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国民民主党の政策「103万円の壁の見直し」の真の目的

先日の第50回衆議院議員総選挙で、比例名簿登載人数が足りなくなってしまうほどに小選挙区での当選者を増やすなどの大躍進を遂げた国民民主党。

そんな国民民主党の今回の政策公約の一丁目一番地とも言えるのが『手取りを増やす』という非常にシンプルなもの。

「おまいらは何を言っいるんだ!」と思われるかもしれないが、自民党の「ルールを守る」とかいう小学校の学級目標レベルの政策なんかよりも遥かにマトモだし、比べるのも失礼な話である。

『手取りを増やす』という手法として、基礎控除の合計額を103万円から178万円に引き上げることを挙げている。



■最低賃金と年収の壁の変遷

最低賃金と年収の壁については、過去にnoteで纏めた事がある。

【年収の壁】と一括りにされているが、税金の壁(100万円・103万円)、社会保険料の壁(106万円・130万円)、配偶者控除系の壁(150万円・201万円)と、複数の壁が複雑に絡み合っている。

また、【扶養】についても、『税法上の扶養』と『社会保険上の扶養』と、複数の扶養が複雑に絡み合っている。


◎最低賃金(全国加重平均)
・1995年10月……611円
・2024年10月……1055円
 ⇒30年もの間に1.727倍になった。

◎「給与所得控除」と「基礎控除」の合計額
・1995年……103万円(給与所得控除65万円+基礎控除38万円)
・2024年……103万円(給与所得控除55万円+基礎控除48万円)
 ⇒30年もの間に1.000倍。
つまり。1995年に合計103万円になって以降は1円も変わっていない。

最低賃金は年々増えてきているのに、【年収の壁】は30年も動かないまま。
これでは、働きたくても、壁を意識するあまり、シフトを無理やり削らなくてはならなくなる。

年収の壁など気にせず、ドンドン働いて収入を増やしていった方がよいという意見があるが、それは確かにごもっともである。
だが、何らかの事情で【年収の壁】を気にせざるを得ない人もいるだろうし、そこは人それぞれのライフスタイルの違いもある。

国民民主党の政策は、そこにスポットを当てたものと理解している。



■岸田内閣と国民民主党の公約は似て非なるもの

【年収の壁】の話題になると、岸田信者からは「年収の壁は既に岸田内閣で取り組んでいる」と反論する。

だが、それは半分正解だが、半分は誤りである。


岸田内閣が取り組んだのは、『社会保険料の壁』(106万円・130万円)に対するもの。
「手取りを減らさない取り組みをする企業」に対する補助金支援制度。
 ⇒取り組みをしていない企業には支援されない。
 (103万円の壁の所得税分も含まれているかどうかは不明)
・事業主証明によって扶養から外れないようにする仕組み。
支援を受けるためには申請手続きが必要。(労働局、ハローワーク)
 ⇒使い勝手が悪く、複雑でわかりにくく、事務負担も大きくなるため、ハードルが高い。
・申請した企業に対して補助金を支援し、パートやバイトなどの該当者にキックバックする仕組み。

この手の政策パッケージは、なかなか一般的には知られていないものである。今もこの存在を知らない人は多いのではないか。知っていても面倒くさくて心折れて諦める人なんかもいるのでは。
知っている人は得をするかもしれないが、知らない人は損をする仕組みとなっている。

https://www.gov-online.go.jp/article/202312/entry-5288.html



一方で、国民民主党が公約として掲げたのは『所得税の壁』(103万円)に対するもの。
所得税法(28条・86条)の改正が必要。
 ⇒基礎控除を引き上げて所得税の壁を計178万円に緩和。
・基礎控除の引き上げにより、低所得者だけでなく一般労働者も所得税減税の恩恵を受ける。
 ⇒手取りが増える!
・減税の恩恵を受けるための特別な申請手続きは不要。

所得税法を改正すれば、労働者側で何か特別な申請手続きは必要なく、いつも通りに年末調整や確定申告をすれば済む。当たり前に記入していた基礎控除欄の金額が変わるだけ。

何より、103万円の壁を意識せず、親の扶養控除云々を気にすることもなく、11~12月の繁忙期に意図的に働き控えをする(シフトを削る)こともなく、無理なく気軽に希望通りに働く事ができるようになる。
意図的な働き控えによる急な人手不足に陥る事もなく、労働力の確保に繋がる。
岸田内閣が年収の壁政策に取り組んだ最大の理由でもある。



