「化身少女」第2話
①
昂輝モノローグ
夢を見た。
見知らぬ少女が俺の隣を歩いている。
声は、聞こえない。
でも、彼女が楽しそうに笑っているのがわかる。
嬉しい。
そんな感情が沸き上がる。
彼女に手を伸ばす。
瞬間、彼女の声が悲鳴に変わる。
その声を聞いたのは…………ーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
②
アリア「……い」「……ーい」「おーい!」
昂輝「あびゃい!?」
耳元に響く大声に反応して飛び起きた昂輝。
目の前にはアリア。
アリアを視認した瞬間、昂輝はそのあまりの美しさに涙を流す。
昂輝「寝起き直撃型天使!」
アリア「もう! 正直すぎ!」
アリアはバシバシと昂輝の背中を叩く。
あまりの強さに昂輝はせき込む。
一度、昂輝から離れ、ふわりと宙に浮き、膝を抱えるアリア。
アリア「昨日から何度も天使とか可愛いと言ってくれるけど、ホントに好きなの?」
微笑むアリア。
昂輝は真っすぐにアリアを見つめる。
(昨日、「好きです」と伝えたシーンを回想)
昂輝「はい!」「なんかこう、自分でも説明しづらいんですけど、会った瞬
間に好きって感情が溢れてきて、それが今も続いていて……」
アリア「うーん、一目ぼれってやつ?」
昂輝「かもしれないです。ほんとに可愛すぎて直視継続するとおおん!」
アリア「朝から元気だねぇ」「可愛いとか言われるの、悪い気はしないけど」「でもこれから一緒に暮らすんだから、ずっとそれだと持たないよ」
昂輝「あ、やっぱり住むことは決定なんですね」
昂輝は、昨日のアリアとのやり取りを思い返す。
アリア「もちろん!」「傍にいないと守れないからね」「だから……」
アリアは昂輝へと再び近づく。
アリア「敬語はなしだよ?」「同じ家に暮らすのに敬語だと肩凝っちゃうよ」
昂輝「じゃばい!」
目から涙やらなんやらが噴き出す昂輝。
アリアのご尊顔の近さに再び涙やその他もろもろの液体が顔から溢れ出す。
アリア「あはは」「ちょっとずつでいいから慣れていこうね」
昂輝「びゃい」
③
朝食。
ダイニングテーブルに腰掛けて、トーストを齧りつつ、アリアに疑問を投げかける昂輝。
ようやく寝起きの興奮が落ち着いてきていた。
アリアはそんな一輝の前に座り、両手を顎に添え、ニコニコと笑顔を向けてる。
昂輝「それで、この決定戦はいつまで続くの?」「木星の化身であるゼータちゃんは倒したけど、まだ水金火土天海が残っているよね?」「あれ? 冥王星もかな?」
アリア「基本的に最後の一人になるまでだよ」「誰だ誰と戦ってもいいんだけど、私が勝ち続けてるせいか、皆、私を倒しに来るんだよね」
昂輝「先は長そうだね」
アリア「そうそう」「だから、気は抜いたら駄目だけど、だからと言って、昂輝君は気を張り続けなくていいよ」「私がいつもそばにいるし」
昂輝「それはありがたいんだけど、俺にできることってある?」
アリア「ないかなー」「だって、昂輝君は人間でハンデ」「化身の衝突は対国兵器のぶつかり合い、またはそれ以上の規模になるし」
昂輝「うん、聞いておいてあれだけど、その方がよさそうだね」
先日の木星の化身との戦いを思い出した昂輝は素直に納得せざるを得なかった。
アリア「さて、話もひと段落したところで、学校に行かなくていいの?」
昂輝「え?」
昂輝がスマホの時刻を確認すると、既に遅刻ギリギリの時刻を示していた。
④
昂輝「間に合った……」
家を出てから十数分後。
息も絶え絶え。
昂輝は何とか遅刻限度ギリギリで教室に滑り込むことができた。
瑠々「昂輝、間に合ってよかったね」
昂輝「ああ、危なかったけど……な」
言いながら、昂輝は当たりを見回す。
昂輝(あれ?)(アリアさん、途中まで一緒にいたのに)
そんな昂輝の疑問を他所に、先生が教室へと入ってきた。
担任「えー、皆さん、急ではありますが、転校生が来ましたので紹介します」「それでは、地球沢さん入ってください」
珍しい苗字に教室がざわつく中、カラリと教室の扉が開いた。
昂輝「あびゃいいいいいいいいいいいい(可愛いいいいいいいいいいいいいいいい)!」
昂輝の目の前に転校生として現れたのはアリアだった。
そしてそのアリアの制服姿のあまりの眩しさと美しさに昂輝は叫んでしまった。
瑠々「急にどしたの?」
昂輝「あ、いや、なんでもないというか、なんでもない」
驚いて振り返った瑠々からの奇異の目を誤魔化すように昂輝は喉を鳴らす。
アリア「地球沢アリアです」「両親の仕事の都合で海外からこちらに越してきました」「わからないことだらけなので色々教えてもらえると助かります」「よろしくお願いいたします」
お辞儀をしながら、とても丁寧な挨拶をするアリア。
高校の制服を着たアリアは、女子高生然としており、昨日の戦いの雰囲気など微塵も感じさせない。
