【Society Forward対談 | 牧島かれん氏・後編】実現したい日本社会を目指して、少しでも前へ。
”日本の未来を前に進めるビジョンとそれを実現するための政策”に焦点をあて、社会を前へ進めるキーパーソンへ、マネーフォワードFintech研究所長である瀧がお話を伺う新連載「Society Forward対談」。衆議院議員・牧島かれんさんとの対談の後編となります。
(※この対談は、2024年8月20日に実施しました)
前編はこちら。
議員人生は「山登りの連続」。転んでも少しずつ前へ。
瀧:牧島さんは、選挙に当選するまでは研究者として活動されていましたね。研究者の世界と政治家の世界は、正直どれくらいつながっているのでしょうか。これだけキャリアが変わると、世界はガラっと変わってしまうものなのでしょうか。
牧島:以前の仕事はもうできないかもしれませんね。国会議員に求められているのは、研究者のような「長距離走」ではなく、「短距離、短距離、短距離、時々ハードル走」のイメージですので、事実として必要な筋肉の質は変わりました。
ただ、不要不急の外出を避けていたコロナ禍のおりに「最近は何をしているのか」と質問されて、「規制改革や行政改革に関わる有識者の先生方の論文を読んでいます」と答えたら、オタクだと言われましたね(笑)。博士号を取得した者として最低限論文を読むべきというプレッシャーや、筋肉を衰えさせたくないという気持ちが、私の中にあるのかなと思います。
それにしても、議員になるとインプットの時間が本当になくなってしまうんですよ…。それでも新しいインプットから得られる「知識の泉」を浴びなくなったら、有権者に申し訳が立たないという思いで、日々努力しています。
瀧:国会議員になってからの人生で、どのタイミングが一番大変でしたか。
牧島:難しいですね。議員になってからはずっと山登りをしているイメージに近いです。ただただ歩みを止めずに登り続け、時々雨が降る…という感じですね。とはいえ、まだ雪が降ってテントを張らなければならないとか、下山しなきゃいけないという状態には陥っていないかなと思っています。
瀧:当選回数が増えるほど、標高は高くなっていきますよね。標高が高くなると、見える風景が広がって楽しくなってくるものなのか、それとも責任が重くなって辛くなってくるのか、どちらに近いのでしょうか。
牧島:国会議員になりたい方に対する耳障りはよくないかもしれませんが…「楽しい!」「イエイ!」という感情は、いまのところ1度もないですね。「あぁよかった…」という安堵を経験したことはありますが、それは「まだ時間がかかる」「やりきれなかった」というたくさんの悔しい想いを乗り越えたあとの感情です。
例えば国民のみなさんの要望を受けて法案を通す際も、与野党で意見が異なる場合は、修正協議を経てどうしても妥協せざるを得ないこともあります。国民のみなさんにとっては「国会議員は常に100%の成果を出してほしい」という気持ちが本音でしょうし、そういうときは私たちも申し訳ない気持ちでいっぱいです。しかし、まずは第一歩を踏み出すことで次が続くのだと信じて、70%でも80%でもいいから法案を通すことを優先する場合もあります。
瀧:牧島さんのお話を聞いていると、どんな状況でも「ベストエフォートを尽くす」「倒れるなら前に」という姿勢を感じます。
2023年6月に施行されたLGBT理解増進法(※)を例に取ると、当初通そうとした法案が修正されたことによる課題が指摘される点もありますが、少なくとも法制化によって、気持ちが救われた人も多いのではないでしょうか。
(※)正式名称は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」。差別を禁止するのではなく、性的指向等に関する理解の増進を図ることで多様性に寛容な社会の実現を目指す法律。
牧島:LGBT理解増進法はまず、2021年に開催した東京オリンピック・パラリンピックの前に整備できなかったのが、本当に申し訳なかったと思っています。なんとか2023年の広島G7の年には成立しましたが、機を逸さないことも重要だと思っており、そういう意味でも課題が残りました。
瀧:政治家の活動をしているなかで、「これは100点満点が取れた」と思えるようなお仕事には出会えるものなのでしょうか。以前衆議院議員の小倉まさのぶさんが、「片方の言い分だけを100%聞くことが政治だとは思わない」とおっしゃっていました。確かに「ある立場の人が100点と評価するもの」が、そもそも政治的に正しいというわけではないですよね。
