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MSCAフェローシップ申請書Part B1を書き始めよう

Part B1は、前回のnoteで説明したように、MSCA-IF申請書で最も重要なパートであり直接的に評価の対象となる部分でもあります。今回のnoteでは、私の経験に基づく、B1を書く際のポイントをお話します。

1.  決められたフォーマットの中でめいっぱい書く

Part B1のフォーマットは Guide for Applicants の General information and instructions で指定されています。Wordのテンプレートもダウンロードできます (注: European Commission ウェブサイトへの登録と、応募するMSCA-IFのカテゴリ選択が必要)。2020年度応募分のpart B1 & B2 テンプレートはこちら。

フォーマットは厳守のため、十分に気をつけて下さい。特に、10ページを超えた分(11ページ目以降)は問答無用で消されてしまうため、必ず10ページ以内に抑える必要があります。表紙は不要、タイトルや氏名を書く必要もありません。1ページ目の冒頭から "1. Excellence ~" と書き始めましょう。

10ページを超えてはいけませんが、完成状態が9ページ以下というのも考えものです。できれば10ページ目の最後の行まで書く、空白を残すとしても1行だけ、というのが望ましいと思います。MSCA-IFの申請書は余白の幅を自分で決めることが出来ます。2020年の Guide for Applicants では余白は上下左右全て15mm以上と指定されているので、最小の15mmにして書ける量を増やしましょう。templeteでは既に余白15mmで設定されています。

テンプレートを使わずに書き始めた方は、single line spacing に気をつけて下さい。一度、「single line spacing」でインターネットの画像検索をしてみて、自分のwordの「段落」タブが正しく設定できているか確認されることをお勧めします。私はテンプレートを使わずにドラフトを仕上げたのですが、8月後半になって single line spacing を正しく設定できていないことが判明し、設定し直すと10ページが8ページ程度になってしまいました。つまり2ページも追加で書くはめになり、時期が時期だったのでとても焦りました。

2. 提出期限の1ヶ月前までに最初のドラフトを仕上げ、レビューと書き直しの時間を確保する

レビューは非常に重要です。私が、トータルスコア 98.2 という高得点でMSCA-IFに採択されたのも、MSCA-IFを知る複数の方々の厳しいレビューを受け何度も書き直したからに他なりません。私が最初に独力で書いたドラフトは、ホスト機関の研究者から「このままでは採択の可能性は非常に低い」と酷評されました。そこから彼ら/彼女らの様々な指摘を受けて書き直し完成した申請書は、内容こそ変わらないものの、最初のドラフトの痕跡はほぼ無くなっていました。

特に、海外の研究申請書を初めて書く方には、MSCA-IFをよく知る人にレビューしてもらうことを強くお勧めします。そんな人周りにいないよ!という場合も、下記の方々ならそれに該当するはずなので、連絡を取ってレビューをお願いしてみましょう :

a) ホスト機関の研究者 (Horizon2020関連のGrant proposalを支援する部署)

ホスト機関が大学や研究機関の場合、Horizon2020関連の研究をサポートする専門の部署があると思います。ホスト機関のホームページから探してみるか、スーパーバイザーに相談してみると良いと思います。私のホスト機関はイタリアの地方大学ですが、専門の部署があり、自身も研究者であるその部署の担当者が私の申請書を非常に熱心にレビューしてくれました。

b) ホスト機関がある国のNational Contact Point (NCP)

欧州のほぼ全ての国にNCPが設置されおり、恐らく大体のNCPでは申請書のレビューをしてもらえます。是非コンタクトしてみましょう。NCPの連絡先はこちらから探せます。

c) EURAXESS Japan

EURAXESS Japanのコーディネーターも自身が研究者であり、MSCAなどのHorizon2020のgrant proposalに精通しています。今年もレビューをしてくれるかどうかはわかりませんが、相談してみてもよいと思います。