アリアのまるでどこかの令嬢のような振る舞いに、クラスの男子からは歓声が上がる。
担任「皆さん仲良くするように」「たしか、神薙の旧友だと聞いてるぞ」「お前の隣に座ってもらうから、よろしく頼むぞ」
昂輝「え?」
昂輝の戸惑いを他所に、アリアは昂輝の元へ行き、指定された席に座る。
アリア「よろしくね、昂輝君」
瑠々「え、ちょ、どういうこと? 知り合い? 昂輝!?」「旧知って、幼馴染の私も知らないって、一体誰?」
昂輝「あー、なんて言えばいいんだろう」
⑤
昼休み。
アリアの周りには人だかりができている。
休み時間にも教室から溢れそうなほどの人だかりができていたが、昼休みにもなるとその数は倍以上に膨らんでいた。
アリア「昂輝君、これ美味しいね」
そんな周りの様子を気にすることなく、アリアは楽し気に購買から昂輝の買ってきたハンバーガーを食している。
昂輝「それはよかったよ」
昂輝も周りは気になりつつも、アリアに目を奪われる。
そんな二人の様子を、不満気に見つめる瑠々。
瑠々「昂輝、ちょっと来て!」
昂輝「え、おい、なんだよ」
いよいよ我慢の限界の来た瑠々は、昂輝を教室の外へと引っ張っていく。
⑥
学校の屋上。
瑠々は昂輝をフェンスに追いやり問い詰める。
瑠々「昂輝、ちゃんと説明して!」「あの子は誰なの?」「幼馴染の私が知らないって、なに?」
昂輝「説明って言われても……」
瑠々「私には一切デレた顔見せないくせに、あのアリアって子にはデレデレして」「……ずっと、黙ってたの、酷い」「もしあの子のことが好きだったのなら、はっきりそう言ってくれれば」
瑠々の耳が赤まり、瞳があっという間に潤んでいく。
うつむきがちになる瑠々。
昂輝「いや、黙ってたとか、そういうわけじゃないんだけど」
アリア「昂輝君は私が守ってるんだよ」
昂輝「アリアさん、いつの間に!」
昂輝が振り返ると、そこにはアリアがいた。
アリアは食事を続けており、ハンバーガーを持ったまま。
かくかくしかじか。
アリアは瑠々に事情を説明する。
アリア「というわけで、昂輝君から離れるわけにはいかないから、こうして高校生の格好で学校に入り込んだってわけなんだよ」
アリアの説明を聞いて瑠々は納得したように頷く。
実際に瑠々が胸元から武器を排出して見せたこともその納得に繋がっていた。
瑠々「昨日、インスタとかに空に浮かぶ木星の画像上がってたけど、あれ、フェイクじゃなかったんだ」
昂輝「秘密にしてたどころか、俺も昨日アリアさんに出会ったばっかだし、正直まだ戸惑ってるよ」
瑠々「そっか。そう、だよね」「自分の命や地球の命運がかかってるなんて整理できないよね」
瑠々は心配そうな目で昂輝を見る。
アリア「まあ、出会った瞬間、好きって告白された時は驚いたけどね」
昂輝「それは、ちょ……」
瑠々「は……?」
瑠々の目から心配の色が消え去り、怒りに近い色が滲みだす。
瑠々「昂輝の初めての『好き』を奪われたなんて……」「ずっと、私に言ってくれるのを待ってたのに」
瑠々は必死に涙を堪える。
アリア「ちなみに、一緒にも住んでるんだぁ」
昂輝「アリアさん!」
瑠々「……む」
ゆらりと、瑠々の背景が歪む。
昂輝「え?」
瑠々「私も一緒に住む!」「それで『好き』以外の昂輝の初めて、全部私がもらう!」「なんなら、私が昂輝を守るんだから!」
昂輝「それは駄目だろ!」「一緒に住むって……」
瑠々「なんで?」
昂輝「なんでって、お前は女の……」
瑠々「男じゃん?」
昂輝「んな……いや、まあそれは……」
瑠々「昂輝はずっと私のことを男の子って言ってきたじゃん?」「だから、ずっと私の好意を受け流してきたじゃん?」「そろそろさ、責任とってよ」
瑠々は笑っているが、目が全く笑っていない。
昂輝は初めて見る幼馴染の笑い方に恐怖を覚える。
瑠々「私、男の子だから、幼馴染の男の子の家に住むなんて、別にやましいことでもなんでもないよね?」「むしろ昂輝は両親海外赴任でろくな食生活送ってないんだから、料理が得意な私がいた方がいいよね?」「これまでは昂輝の気持ちを慮って遠慮してきたけど、もういいや」「昂輝が一目会っただけの女に尻尾降るくらい軽いのなら、昂輝がその軽さで飛んでしまわないように私が重たくなってあげる」
瑠々は顔を昂輝に近づける。
いつの間にか、乙女らしい乙女の表情に切り替わっていた瑠々。
昂輝は思わず目を逸らす。
昂輝「いや、でも……」
アリア「私は賛成だよ?」「一緒に住む人が多ければ楽しいだろうし」「私が守ればいいのは昂輝君だけだから、他の人が増えても全然オッケー」
ギュリっと、瑠々は昂輝を抱きしめる。
瑠々「そんなに余裕かましていられるのも今のうちなんだから!」
昂輝「痛い痛い!」
こうして、瑠々の参戦(?)も決定した。