Libraとは?Facebookが公開した仮想通貨「Libra」が世界に与える影響とその可能性

こんにちは。Fintertechストラテジーグループの川浪です。

「息子とゲームしてたら暴落していた(後半)」の公開前ではありますが、今書かずにいつ書くんだ!?と言っても過言ではない「Libra」について、今回は解説していこうと思います。

 6月18日にFacebook Libraのホワイトペーパーが公開されて以来、仮想通貨界隈はLibraの話題で一色です。元々、何とかPay的なものに終始するのかと思っていた人もいると思いますが、かなり斜め上からの回答となったと思います。詳しくは後述しますが、これまでBTCやETHなどの仮想通貨では成し得なかった影響力を持つと予想されます。

 何が凄いか。ポイントは下記5点と考えています。

1 使う先が既にある
2 圧倒的なユーザー基盤
3 スマートコントラクトが実装されている
4 Libra協会の初期メンバーに金融機関がいない
5 ホワイトペーパーが最初から多言語化されている

 順にお話ししていきましょう!

1 使う先が既にある

”ビットコイン、再値上がりでも変わらぬ事実-誰も買い物に使わない”

 ブロックチェーン調査会社チェイナリシスの集計データによれば、今年1-4月のビットコイン利用で買い物支払いなど商取引に使われた割合はわずか1.3%。仮想通貨の保有者は増えても未だにその使用用途はなく、投資目的に限られています。使える場所が多少増えてはいますが、通貨として日常的に使用するには高すぎるボラティリティとトランザクションコストがネックになっています。
 これに対して、Libraは法定通貨バスケットによるボラティリティの低いトークンとして設計されています。またBFT・PoSシステムを採用することで、トランザクションコストが低くできる設計となっています。
 さらに、Libra協会の初期グループはLibraの利用先として見込める訳ですが、その企業群として名だたる企業が名を連ねています。

Credit:The Block

 PaymentsだけでもMastercard, Visa, PayPal, Stripe, PayUと世界規模でネットワークのある企業が揃っています。もちろん、Libra協会の初期グループ企業の中でも温度感に差があるでしょうし、VISA・Mastercardを使えるすべての店舗でLibraが使えるかは不透明です。ただ、従来の仮想通貨とは異なり、確実に実生活で使えるようにグローバル企業が配置されています(正直、米国だったらこのメンバー企業を使うだけで生活できそうです)。

2 圧倒的なユーザー基盤

 そもそもではありますが、Facebookの月間アクティブユーザー数は2019Q1で23億人であり、この時点でどの国家よりも多い人数を備えています。

 さらに、Libra協会の参加企業に対する評価基準として「複数国に対するリーチが年間2,000万人を超えること」が明記されています。Libraのミッションは「数十億人のエンパワーメントにつながる、シンプルでグローバルな通貨と金融インフラを提供すること」とされていますので当然ですが、ユーザーの圧倒的な拡大を目指しています。
 これだけのユーザー数を抱える訳ですから、米国ドル・中国元・ユーロ・日本円という主要通貨の利用者数をスタート時点から凌駕する可能性があります(これに対して国家がどのように規制するかは非常に楽しみなところです)。通貨の価値はどれだけ多くの人が使用するかというところにかかってきますので、人数だけでみると人類史上初の世界通貨というものになる可能性が一番高いと言えそうです。

3 スマートコントラクトが実装されている

 1・2に比べて地味に見えるかもしれませんが、将来展開を考えると非常に重要です。
 現在、分散型金融(Decentralized Finance、通称DeFi)・OpenFinanceと言われるサービスがイーサリアムのスマートコントラクトを利用して作られています(DeFiのサービス内容については、別途他の社員からブログであげられると思いますので、ここでは多くを書きません。少し脱線しますが、多くは2017年の仮想通貨バブルのなかICOで資金調達を行ったものです。ICO詐欺がやたら注目されましたが、真面目に開発されたものもあり、それらが実サービスを生み出しました)。
 例を挙げると、CompoundDharmaといったスマートコントラクトを活用した仮想通貨レンディングプラットフォーム等です。レンディングという表記にしましたが、その中身はイーサリアムを預けて利息をもらうという銀行預金に近いサービスです。
 もちろん、プログラム言語が異なるので、DeFiサービスのすべてがそのままLibraチェーン上で使用できるわけではないですが、多少時間がかかってもこれらに似たサービスは展開されるでしょう。(eWASMでMoveに対応するという展開になったりするのか期待。Move等テクニカルな解説(動かしてみた記事)については別の人から記事がでると思います)
 これまで、DeFiというものは仮想通貨の上でのみ、非常に少ない人数とアセットを対象に展開されてきましたが、Libraは実世界で使える仕組みに最初からなっています。これを契機として金融サービスのプログラム化が爆発的に促進される可能性があると考えています。

