年金の第3号被保険者の廃止論に思うこと
はじめに
めちゃくちゃ久しぶりですが、あまりにも愚かな言い合いが幾度となく繰り返されているのでちょっと一言申しておきたくなったのと、主には学生に制度を説明するのにも使えるなぁと思ったので、記事にまとめました。
さて、X(旧Twitter)では、公的年金の第3号被保険者廃止論が定期的に噴出します。
ズルい、と明言する人もいます。
ズルい、とは言わないけど、損した気分になっている人がいるのも、間違いないでしょう。
結論から言いますと、実際、共働き夫婦は損をしています。
しかし、その相手は、全くもって第3号被保険者ではないんです。専業主婦は敵ではありません。
背後にいる真の敵に気づかず、共働き世帯、片働き世帯、子あり、子なしで分断して対立をあおり合っているだけでは問題は解決しません。
今頃、与党の政治家や、厚労省・財務省の皆様は、必死に笑いをこらえていることでしょう。
この投稿では、この真の敵を明らかにするとともに、理念を再確認すること、そのうえですべき要求を説明していきます。
なお、前置きで書いておきますが、うちは共働き家庭で、保育料も最高額の所得になる世帯層です。ポジショントークではないのであしからず。
実際、3号は「ズルい」のか?
私はそのような定義は浅慮で誤っていると思いますが、一旦、「他人のお金で社会保険や税を肩代わりされている」人のことを仮に「ズルい」と定義しましょう。
3号はこの「ズルい」に該当するのでしょうか。
正解は厚労相HP、というか法律の条文に書いています。
字が小さいので書き下しますね。
その費用は第3号被保険者の配偶者が加入する厚生年金から拠出される。
+保険料について、当該被扶養配偶者が共同して負担したものである
ですよ。読めましたか?
第3号被保険者の配偶者が加入する厚生年金から拠出+保険料は被扶養配偶者が共同して負担したもの
ですよ。
まず、この部分を履き違えないようにする必要があります。
第3号被保険者の保険料は、その配偶者が払っています。配偶者を支えた被扶養者も共同で負担している。よってズルくない。
あなたの認識論は聞いていません。条文でそう書いてます。
まずこの点認識してください。
これはどう言いつくろっても歪めようのない結論です。
こう言うと、
「いやいや、共働き世代は多く払ってるんだ、やっぱりズルい!」
という声が聞こえてきそうですね。
まず、「自分が損した(or損した気分)」を「ズルい」と思うその性根をたたき直しましょう。
これだけは言わせてください、そのような思想を「欠乏マインド」と呼びます。欠乏マインドで検索するかChatGPTに尋ねてね。
あなたは確かに損をしています。しかし、損をしていない人がズルいのではありません。損をしているあなたは誰かにしてやられていますが、してやられた相手は、損をしていない人ではありません。
身内である被扶養配偶者の税金をその扶養者が払うのは、他人による肩代わりではないので、決してズルではありません。ここは(極端に片働きの扶養者の給与が低い場合を除いては)、先ほどの、私からすればだいぶ浅慮で誤っている定義ですら「ズル」に該当しないのです。
……それでも、
「じゃぁ、なぜ共働きで両方厚生年金に加入している、夫婦ともに第2号被保険者の人は2人分払わないとならないんだ!2人とも第2号被保険者の家は、専業主婦のいる家の2倍払っているんだぞ!」
と言いたい気持ちになる共働きは多いと思います。
結論から言います。
あなたたちは、共働きが広がりだしたここ30年ずっと、国に騙されて払いすぎ続けています。
以下のように思考を変えてください。
そもそも第2号・第3号被保険者というくくりを用いた現在の制度は、片働き前提で作られたものです。なのに、制度が共働き夫婦を考慮していないがために、夫婦が2人とも第2号被保険者になるとどうなるか。
答えは
払い過ぎが発生して、お金が余ります
もう一度言います
払 い 過 ぎ が 発 生 し て お 金 が 余 り ま す
第3号がズルいんじゃなく、共働き夫婦が払った保険料は余っています
3回じゃ足りないので4回言います。
あなたたちが払ったお金は、余 り ま し た !
……わかりましたか?
では次に行きます。
さて、ご存じの通り、第1号被保険者の加入する国民年金の方は、財源がひっ迫しています。お金が足りません。
国「困ったな…年金減らしたらまたバッシングされるぞ。……おや、ここに、共働き夫婦が払ったお金、余ってるぞ(笑)」
……もう、国が何をしたか、お分かりですね?
