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FIP治療における第一選択薬
猫の飼い主さんのみなさんこんにちは。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)の治療に関する重要な情報をシェアしたいと思います。
この記事は、獣医のサマンサ・テイラー氏が執筆した
英語の記事:Information on first choice of medication for the treatment of FIPを元にしています。
FIPの治療法として利用される薬について、最新の研究結果に基づいた情報をお届けします。
(参照元の記事は英語になりますが、最後にまとめていますのでご参照ください)
FIPは猫にとって非常に重篤な病気ですが、近年では治療方法が進化しています。
特に、GS-441524という薬が注目されています。この記事では、FIPの治療における第一選択薬とその効果、副作用について詳しく解説しています。これからFIP治療を考えている飼い主の方々や、すでに治療を受けている猫の飼い主の皆さんにとって、有益な情報となれればと思います。
FIP治療における第一選択薬に関する情報
執筆者:サマンサ・テイラー (Samantha Taylor)
BVetMed(Hons) CertSAM DipECVIM-CA MANZCVS FRCVS
一部の国では、FIP(猫伝染性腹膜炎)の治療に利用できる合法的な薬がいくつかあります。これらの薬には、GS-441524、モルヌピラビル(EIDD-2801)、そしてモルヌピラビルの活性型であるEIDD-1931が含まれます。これらの薬が有効であることは、さまざまな研究結果から示唆されていますが、GS-441524の選択肢がある場合は、GS-441524が最も推奨されています。
理由として、GS-441524は他の薬よりも少し効果的であり、猫の体にも優しく、耐性が低いためです。
GS-441524の副作用は少なく、報告されている主なものは、ALT(肝臓の酵素)の上昇、好酸球の増加、リンパ球の増加などです。治療の成功率は約85%以上と高い実績があります。
一方、モルヌピラビル(EIDD-2801)やEIDD-1931には、副作用として肝障害、汎白血球減少、耳の先端が折れる、食欲不振などが報告されています。さらに、これらの薬には催奇形性のリスクがあるため、薬を取り扱う際は注意が必要です。
これらの副作用を踏まえて、モルヌピラビル(EIDD-2801)とEIDD-1931は、FIP治療において第二選択薬として利用されることが多いです。再発したり、治療効果がみられない猫には有効な選択肢となりますが、GS-441524が可能であれば、第一選択薬として推奨されています。
モルヌピラビル(EIDD2801)とEIDD-1931の違いは?
EIDD-1931は、プロドラッグであるモルヌピラビル(EIDD-2801)の活性代謝物で、広範囲に活性を持つリボヌクレオシド類似体です。
*プロドラッグとは、体内で活性化されて初めて効果を発揮する薬のことです。
モルヌピラビル(EIDD-2801)は、もともとコロナウイルス(COVID-19)の治療薬として人用に開発されたものです。作用としては、モルヌピラビルが体内に入ると、体内の酵素によって化学的に変化し、EIDD-1931という活性型の薬物に変換されます。この活性型のEIDD-1931が、実際にウイルスのRNA複製を阻害する働きをします。
モルヌピラビルはその効果が発揮されるまでにEIDD-1931に変換される必要がありますが、EIDD-1931はすでに変換されている状態の薬となります。
モルヌピラビル(EIDD-2801)が人用なのに対し、EIDD-1931は猫用に調整されたものです。
EIDD-1931はモルヌピラビルに比べて4倍ウイルス抑制効果が高く、1/3の毒性があるとされています。
(Niels C. Pedersen DVM, PhD, 2021)
EIDD-1931とGS-441524のFIP治療の効果の違いは?
FIPを専門とする獣医師たちは、FIP治療においていまだにGS-441524を「ゴールドスタンダード」として評価しています。これは、モルヌピラビル/EIDD-1931に関する研究の不足と、EIDD-1931の潜在的な副作用が理由です。
GS-441524の用量を増やすことは比較的安全ですが、EIDD-1931の用量を増やすことはかなりリスクがあります。COVID-19の治療を受けた人間においては、ウイルスのモルヌピラビル/EIDD-1931への耐性がGS-441524よりも早く発現するという証拠もあります。(Dr. Sally Coggins)
「GS-441524のような安全域はないようです。他の治療薬だと効果がなくてもさらに投与するということができませんが、GS441524では、かなり高い用量まで増やすことがよくあります。モルヌピラビルでは、猫が受けている実際の用量に関してもっと慎重になる必要があります。」
(Dr. Sally Coggins)
「私の好みは依然としてGS-441524です。他の治療薬よりおそらく安全な薬だと今でも思います。コストが問題でなければ、猫にはGS-441524を経口で続けさせます。」
(Dr. Sally Coggins)
モルヌピラビル/EIDD-1931には副作用がある?
「高用量で使用された場合、骨髄抑制による好中球減少が発生したケースがあります。また、ヒゲがもろくなる、肌の乾燥、吐き気、食欲不振、筋肉消耗、および『耳先が折れる』という報告がありますが、これは病気に関連している可能性もあります。」
(Dr. Sally Coggins)
参考文献
Reagan KL, Brostoff T, Pires J, Rose A, Castillo D and Murphy BG. Orally administered molnupiravir as a first-line treatment for naturally occurring effusive feline infectious peritonitis. J Vet Intern Med. 2024.
Sase O. Molnupiravir treatment of 18 cats with feline infectious peritonitis: A case series. J Vet Intern Med. 2023; 37: 1876-80.
Zuzzi-Krebitz AM, Buchta K, Bergmann M, et al. Oral GS-441524 results in equal efficacy in cats with FIP. Viruses. 2024; 16.
Taylor SS, Coggins S, Barker EN, et al. Outcome of 307 cats with FIP treated with GS-441524. J Feline Med Surg. 2023.
Coggins SJ, Norris JM, Malik R, et al. Treatment of cats with FIP using remdesivir and GS-441524. J Vet Intern Med. 2023.
Green J, Syme H and Tayler S. Thirty-two cats with FIP treated with remdesivir and GS-441524. J Vet Intern Med. 2023.
Roy M, Jacque N, Novicoff W, et al. Molnupiravir for cats with suspected FIP. Pathogens. 2022.
Waters MD, Warren S, Hughes C, et al. Human genetic risk of antiviral nucleoside analog drugs: The case of molnupiravir. Environ Mol Mutagen. 2022.
終わりに
FIP治療においては、GS-441524が一般的に推奨されており、モルヌピラビル(EIDD-2801)は副作用のリスクを考慮して第二選択薬とされています。治療方法については獣医師とよく相談し、猫にとって最適な選択を行うことが大切です。最新の研究を参考にし、愛猫の健康を守るために慎重に判断しましょう。
もし愛猫がFIPの兆候を見せたら、すぐに近くの獣医さんに連れて行って、正確な診断と治療を受けてくださいね。
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