英語民間試験についての私見②導入に対する反対意見(2)

では、続編を書いていきます。

前回紹介した資料で挙がっていた

(1) 民間試験を大学入学共通テストの枠組みで実施する上での問題点

につき、補足を加えていきます。


(1) 民間試験を大学入学共通テストの枠組みで実施する上での問題点

①学習指導要領と整合しない試験を共通テストに用いることになる。

まず、議論の前に学習指導要領の性質を整理する必要があります。

文部科学省HPによると、学習指導要領とは「それぞれの教科等の目標や大まかな教育内容」です。

そして、英語民間試験ではよくこの「学習指導要領の逸脱」が指摘されるところですが、もともと文部科学省は、学校教育での指導要領の逸脱を厳密に禁じているわけではありません。

第1章 総則
第6款 教育課程の編成・実施に当たって配慮すべき事項
2 各教科・科目等の内容等の取扱い
(1) 学校においては、第2章以下に示していない事項を加えて指導することもできるが、その場合には、第2章以下に示す教科、科目及び特別活動の目標や内容の趣旨を逸脱したり、生徒の負担過重になったりすることのないようにするものとする。

つまり、学習指導要領というのは、教員が最低限学校で教えなければならない事項・目標であり、それに+αする形での教育は(生徒の負担過重でない範囲で)従来から認められているのです。


そもそも、「高校卒業程度の学力」と、「大学進学レベルの学力」は、我が国では昔から明確に分けられています。

高校操業程度と認められるのは「高卒認定試験(公認、旧:大検)」レベルであり、昨年まで実施されていたセンター試験と比較し明らかに簡単なものです。問題を比較すると一目瞭然と思います。

このことからも、大学入学に必要な学力は「最低限の学習内容+α」であることは従来から明らかなことで、英語民間試験のみがこの問題を抱えているわけではないことが確認できます。


②経済的負担が大きく、受験機会の公平性に欠け、地域格差・経済格差を助長する。

英語民間試験はその受験料の高さがやり玉に挙げられています。

上記の記事でも、「最も受験料が高額なTOEFLを2回受験すれば、それだけで5万円以上の負担となる」と述べられています。

さすがにこの記事は誘導的ではないでしょうか。最高額となる試験を引き合いに出し、制度全体を否定するのは賢明ではないと思われます。

通常の教員・保護者・受験産業に関わる者等であれば、受験料が安価で参考書も豊富にあり、高校英語との親和性も高い英検を推奨すると思います。

仮に3回英検を受験しても、多くの高校生が受けるであろう準1級以下で計算すると、受験料の合計額は、3万円を下回ります。

確かに、受験料を負担するのが心底難しい世帯は、この国に存在すると思います。しかし、3万円ほどの金額を用意できない世帯は、高校生の子を持つ全世帯の何%でしょうか。おそらく、大多数ではないはずですし、個別にそのような世帯に対する救済政策を行うことも十分可能だと思います。

また、貧困家庭が存在するという問題は、教育政策というよりも社会保障政策の課題ではないでしょうか。文部科学省に全ての責任を転嫁するのは酷と思われます。

加えて、離島等の受験生には受験補助のための予算が計上されているのですが、なぜかメディアは積極的に取り上げません。

③出題・採点の質および公正性の保証が事業者任せになっており、実態が不明である。

確かにこの指摘は一部試験に妥当すると思われます。センター試験は後日回答が公開されてきました。英検については回答が後日主催者により公表されますが、他の民間試験では公表されてません。

ただし、英語民間試験は既に国内でも学部・大学院入試で採用されているほか、欧米への留学の要件とされている等、一定程度の信頼と実績を積み上げていると解釈することができます。

また、英語民間試験はセンター試験と異なり、納得いかなければ複数回受験する機会が与えられていることを踏まえると、受験生の人生を取り返しがつかないほど揺るがしうる程度の問題か否かは議論の余地があると思います。

④目的も実施方法も異なる試験の点数を公平に評価することはできない。

これについては、各大学の裁量によればいいと思います。従来から、公立の国際教養大学は、英検準1級取得者をセンター英語満試験点とみなして採点を行ってきました。しかし、それに対し上記のような批判が出たと聞いたことはありません。英語民間試験をどのように活用するかも含め、大学の自治と考えることもできます。

⑤機密保持や不測の事態への対応が業者任せになっている。

大学入試センターのセンター試験も、機密保持や不測の事態への対応は大学が負うものでなく、独立行政法人 大学入試センターが負うものです。また、現行試験でも不祥事があった場合は、最終的に文部科学省が監督責任を問われますが、私企業に事業委託してもその構造が変わるとは考え難いです。

よって、上記は現行の制度にも妥当する批判であり、英語民間試験のみ特有の課題ではありません。

ただし、万が一情報漏洩が発生した場合は、再発防止策を策定することはもちろんのこと、被害が甚大な場合や改善が見込めない場合は、試験実施事業者として不適格と認定すべきです。


かなり長くなりました。読んで頂きありがとうございました。

しかし、まだ続きます…

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