そう。
国「第2号被保険者の保険料、余ってるな(笑)よし、第1号被保険者に流用してやれ、足りない分を補充するぞ、どうせ気付かん、国民はバカだからな」
これです。
独身会社員の皆様も、当然ながら、この意味では余った保険料を吸い取られている側の人になります。
というわけで、先ほどの定義で「ズルいのが誰か」という話をすれば、第1号被保険者がズルい、が正解です。(ただし、後述する本当の定義では、別に第1号被保険者はズルくない)
そして、そのズルい金の流れを作ったのは国というのが結論になります。
というわけで、共働きの人のお金が出ていっている先は、第3号被保険者ではなく、第1号被保険者でしたとさ。
このままいくと、次のようになることでしょう。
X(Twitter)の皆様は無実の専業主婦を攻撃し、政府はありがたくそれに乗っかって3号を廃止、搾取される人が増えましたとさ。従来の1号負担者だけがますます得をし、ズルいと訴えた2号共働きの皆さんは、何も変わらず搾取され続けましたとさ。あーあ。流用された金で年金貰ってる1号被保険者を除いて誰も幸せになりませんでしたとさ。おしまい、おしまい。
……ということでしたが、ここで終わると第1号被保険者がまるで悪者ですね。
1号「いやいや、俺ら/私たち、ちゃんと言われた保険料、きっちり払ってるのに何で悪者扱いされるんだよ!」
確実にこう言いたいところでしょう。
そう、そこです。
3号廃止の動きも国が進めたそうにウズウズしていますが、さっきの話を踏まえて、3号が廃止されるとどうなると思います?
厚労省・財務省「共働きの2号被保険者は既に搾取済みでしたが、これで片働きの2号被保険者も搾取対象にすることに成功しましたね。国民の皆様が勝手に味方同士叩き合ってくれて助かりますよ。廃止により第3号被保険者も保険料を払うようになるし、我々の退職後の基礎年金の減額幅も少なくて済みそうだ。一石二鳥ですな。国民の皆様に感謝しましょう、ははは(笑)
…さて、あとは1号被保険者の未納者ですな。こいつらだけは本当に厄介だ。どう手を付けて行きましょうか。」
ってなところでしょうかね。思うつぼですよ(笑)
国は勝手に国民同士が争ってくれればくれるほど、お金を集めるのが楽になって、ほくそ笑んでいることでしょう。
じゃぁ、不公平な思いをしている2号共働き世帯の怒りはどこに向ければ?ということですが、
ちゃんと保険料を払ってるのに悪者になるのは、制度設計が悪いから。つまり国が悪い。
これです。
そもそも、年金も、あと健康保険も「保険」なんですよ。保険は受益者負担が原則。国民年金は国民年金保険料で。厚生年金は各厚生年金事業者で。公務員の共済年金は共済組合で。その原資は、自分たちの同世代が払い込んだ保険料から。
これが適正な形です。ところが、今の現実は
保険料は、天引きで未納のしようがない会社員と公務員から搾取しとけ(笑)
国民年金は足りてないから厚生年金と共済組合から横流ししとけ(笑)
原資なぁ、積立方式だとインフレ対応できないし、賦課方式にして現役世代から上手いこと搾取しよ(笑)
なに、現役が減るから足りない?ちょうどいいわ、今男女平等とか言ってるし、「女性活躍ぅ~!」っつって働く人数を増やせば足りるだろ、今の時代、働かない若者に人権なんてねぇわ、女も働け子育てに専念なんて絶対に許さんぞ甘えんな(笑)
これが国がやっていることです。
女性活躍、男女平等進めるためにやっていると思ってるでしょ?
違いますよ。
本当の平等・男女平等というのは、
結婚したら家に入りたい人は家を支えてね
もちろん男も専業主夫をしていいよ
共働きしたい人は働いていいよ
こうです。
今の
専業主婦は悪!
皆共働きしろ!
専業主夫?論外!制度上も主夫は格下として扱う!
これは、平等を装った搾取です。
さらに、保険は、みんなで払ったお金で必要な人を助ける制度ではありますが、払っていない人にお金を横流しする制度ではありません
・会社員、公務員、特に高給取りからは、多くとります
・余ったお金は、同じ保険内の人に還元するのではなく、足りてないよその保険へ流用しますね!再分配だからね!
・現役世代の払ってるお金だけど、現役世代じゃなくて高齢者に使うからね!
