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楠本奇蹄『おしやべり』
奇蹄さんの『おしやべり』は、第11回百年俳句賞最優秀賞を受賞した作品をまとめたミニ句集です。オンラインショップ(正規ルート!)では完売しているようです。間に合ってよかった~~~!
奇蹄さんの句については、随分前から一貫して同じことを言ってるわたし。それは「わかる/わからない」によって左右されないということ。それから、意味が正確に把握できないときに感じる「わからない」にも不思議な心地よさがあることです。
それが俳句の奥深さであり、表現できることのひとつでもあると感じます。奇蹄さんの句を読むと、しみじみと「俳句っておもしろいな」と思います。
ここからは好きな句の感想を書いていきたいと思います。
共感にすこし汚れて葱畑
汚れているのは自分自身かもしれないけれど、共感そのものにも汚れ(きず)があるのではないでしょうか。それは葱畑の土汚れのように、自然とついているような類の。
夏蜜柑切つて夜空はうまれたて
銀木犀ちひさく夜空そらんじる
夜空の句がかわいい。夏蜜柑のほうは「うまれたて」という言葉が夏蜜柑の果汁と相まってフレッシュです。銀木犀の句は、なにか唱えているんでしょうか。「そらんじる」の中身を想像して楽しくなる句だなと思いました。
葡萄吸ふ口して秘密わかちあふ
くちびるをむさぼる冬の木になつて
今度はセクシーと言いますか、色っぽい句を並べてみました。どちらも「口(唇)」にフォーカスしていて、ドラマチックな景になっています。
この葡萄は巨峰かナガノパープルか、とにかく紫色のほうではないかと思っています。マスカットだとちょっと明るくて、秘密がかわいくなっちゃうなぁ、と思って。どっちでもいいんですけどね。かわいい秘密だったら申し訳ないんですが、わたしは人に言えないような秘密のほうを想像しました。
冬の木の句は、木になってむさぼるってなんだろう、と思わなくもないんですが、人から見れば冬の木だと。誰の目も気にしない、みたいな大胆な行動なのかな、と思いました。
もう一句、唇の句がありました。
妻も子も捨てぬくちびる花の雨
この「くちびる」は約束をする、ということでしょうか。さっきの2句とは違い、「花の雨」の風景と「妻も子も捨てぬ」という固い決意のような語り口が印象に残りました。
最後に、一番好きな句の感想を。
画家はもう渦を描かずに冬日和
渦というとゴッホの作品を思い出しますが、この画家は誰でもいいと思います。実際、渦を描く画家もいらっしゃいますし。この画家は、冬日和をようやくゆったりとおだやかに楽しむことができるのではないでしょうか。表現の世界から放たれて自由になる姿、ありのままの姿がぽつんと浮かんでくるようで、それが冬日和の温度感、陽だまりの心地よさを感じて好きでした。
奇蹄さんの連作はパッチワーク作品のようだと感じます。ひとつひとつのパーツは柄も形も違うけれど、遠目で見ると大きなひとつの作品になっている。連作ってそういうものだよ、と言われたらおしまいなんですが、その「大きなひとつの作品」の色味であったり、温度であったりが、とても心地よく感じるし、それでいて圧倒されてしまうんですよね。
圧倒されると言っても威圧感があるわけじゃないんです。だからこそ、すんなり怖がらずに読めるのかな、と思います。
奇蹄さんは第41回 兜太現代俳句新人賞を受賞されています。近いうちに句集が読めることが、一ファンとしてとても楽しみです。句集を手にする日まで、しばしこのミニ句集と発表されている作品を読んで楽しみに待とうと思います。
それでは今回はこの辺で。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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