両者は、【年収の壁対策】と一括りにされているが、両者の政策内容は似て非なるものであり、
岸田信者からの「年収の壁は既に岸田内閣で取り組んだものだ」という批判は当たらないものである。


但し、国民民主党のこの政策には注意事項もある。
所得税の壁を「103万円→178万円」に引き上げると、106万円・130万円・150万円の壁を一気に飛び越えてしまうため、
【年収の壁】は一括りにワンセットで議論していかなければならないだろう。
全ての壁を75万円ずつ引き上げるのか、それとも何か特別な方法を取るのか。

今後の動きに注目される。



■早速、マスコミが非難に動いた

国民民主党の政策が行われた場合、国と地方の合計で7.6兆円もの税収減になる見通しであると政府(財務省)が試算したようだ。

「7.6兆円も税収減になると財源が無くなって大変だ!」
「地方財政はどうなってしまうんだ!」
と、財務省や増税派は言いたいのだろう。

だが、その7.6兆円は溶けて無くなるわけではなく、市中に留まっているお金である。そのまま国民の手取りとなって増え、消費や投資を促進させるわけだ。


更に、この手の話題になると、「納税額の多い高い高所得者ほど効果や恩恵が大きいのではないか」と言う者が湧いてくる。
【年収の壁】問題を、高所得者の所得控除にすり替えて、税収減と財源論を煽るという相変わらずの手口である。

だが、年収2300万円を超えるほどの高所得者は元々高額納税をしており、そこから約38万円が減税されたところで大した減税効果にはならないし、公平感が損なわれる事もない。

しかし、年収500万円のサラリーマンにとって約13万円の減税効果が生じるのは非常にありがたいものだ。月額平均1万円超の所得税減税だ。

所得控除で増加する金額自体は高所得者に恩恵が大きいように見えるが、手取りに占める割合で考えると、低所得者の方が大きな恩恵を受ける事がわかる。


■恒久財源など存在しない。

減税の話題になると、必ずと言っていいほど「財源は?」などという財源論が湧き上がる。マスコミあたりがいかにも好んで煽りそうな事である。

だが、増税の話題になっても、「国民の財布の財源は?」とはならない。全く以て不思議でしょうがない。

基礎控除を上げて所得税減税をすれば、確かに所得税による税収は減るだろうが、
手取りが増える事によって、買い物に対する意欲が湧き、消費行動となって表れるところまで考えていない財源論者が多いのは何故だ???

やたらと財源論を煽る者がいるわけだが、「恒久財源」とかいう都合のよい財源システムなんてこの世には存在しないし、「恒久財源」となり得るエビデンスは何もない。

財源論者は、可処分所得の増加による消費需要効果については一切語らない。いかに単一的にしか物事を見れていないかがわかる。財源ばかりを気にしていたら何もできなくなる。

壁を動かす事で所得税収は減少しても、
消費行動が促される事で消費税収や法人税収は増加する。

そこんところをトータルに見て考えるべきだ。


■日本国憲法第25条「生存権」

「基礎控除」の精神は、日本国憲法の第二十五条にある。

賃金が上がったり物価高になったりするなど、30年前とは国民生活がかなり違ってきた現代において、
「健康で文化的な最低限度の生活」に必要な金額が103万円(=55万円+48万円)のままというのはどうなのか。
この金額を引き上げ、そこに税金をかけずに済む制度を作るのは、憲法を尊重し擁護する義務を負う国会議員の立法府としての責務だ。

せっかく時間あたりの最低賃金が上がっても、国民が最も意識している「103万円の壁」(所得税扶養控除)に阻まれてしまっては意味がない。



■「103万円の壁の見直し」の真の目的

この政策の真の狙いは、【年収の壁】を利用した『所得税減税』である。
『所得税減税』については、筆者が何年も前から主張し続けていた事である。
「現役世代の負担を軽減するには、所得税減税が最も効果がある。」
「消費税減税よりも、所得税減税のほうが遥かに効果がある。」
…と、何度も言ってきた。

従って、国民民主党のこの政策については、筆者も強烈にプッシュしたいと考える。

もしも、これを実現させる事ができた時には、過去の安倍総理に対する非礼は水に流してもいいとさえ思っているほどだ。


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