・受益者負担?知るか(笑)
↑これは保険の体を成しておらず、完全に税金です。
しかし、税金って、料率増やそうとすると、法案通さないといけないんですよね。
消費税って増税だ減税だって、テレビで盛り上がってるでしょ?あれ、プロレスですよ。一番膨れ上がる医療費や年金は、税金じゃなく保険料で誤魔化せてますからね。
いまちょうど、103万の壁変えたら7.3兆円減収だぁ~!っつって騒いでますよね。あれは、税金が減ると、国が支配できる項目が減って自分らの権限が弱まるから財務省と政府が反対しているだけです。下の図をご覧ください。
実は保険料収入(50兆円)、所得税(R6年度予算17兆円)よりも消費税(同23兆円)よりも法人税(同17兆円)よりも、ダブルスコア~トリプルスコアで多いですからね。
まぁそういうことで、税と違って、法案を変えなくても料率を変えられる保険料は便利なので、おかしいのは分かってるけど見た目は保険料という名前にしておいて、実質税金化することで、法案を通すことなく料率を変え、好き放題搾取するというスキームの構築に厚労省・財務省は成功しているわけです。
もはや今の保険料は、保険料という名の税金です。
敵は、第3号被保険者ではなかったのはもう明らかですが、第1号被保険者でもありません。法改正を経ずに料率を好き放題変えられ、支払った世代以外に流用し放題の制度を作った、国です。
日本の社会保険を礼賛する人たちの立場から見れば、
(現役から上手く取るから)インフレに対応できる画期的な制度
(会社員・公務員から1号被保険者にばらまくから)再分配がうまく働く制度
(労働者人口が減れば支払額減らせばいいから)年金制度は崩壊しない
という建付けになっていますが、断じて保険でやることではない。
「ズルい」と責め合うのをやめよう。いつだって、悪いのは、時代に合わない制度、それを変えない政府、知ろうとしない国民です。
最後に、本文の最初に、ズルいを定義した際、
私はそのような定義は浅慮で誤っていると思いますが
と書きました。
どういうことか。
例えば、生活保護。ズルいでしょうか。働けるのに働かずに不正受給をするのはズルいかもしれません。しかし、親から虐待を受け、18で家を追い出され、貯金ゼロで一人暮らしを始め、その直後に難病にかかって働けなくなった人がいたとします。こういう人が生活保護や障害年金を受給するのはズルいのでしょうか。これは、税による再分配であるから、ズルいのではなく、「制度による助け合い」の範疇です。税ですからね。
出産一時金。子供を産まない人からすればズルいのでしょうか。いえ、その子供が将来働いて国を助けるし、同じく、税による再分配なので、ズルくはありません。
保育料。3歳未満の保育料、収入によって差がありますが、ズルいのでしょうか。いえ、日本は労働力不足。働いているが収入が低い人に、多く税金が投入されるのは、再分配の範疇で、決してズルくはありません。
ただ、個人的には、高給取りの人たちは、他の人より税金も多くおさめているわけで、その人たちから保育料まで他の人より多くむしり取るのは、ちょっとやりすぎと思っています。
3歳以降、保育が無償化されています。ズルいでしょうか。
さて、そろそろ見えてきたと思います。
本当の意味でズルい、というのは、払っていないお金の恩恵を受けることではなありません。
ズルいとは、「意図的に」「制度を悪用して」「他の人のお金をいいように使うこと」ではないでしょうか。
そして、この意味でズルいのは、政府与党と厚労省・財務省です。全てわかっていながら、今の、保険を実質的に税として運用していく、なかば詐欺的な運用を続けています。
まとめ
責めるべきは第3号被保険者ではありません。第3号被保険者の分はその配偶者が払っています。
責められるべきは第1号被保険者でもありません。確かに払ったより多く受け取ってて、実質共働き会社員夫婦や高給取り会社員の保険料はここに流れていますが、それは第1号被保険者の罪ではなく、国がそういう風に決めたからです。保険という名で強制加入させ、保険であるにも関わらず、実質的な税として勝手に再分配を行い、あまつさえ法案を得ない料率改定スキームを作った極悪詐欺師は、国です。
今こそ、税と保険の基本に立ち返り、
再分配は税でやれ!
保険料は払った年代に使え!
これを徹底していく必要があるでしょう。
勝手に悪者に仕立て上げられている第1号、
無辜の罪を擦り付けられている第3号、
圧倒的に払わされすぎている第2号
これらの人々、つまり成人した国民全員が、一致団結して国にブチ切れるのが正解です。
おまけ
バカ「自営業の妻は第1号!不公平だ」
私「お前は自分の分の年金しか払ってねぇから妻も自分の分は払わないと駄目に決まってるだろバカ、黙っとけ」
おしまい。
おまけ2
投資の話じゃなくてすみません。
大事なことは既存記事にほとんど全部書いてあるので、是非そちらご参照ください。
余計なことをして失敗に学ぶのは個人の権利だけど、余計なことはしないに限る。