あこがれの救助隊‥だった
救助隊「レスキュー」といえば消防の花形。
レスキューにあこがれ、消防士を目指したという職員は大勢います。
しかし、最近の若い職員からは救助隊はあまり人気がないのです。
わたしの消防本部では以前、「救助隊員試験制度」を導入する案が上がりましたが、救助隊員の希望者が少ないことを理由に中止されました。
若い職員に、そのことについて話してみると、救助隊のイメージは
「すごく厳しそう」「偉そうにしている」など…
とにかく救助隊の評判が悪かったのです。
その若い職員は
「もともとは救助隊に憧れていたのに…」
と残念そうに言っていました。
救助隊のマウント合戦
このことについて、現役の救助隊員に話を聞いてみると
「救助隊は知識の競争があって、マウント合戦が絶えない」
とのこと。
その良くない風潮が悪影響を及ぼし、
救助隊への嫌悪感になっているのだろうとのことでした。
救助隊のマウント合戦は現場でもあるようで、ある日の救助出動のこと…
複数の車がからんだ交通事故が起き、所轄の救助隊と本部直轄の救助隊が出動しました。
事故現場に先に着いた所轄の救助隊長が、
「本部救助が来るまでに活動を終わらせるぞ」
と隊員に呼びかけていたらしいのです。
本部救助は普段から署の救助隊を指導する立場で、いつも上から目線の指導方法だったらしく、手柄をとられたくなかったようです。
この日も所轄救助が活動中に、本部救助隊からは
「状況報告しろ」
の無線が何度も入り、先着の救助隊長は、感情的になっていたようです。
マウント合戦の中でも慕われる人
救助隊長は、いつも上から目線でマウントをとってくる本部救助に嫌な思いがあったのでしょう。
マウントを取りにくる人の心理は
「弱い自分を隠したい」
「周りに自分の方が優位だとアピールしたい」などです。
女性職員が増えてきたとはいえ、まだまだ男社会の消防では他の組織より
「自分を強く見せよう」
とする心理が強く働きます。
しかし、消防でも周囲に慕われる人は
「自分の弱さをさらけ出せる人」です。
わたしが救助隊だったころ、会議などで知らないことがあると、いつも手を挙げて
「すみません。今のところ分からないので教えてください」
と周囲を視線を気にせず質問できる上司がいました。
この人は、質問する相手が自分よりも年下、後輩でも素直に
「教えてください」
と言える人でした。
この人は数年後、救助隊のトップに立ち、さらに組織のトップまで上り詰めました。
理想の救助隊
救助隊のあるべき姿は、けっして
「若手が過ごしやすいぬるい環境」
ではありません。
厳しい環境は必要。その中でも隊員が協調して、連携できる、職場に笑いがあって活気がある。
そして「誰でも発言できる」環境であるべきです。
憧れの消防士になれても、実態を知り、幻滅し、辞めていく若い職員が毎年います。
わたしの消防本部でも、20年前に比べると離職率は確実に上がっています。
コミュニケーション強化のための研修やメンタルヘルスサポートの導入も必要だと思いますが、組織を動かせる上層部の職員は、現場で働く若い職員と対話をする機会を持たなければならないと思っています。