MSCAフェローシップ申請に向けた最初の一歩
こんにちは。最初のnoteでMSCA-IFの紹介をしてから、1ヶ月半以上も経ってしまいました。6月も下旬となり、9月初旬の締切に向けてMSCA-IFの申請書を書こうとしている方もいらっしゃると思いますので、今後は記事を書くスピードを上げていきたいと思います。
今回のnoteでは、MSCA-IF応募を考えた際にまず行うべき最初の4ステップをお話します。(必ずしも下記の順番で行う必要はありません)
1. Guide for Applicants をしっかり読み込む
2. 欧州の受け入れ機関を見つける
3. 研究内容と自分自身(申請書に書くことになる内容)について考えを整理する
4. EURAXESS Japanなどが行うセミナー等の情報収集
1. Guide for Applicantsをしっかり読み込む
MSCAフェローシップに関する全ての情報は、下記のGuide for Applicantsに書かれています。
全編英語(和訳版は無し)で70ページ近くあり、また "beneficiary" や "legal entity" など耳慣れない言葉が出てきて最初は戸惑いますが、フェローシップの理念、応募条件、支援の内容と条件、申請書の応募及び審査方法などが詳しく書かれているため、細部まで読み込むことをお勧めします。
ちなみに、私は全部読み込んだつもりでいたのですが、家族手当(family allowance)の条件が「応募時点での家族構成で決まり、それ以降家族構成に変更があっても家族手当の支給有無は変更されない」と書かれていたのを見落としており、合格後に気づいて少しショックでした。応募時点で独身の場合、その後結婚して家族が増えたとしても家族手当は支給されないようです。フェローシップに合格し渡欧が決まったら結婚しようと思っている方は要注意です。
Guide for Applicantsの内容について質問がある場合は、EURAXESS JapanかNCP Japanに問い合わせると良いと思います:
2. 欧州の受け入れ機関を見つける
MSCAフェローシップは、渡欧する研究者と受け入れ機関(ホスト機関)が共同で申請書を作成しEU(European Union)に申請するものです。正式には、研究者ではなくホスト機関がオンライン上で申請することになっています(数年前までは研究者自身が申請を行っていたようですが)。これは、EUから直接予算を受け取るのがホスト機関であることも関係しているようです。(研究者はフェローシップ期間中ホスト機関に雇用され、ホスト機関を通して、定められた生活費や研究費などを受け取ります。)
MSCAフェローシップの最大の目的は、研究者とホスト機関がお互いの能力や知識を交換すること、さらに研究者がフェローシップを通して新しい能力を身につけることで卓越した研究者へと成長することにあります。つまり、フェローシップで行われる研究は、革新的であるだけでなく、研究者とホスト機関のそれぞれの専門が融合してこそ達成できるものでなければなりません。今の自分と同じような研究を行っている研究室に行くことは意図されていないのです。
既にホスト機関が決まっている、あるいは既に欧州の大学等でポスドクをしている場合は悩む必要はありませんが、これからホスト機関を探す場合は、上記を念頭に置いて研究テーマをある程度考えた上で、スーパーバイザー(フェローシップ期間中、ホスト機関にて指導してくれる研究者)候補に連絡を取る必要があります。MSCA-IFは欧州ではかなり評価の高いフェローシップなので(しかも給料も研究費もEUが支援してくれる)断られることはあまりないと思われますが、忙しいスーパーバイザーの場合、返事がなかなか返ってこないというのはよくある話のようです。
ホスト機関は大学や研究機関には限定されておらず、アカデミックではない機関を滞在先として選ぶことも可能です。この場合、MSCA-IFの中のSociety & Enterprise Panel (EF-SE)というカテゴリで応募することになります。詳しくはGuide for Applicantsをご参照下さい。
私自身は、MSCA-IF応募の約1年前に国際学会で知り合ったイタリアの大学の教授に打診し、快諾を得ました。
3. 研究内容と自分自身(申請書に書くことになる内容)について考えを整理する
MSCA-IF応募に際しては、10ページに及ぶ申請書を執筆しなければなりません (それに加えて5ページの履歴書、研究倫理レポートなどがあります)。私がそれをどのように書いたかは次回以降のnoteでお話しようと思いますが、とにかく明確な論理で具体的に説明することが求められます。図や絵を散りばめるのではなく、しっかりと文章で全てを説明する必要があります。(図や絵を載せること自体はOKです。)
申請書を書き始める前に、以下のような点について考えを深め、それを整理し、箇条書きで良いので文章化することをお勧めします:
- 自分の強み(専門、研究能力、マネジメント能力やネットワークなど)は何か?
- それを活かしつつ、新たな分野を開拓できる研究は何か? その研究は、どのように新規性や独自性があり、どのように社会(特に欧州社会)に良い影響をもたらすか?
- 将来(5年後、10年後、20年後)どのような研究者になりたいか? そうなるためには何が必要か? それらを、フェローシップを通してどのようにして得るのか?
私は、考えたことを同僚など周囲の人に説明したり、あるいは自分自身に対して説明したりすることで徐々に整理し、文章化していました。
4. EURAXESS Japanが行うセミナー等の情報収集
MSCA-IFは応募に関する情報(特に日本語のもの)が非常に少ないというのは前回のnoteに書いた通りなのですが、日本で唯一、MSCA-IFの紹介や応募に向けた支援を行っているのがEURAXESS Japanです。EURAXESS JapanのホームページやSNSでセミナー等開催の情報を収集することをお勧めします。
https://twitter.com/euraxess_japan
EURAXESS Japanは欧州と日本の共同研究や研究者の交流の支援を行う組織です。EURAXESS自体はEU(European Union)を母体とする組織で、世界各国にその国と欧州を結ぶ独自の組織が置かれています(EURAXESS Japanもその1つです)。
EURAXESS JapanはHorizon2020 (EUが支援する研究フレームワークプログラム。MSCAはその1つ) の様々なプログラムの紹介や支援のためのセミナー等を開催しています。私がMSCA-IFを知ったのも、EURAXESS JapanによるHorizon2020の紹介セミナーでした。また、去年の6月にはMSCA-IF申請書を書くための実践的なトレーニングセミナーが開催され、これは非常に有益でした。
さっそく直近のお知らせになりますが、6月30日(火)17:00-18:30に、EURAXESS JapanとJST(科学技術振興機構)の共同で、若手女性研究者を対象としたGrant Writingに関するオンラインワークショップが開催されます。このワークショップは来週を初回として全3回予定されており、Cross-cultural communication と Presentation skills がそれぞれ7月末と9月中旬に開催されます。若手の日本人女性研究者で、これら3回のワークショップに参加可能な方はぜひ参加してみてください。こちらのポスターの「Registration」をクリックすると参加登録のページが開きます。
申請書を執筆し始めてから提出できるレベルまで仕上げるには多くの時間を要するので、ここで紹介した4ステップをできるだけ早く済ませることを強くお勧めします!私はMSCA-IFを知ってから実際に執筆を始めるまで4か月もの時間を費やしてしまいました。もっと早く書き始めるべきだったなと、執筆途中に何度も思ったものです。
次回のnoteから、具体的な申請書の書き方 (私の経験)をご紹介します。