MSCA-IF締め切り直前の1ヶ月間、欧州は夏休みシーズンです(少なくとも2020年の応募に関しては)。レビューを頼みたい時期に担当者がちょうど夏休みという悲劇にならないように、ドラフトを書いている最中に、上記の人々にレビューを依頼したい旨を連絡し、彼らの夏休みの時期を確認しておくことをお勧めします。また、場合によっては1回しかレビューしてくれない (レビュー後に書き直した原稿はもう見てくれない)場合があるので、それも確認して、誰にどの時点のドラフトをレビューしてもらうか計画を立てましょう。私の場合は、イタリアのNCPが1回しかレビューしないということだったので、その前にホスト機関とEURAXESS Japanにレビューしてもらい、何度も書き直した後で最終版をNCPに見てもらいました。

3. とにかく「ロジカルに、明確に、具体的に」書く

Part B1すべての項目で言えることですが、上記の3点を徹底して書くことが大切です。私の申請書は、前述のホスト機関の研究者に何度も「記述が不明瞭」「具体性に欠ける」と指摘されました。実際の私の申請書から、以下に2例挙げてみます。注: 数字やアルファベットはいい加減です。

例えば「近年Aが問題となっており、その解決手段としてBが注目されている」という文章だけではunclearです (アブストラクトなら仕方ないかもしれませんが)。本文で述べる場合は「なぜAが、何に対して問題なのか? 実際にどのように(定量的に) 問題となっているのか? Bがなぜその解決手段になりうるのか? 他にはないのか? Bはどのように注目されているのか?」を、参考文献も交えながら、専門外の人でも容易に理解できるように、明確かつ具体的に説明しましょう。

MSCAの申請書は、科研費など国内の研究申請書に慣れている方が想像するよりもずっと、具体性を求められます。例えば「得られた成果は国際雑誌に投稿する」では不十分で、「WP(Work Package) 4で得られるCの成果を、2022年9~10月に、D分野ではトップ3に入る国際雑誌 Journal of *** (2015年~2020年のImpact factor 6.8 )に投稿する」と書いた方がよいです。

全ての項目に対してこのように書いていくので、10ページは長いようでいて意外に短いです。

4. 採択された申請書を入手し、書き方を真似てみる

もちろん研究内容を真似するのではなく、あくまで構成や書き方を真似するということです。正直なところ、これが一番近道だろうと思います。ただ、過去にスーパーバイザーがMSCA-IFを受け入れた経験があるとか、周囲に採択された人がいるとかでない限り、申請書そのものを入手するのは難しいかもしれません。私の一連のnoteがその代わりになればと思って書いていますが・・・。

私の身近ではそもそもMSCAを知っている人が皆無でしたので、他人の申請書を入手することはできませんでしたが、EURAXESS Japanのセミナーに参加した際に採択された申請書を見せてもらうことができました。あくまでその場で見るだけで持ち帰ることはできませんでしたが、非常に参考になりました。やはり他の申請書を見てみたいという方は、一度Euraxess Japanか、NCP Japanに問い合わせてみると良いかもしれません。

5. その他注意点 (主語、アクロニム、専門用語)

自分を主語にする場合は、"I" や "We" ではなく "The researcher" や "The applicant" を使いましょう。科研費申請書で「申請者は~」と書くのと同じです。MSCA-IFでは募集の対象を "experienced researcher" としているので、私は自分の申請書では最初に "The experienced researcher (ER)" と書き、以降はすべて "The ER" と略語にして文字数を減らしました (何度も使う言葉なので地味に文字数が効いてくるんですよね)。

アクロニムや略語は、それがどんなにその分野で一般的な言葉であっても、本文で初めて使う場合は必ず正式名称を示しましょう

また、専門用語を使う際は、それが極端に専門的になりすぎていないか(いわゆる "jargon" になりすぎていないか) に気をつけましょう。もちろん研究の申請書なので内容には高い専門性が求められますが、審査するのは必ずしも全く同じ分野の専門家とは限りません(大きなくくりでは同じ分野といえると思いますが)。研究の目的や方法を具体的かつ明確に書きつつ専門用語を使わないというのはなかなか難しいですが、例えば大学で言うと「学部学科は同じで研究室は異なる」人に説明するような感じで書くとよいかもしれません。

次回は Excellence の第一項目の書き方紹介をします! 

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