シンシア様のお話(3)
ツヴェターエヴァの城下町。真夜中。
小さな家の2階で、少年が一人、ベッドのそばの窓から月をじっと見つめていた。ほおが赤くはれ上がっている。
祭りのパレードで手をふっている美しい城主を見たとき、
『ほら!あの人だよ!あの人が空を飛んでるのを見た!』
と叫んで、父親に思い切り殴られたのだった。周りの子たちがクスクスと笑い、弟と母親からは軽蔑の視線を浴びた。
僕はうそつきじゃない。
ほんとにシンシア様が空を飛んでいるのを見たんだ。
どうしてパパは僕の言うことを信じてくれないんだろう?どうしていっつも弟ばかりかわいがるんだろう。確かに弟のほうが魔力が強くて、先生にいつも褒められているけれど。ママは妹ばかりだっこして、ぼくが近づくと風で吹き飛ばされるか、皿洗いや床磨きを命じられるし……。
子供らしい不満で頭をいっぱいにしていると、月のそばを人影がよぎった。
少年が驚いて立ち上がった途端、影が消えた。
窓を開けて外を見回すが、人影はない。
「私を見つけるなんて、魔力の強い子なのね」
後ろから上品な声がした。少年が振り返ると、そこには、炎のような赤い髪に、光り輝くように美しい女性が立っていた。白いローブが光を放っていて、まるで妖精の女王のようだ。
「それか、勘がいいのか」
女王がベッドに近づき、ふわりと、音を立てずに座った。少年は驚きすぎて、背中を窓枠にぴったりとくっつけたまま動けなかった。窓がもう少し大きかったら、外に落ちていただろう。
「私が誰か知っているわね?」
少年は、窓枠に張り付いたまま、何度もうなずいた。
「私のせいでお父様に怒られたようね」
女王……シンシア・ツヴェターエヴァが、少年の腫れたほおに、ガラス細工のような白い手を伸ばした。少年の顔が真っ赤になった。
「誰も見ていないと思っていたわ」
美しい城主が、少し悲しげな笑顔を浮かべた。
「皆が寝静まった頃に、こっそり、町の様子を見て回っているの。私が昼間尋ねたら、みんなかしこまって、整列して、花や歓迎の品を用意して……大ごとになってしまうでしょう。でも、私は民衆の普段の生活が見たいのです。飾らない彼らの姿が。わかるかしら?」
少年はやはり、無言でうなずき続けた。うなずきすぎて首が折れてしまいそうなほどぶんぶん首を振った。
「だから夜中に空を飛んで、町を眺めているのよ。あなたが見たようにね」
「でもパパは嘘だっていうんだ」
少年がやっと言葉を発した。
「パパは弟ばかりかわいがって僕の言うことなんか信じてくれないんだ」
「どうして弟ばかりかわいがると思うの?」
「それは……」
少年は口ごもると、気まずそうに下を向いた。
「僕より魔力が高いから」
「私を見つけられなかったのに?」
シンシアがにっこりと笑った。少年もつられて笑った。
「魔力で気配を消していたのよ。優秀な城の兵士たちでさえ、空を飛ぶ私の姿は見えないはず。なのにあなたには見えているのよ。これがどういう意味か分かる?」
「でも、ハットン先生が『あなたには弟さんほどの魔力はありません』って言って……」
「私が母から教わったことを教えてあげるわ」
シンシアが立ち上がり、数歩歩いて、厳しい顔で振り返った。少年は弾かれたように立ち上がった。怖かったからだ。
「だれかが『お前には価値がない』と言っても、絶対に信じてはいけません」
絶対君主の目が、未来の家臣をとらえた。
「これは命令よ」
シンシアが表情を和ませた。子供相手に厳しい顔をしすぎたと思ったからだ。
少年もほっとしたように笑った。
「ツヴェターエヴァは、本来叔母様が継ぐ予定でした。その叔母さまが国外に逃亡したので、私の母が城主になりましたが、本来、ツヴェターエヴァは『長女』が継ぐものとされています。ですから、次女である母を正当な領主とは認められないと非難する人もいました。『家を相続するために姉を殺したのではないか』と噂するものまでいたのです。母に反発する家臣も多く、落ち着くまでは次の『長女』である私の代までかかったのです。心労で母は早くに亡くなりました……」
シンシアは一瞬遠い目をしたが、すぐ我に返った。子供にこんな話をするべきではなかったと少し後悔していたが、すぐ、いつもの『美しい城主』の顔に戻って続けた。
「城の主といえども、人の悪口だけはふさぐことがなかなかできないのです。他人の言うことをいちいち気にしていたのでは何もできません。だから強くならなければ。おわかり?」
「はい」
「いい子ね」
女王が飛び上がり、窓からするっと外に出て、振り返った。
「私がここに来たことは、だれにも言ってはいけません」
「はい」
「約束よ」
「はい!」
シンシア・ツヴェターエヴァは、一度少年に向かって微笑むと、厳しい表情に戻って、繁華街の方向へ飛んで行った。
いったい何を見に行くのだろう?酔っぱらいか、夜遅くまで糸を引いている老人のところか、夜更かししているいけない子供たちのところか……。そういえば、飴細工の店の子供たちは、夜中にこっそり店の商品を盗み食いしてるんだっけ。きっとそのうちシンシア様に見つかるに違いない。それで、さっきの怖い顔で怒られるんだ。それに……。
少年は、夢を見るような表情で、ずっと、シンシアが飛んで行った方向を見つめていた。
(感想)
なぜ私の頭の中にシンシア様がご降臨されたのか、全くわかりません。
言葉遣いからして謎です。最近わかったのですが、シンシア様が普段使う一人称「わたくし」は謙譲語だそうです。つまり、偉い人相手に自分を下げる言葉。丁寧語しかわからない私には未知の領域になります。
正社員の経験がないので、上下関係の言葉を学ぶ機会がなかったのです。
一応敬語の本とか見直してみることがあるのですが、やはり使っていないので頭に入りません。
シンシア様、もう少し上級の人の頭に降臨しませんか?
私がこの人をメインにして書くには、上品な世界の情報や心情があまりにも足りないと思うのです。書けば書くほどうさんくさくなりそうで怖い方です。ラナならもう楽勝でフライドポテト食ってても違和感ないのですが。
ロンハルト物語の主人公だったラナは、本当に普通の女の子で書きやすかったんです。今の生活をそのままラナにさせても違和感がない。
しかし、シンシア様にカップラーメンなんて絶対に渡せないのです。
なぜ?
何度でも疑問符を発したいくらいなんです。
なぜ私のところにご降臨されたのですか?
何かの間違いでどっかの王宮とかに生まれないと書けないキャラのような気がします。
愚痴のようですが、某今風の令嬢の小説、本人も部下も言葉遣いがめちゃくちゃで、ぜんぜん高貴な人に見えないです。私、そういうところが気になって他人のファンタジーに白けてしまうことが多いです。
「じゃあお前はちゃんと書けんのか?」
と言われたら、全く自信がありません。
この世界観の話、いつかまた書きたいのですが、不謹慎な設定にしないようにしないと難しいかなと。
ファンタジーは暴走しやすいので注意がいるのですね。
「ロンハルト物語」は一度削除しましたが、その後エブリスタに移動しました。興味がある方はぜひ読んでみてください。
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