---
### 7. **訓練と計画**
#### **① 戦術的訓練**
- 火災現場で使用する技術を事前に習得し、隊員間で統一した行動を取れるようにする。
#### **② プレプランニング**
- 建物の構造や火災リスクを事前に調査し、火災発生時に迅速に対応できるよう準備。
---
### まとめ
消防の火災戦術は、火災の種類、規模、現場環境に応じて多岐にわたります。人命救助を最優先に考えながら、効率的かつ安全に火災を制圧し、被害を最小限に抑えることが目標です。訓練や技術向上を通じて、状況に応じた柔軟な対応ができる消防力を維持することが求められます。