牧島:そうですね。私はやはりビッグピクチャーとして、「たくさんの選択肢が選べる」「生きづらさを感じている人がいない」日本社会を実現したいと思っています。もちろん、全員の生きづらさが解消されるという理想郷は、とても高い山のてっぺんにあると認識しています。実現したい社会を見据えたときに、先ほどのLGBT理解増進法はまだ100%やりきったと言えず、心残りを感じています。
災害大国の日本だからこそ必要な、SNSへの心構え
瀧:今年6月に発表した自民党デジタル社会推進本部による提言に、牧島さんがプロジェクトの座長を務めたサイバーセキュリティ分野も含まれていましたね。
以前、フェイクニュースなどの誤解や混乱をもたらす情報から国を守ることを目的とした組織「心理防衛局」がスウェーデンで発足した話を、牧島さんから伺いました。心理防衛局の話は直接サイバーセキュリティに関わるものではありませんが、日本と海外には安全保障上かなりの温度差があると言われているなかで、重視していくべきことは何でしょうか。
牧島:サイバーセキュリティは海外からも注目されていますよね。私たちも何度も官邸に申し入れを続けています。クリアすべき論点が明確ですし、法改正も近いのではと信じています。また、現在提言している内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)の発展的改組が実現したときに、NISCがどのような役割を果たしていくのか、他の省庁と連携しながらどう運用していくかについても考えていきたいと思っています。
それにとどまらず、5つの戦場である「陸」「海」「空」「宇宙」「サイバー」、さらにその先の情報を通じて民意を操る第6の戦場と言われる「認知戦」が重たい論点になってきています。私たちは6つ目の領域の準備を同時並行で進めるべきという前提のもと、スウェーデン大使から先ほどの心理防衛局の話をしていただきました。スウェーデンでは、有事の際の備えとしてパンフレットが国民に配られていて、デマに惑わされない心を作るという準備までし始めています。
一方で日本は、災害時にSNSにはびこる「ライオンが動物園から逃げた」といったニセ情報を信じてパニックになってしまったり、詐欺に騙されて「どこかの口座に入金してしまった」のような被害に遭うケースが後を絶ちません。現代のデジタル社会において、SNS自体は有用な面もあるので、うまく活用しつつも、使う時の心構えや向き合い方を伝えていく必要があると感じています。
瀧:情報が拡散されやすいSNSがまだ存在しなかった100年前の関東大震災の時ですら、デマが広まり社会に混乱をきたしました。日本は災害大国なので、SNSへの心構えについて、リスク認識を大きく高める必要があると思います。
日本のテックコミュニティを「次世代の憧れの存在」に
瀧:最後に、元デジタル大臣という立場から、日本のテックコミュニティをどう見ていますか。
牧島:「次世代の憧れの存在」であってほしいですね。2000年代初頭のいわゆる「ヒルズ族」は、いろいろありましたが、キラキラとしたイメージとともに一種の憧れはあったかもしれません。その存在が叩かれたことによって、「目立たないほうがいい」「自分のできる範囲だけでやるのが安全だ」というマインドが日本国内にできてしまった気がしています。
これからのグローバル社会の中では、もっと広い視野で挑戦していけるといいですよね。いまの若い世代は、社会課題解決という想いを強く持ってくれていますし、「チャレンジすることは楽しい」という世界を、40代の私たち世代が見せられるといいなと思っています。
瀧:私は当社でパブリック・アフェアーズを担当しているのですが、自社の利益を追求するのではなく、あらゆるステークホルダーに対して「フェア」で「オープン」な提言をすることを信条としており、その点は代表の辻と認識を共にしています。それはかつての「ヒルズ族」に学んでいるからかもしれませんね。新しい時代の社会通念に照らして「次世代の憧れの存在」になるというのは、私たちの責務ですね。
牧島:ステレオタイプだった昔と違って、「かっこいい大人」という定義もバリエーションが増えてきています。さまざまなタイプのかっこよさがあるなかでも、若い世代にとっての憧れの存在になれたら素敵ですよね。
瀧:マネーフォワードがそうした存在になれるように、頑張ります(笑)。本日はありがとうございました。
編集・撮影:早川有紀(パブリック・アフェアーズ室)
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