4 Libra協会の初期メンバーに金融機関がいない

 Libra協会メンバーの役割として、Libra投資トークン(Libraリザーブに今後累積される利息の持分権を付与するトークン)の販売によるメンバーおよびその他の投資家からの資金調達、インセンティブプログラムの企画と実施および創立者に対するインセンティブの分配、投資トークンへの投資者に対する配当の分配などが明記されています。これらは金融機関が独占して行ってきた機能といえますが、初期メンバーには銀行を含む金融機関が見当たりません。国際送金だけでも年間70兆円にのぼるので、Libraはリザーブとして100兆円超の資金調達が必要になるでしょう。つまり、資金調達に関して、非常に薄い手数料率だとしても、巨額の収入を得る機会があることを意味しています。当然、この協会に入りたい金融機関は多数あると思われますので、Libra 協会メンバーに銀行・金融機関がいないことは、意図的に参加させていないと推測されます。 その理由としては、上段で触れた金融サービスのプログラム化に関連していることと考えるのが自然だと思います。また、規制の多い金融機関をいれることでLibra協会の足並みが揃わなくなる可能性が高まることが考えられます。もしくは金融における既得権益の代表である銀行等は自らの収益基盤を破壊する行為は困難だと思われているのかもしれません。
 いずれにせよ、史上最も巨大な資金調達を既存金融業の面々なしで実行し、ユーザーを中心に据えた新しい金融の世界をスタートすることができるのか、非常に楽しみにしています(金融業界の末端にいる身としてはハラハラです。しかし、セキュリティートークンに対して記述がありますので、証券会社は受け入れてもらえるのではないかと身勝手ながら期待してます!)

【6/21 16:10追記】
 Bloombergの報道によれば、「銀行は重要な役割を持つ。そうした意味で参加を非常に歓迎する」とのことでした。ただし、シティグループのマイケル・コーバットCEOによれば「フェイスブックから事前の接触はなかった」とも語っているとのこと。今後の金融機関の参入についても着目すべきポイントと考えられます。

5 ホワイトペーパーが最初から多言語化されている

 LibraのWhitepaperはじめwebサイトは、色んな言語で観ることが可能です。英・仏・中はもちろん、ドイツ語・ロシア語・スペイン語・ポルトガル語、日本語そしてインドネシア語版が選べます。通常、仮想通貨のWhitepaperは英語で原文が書かれます。その後、それを読んだ各国の人がファンになり、ローカル言語に翻訳するというステップを踏みます。
 これまでの規制当局の考え方からすると、日本語で書かれている=日本人への勧誘を行っているという解釈がなされてきました。もちろんそういったことは理解されていると思いますので、これは各国の規制に対して準備がそれなりに整っている・戦えると考えていると推測されます。


 以上、個人的な解釈と推測を沢山盛り込んでお届けしました。
改めてみるとマーク・ザッカーバーグがブロックチェーンを個人的に勉強すると発表してから数年、ApplePay、GooglePayなどのビジネスの推移、既存の仮想通貨の課題から多くを学び、それらを解決しようとする試みだというのが私の結論です。
 仮にLibraネットワークが成長して誰もがノードを運営できる完全非許可型ブロックチェーンという姿が明記されていなければ、グローバル企業による思い上がりだという批判が多くされていたと思います。また、最初からパブリックチェーンという形でスタートさせることも技術的にはできたと想像しますが、それではアナーキー思想に偏りすぎて、多くの賛同者と数十億のユーザーを得られない結果になったと予想しています。アンチマネーロンダリングの問題をはじめ、様々な意見があると思いますが、個人的にはビジネス的なタイミングを計り、世界に受け入れられるようバランス感覚に最善を尽くしたプロジェクトであり、シリコンバレー史上最大のチャレンジだと思っています。
 その中でも最もチャレンジングなのは、ガバナンスに関する部分だと思います。
 Libra協会の中で最終的な決定権を持つ評議会の議決権は、創立者1団体あたりの議決権には上限が設定されるものの、当初はLibra投資トークンの持ち分、将来はLibraの持ち分に比例するとされています。Libra協会が採用するシステムに似たPoSシステムにおけるガバナンスは、先進的な動きを続ける仮想通貨の世界でも絶賛模索中であり、将来大きな問題を抱える可能性はあると思います。世界通貨とも言えるLibraにおいてそれは機能するのか。仮に機能したとしてもそれが望ましいガバナンス体制と言えるのかについては議論がつきないことでしょう。1話としては長くなりすぎるので、ガバナンスに関する話は別の機会とさせていただきます。しかし、ガバナンスという部分だけを切り取っても、民主主義に変わるコンセンサス形成を模索するプロジェクトとして注目に値すると思います(個人的に、Libra反対勢力が攻撃すべきポイントはAML対策より、この部分かなと思います)。

 Libraが発行された先にはどんな世界が待ち受けているでしょうか。本当に世界通貨として機能するならば、AirBnBのような民泊サービスを海外で利用する際に、宿泊先のオーナーがFacebookユーザーであればLinePayのように送金できて、為替の計算もしなくてすむ世界が来るかもしれません(もちろん民泊先のブッキングもオンチェーン)。そもそも、海外旅行の際に最も煩わしい問題の一つである「現地通貨への両替」すら必要がなくなるかも。

 そのような未来がくることを楽しみにしながら、今日はここまでとさせていただきます。

 次こそ、「息子とゲームしてたら暴落していた(後半)」を公開する予定ですので、引き続きお楽しみに!


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