MSCAフェローシップ申請書 PartB1 1.Excellence / 1.1項 を書こう
今回のnoteから数回に分けて、Part B1の各項目の具体的な書き方をお話します。何をどう書けばよいかイメージして頂けるように、できるだけ詳細に具体的にお話したいと思いますが、あくまで私の経験のみに基づく内容であることにご留意ください。
さて、Part B1冒頭の1.1項のタイトルは下記のようになっています。
1.1 Quality and credibility of the research/innovation project; level of novelty, appropriate consideration of inter/multidisciplinary and gender aspects
1.1項では、研究の背景、目的、方法などを述べます。ポイントは、Guide for Applicants で「~について議論せよ」と要求されていることは全て説明する、ということです。述べるべきことを明確に言及していないと、審査時に減点されてしまいます。
1.1項は述べるべき内容が多岐に渡るので、以下のように自分で小項目に分けて順を追って説明することをお勧めします。
Introduction
研究の背景として、解決すべき社会的な問題などを、参考文献を交えて出来るだけ定量的あるいは具体的な情報と共に述べます。専門外の人でもスムーズに理解できるように、論理の飛躍なく丁寧に書きましょう。専門外の人には「この前提からなぜこの結論になるのか?」と疑問を持つ点があるかもしれません。独りよがりにならないように、専門分野が異なる同僚や、家族、友達などに読んでもらってフィードバックをもらうのもお勧めです。
また、MSCA-IFは欧州連合 が出資するフェローシップなので、研究背景と欧州社会の関連についても言及した方が良いです。
State of the art
関連する分野の先行研究例について参考文献を挙げながら説明しつつ、次のresearch objectiveの項につなげるために、先行研究では何が足りていないのか、どのような課題があるのか (Introductionで述べた課題より、より特定的な課題)を述べます。
参考文献数に規定はありませんが、だいたい10~20個くらいが妥当なようです。参考文献はfootnote (フォントサイズ8以上)に示す、ということ以外は特に指示がないので、文献が特定できる最小限の情報にとどめ、字数を節約しましょう(筆頭著者名以外省略、論文タイトル省略など)。
Research objectives
具体的な研究目的を述べます。ここで注意すべきは、Guide for Applicantsに "discuss ~ specific objects" と書かれているように、研究全体を通した大きな目的以外に、さらにそれを達成するための詳細な個別の目的も述べる、ということです。これは次のMethodologyや3章のImplementationにも関連しており、要するに各研究作業ごとに達成すべきゴールを述べる、ということです。
例えば私の例を挙げると「Aデバイスの性能を最大化する設計解の提供」が研究の大きな目的で、それを達成するために「Aデバイスの性能に影響するB現象が起こるメカニズムを明らかにする」「B現象の発生に寄与する物理パラメータを明らかにする」「B現象の発生を予測するモデルを構築する」「予測モデルにより性能が最大化される設計解を明らかにする」を小ゴールとしており、後者4つを specific objectivesとして定義しています。SO1, SO2 ~ などとナンバリングしておくと次のMethdologyで言及しやすくなります。
Methodology
研究目的を達成するための具体的な研究方法を述べます。MSCA-IFでは、すべての研究作業を Work package (WP) に分類し、WP1, WP2 ~ とナンバリングします (3章のImplemenationで、全てのWPをマンスリー単位でガントチャート上に示します)。
Methdologyでは、研究に直接関連するWPを挙げて、そのWPの中で行う作業について具体的に述べましょう。その作業がどの specific objectに関連しているのかも明確にします ( 例: "このWPでの実験はSO2の達成に関連しています")。さらに、Guide for Applicantsで要求されているように、他の研究では行われていない独自のアプローチなどは、それと分かるように明確に述べましょう。
研究の成果向上や研究者自身の成長につながるような Secondment (ホスト機関以外の機関にて短期間研究を行うこと)は、必須ではありませんが推奨されています。Secondmentを予定している方は、Methodologyにてその目的と概要(どのWPの中で、どの機関にて行うのか) を述べましょう。
Innovative and multidisciplinary (又は interdisciplinary) aspects
研究のオリジナリティや、何が他の研究と比べて新しいのか、ということを改めて明確に述べます。客観的に「確かにオリジナリティがある、新しい」と言えることが重要です。
さらに、研究が複合的な要素から成り立つものであることを説明しましょう。皆さんは、interdisciplinary と multidisciplinary の違いをご存じでしょうか。私は最初これらの言葉すら知りませんでしたが、調べた結果、今は2つの違いを次のように認識しています:あるテーマに対し、interdisciplinaryは異なる分野の視点を融合させて1つの研究にすること、multidisciplinaryは異なる分野の視点からそれぞれ独立した複数の研究を行うこと。
ちょっとわかりにくいですよね。自分の研究がどちらの要素を含むのか、よく考えて&スーパーバイザーの意見も聞いて、申請書に述べましょう。
Gender aspects
日本語で社会的性別と訳されることの多い gender。人間社会や生物を対象とする研究ではないからと言って言及しないでいると、減点対象になる恐れがあります。Gender aspectsの項目を設けたうえで、対象が無生物で研究内容そのものには genderの側面が無い場合は、その旨を述べましょう。もちろんgenderが研究に関係する場合は、それをどのように扱うかをきちんと述べる必要があります。
研究内容にはgender aspectsはなくとも、その研究を通して gender equalityなどに貢献できることがあれば是非述べましょう。私自身は、自分の研究内容にはgenderの側面は無いことを述べたうえで、いまだ女性研究者の割合が低いSTEM (Science, Technology, Engineering and Mathematics)で、それを改善するために、MSCA-IFを通して自分がどうしたいかを書きました。
次回のnoteでは、Excellenceの残りの項目(1.2項~ 1.4項)の書き方についてお話します!