私はマルジェラというブランドが目指す美しさに惹かれているのかもしれない
11/24までメゾン マルジェラ オモテサンドウで開催されている「Artisanal 2024 Exhibition Tokyo」に行ってきました。予想以上に楽しかったので日記的な記事を残したいと思います。(展示についての感想は「実際に展示を見て」から)
展示に行くまでの話
マルジェラは私が注目しているブランドのひとつです。一番最初に名前を知ったのは確か社会人になって、友人が香水のReplicaシリーズを持っていたからでした。ブランドについてもっと知りたいと思うようになったのは自問自答ファッションに触れてからで、このドキュメンタリーを見て興味が掻き立てられました。学生時代の私がマルジェラというブランドを知っていたら傾倒しただろうなと思ったのです。
マルタン・マルジェラさんの話し方もとても好き。穏やかでやさしい。
ただ私は、このドキュメンタリーの中で音声だけ・顔出しなしで登場するマルタン・マルジェラさんの考え方やデザインを好意的に受け取ってブランドに興味を持った次第なので、ジョン・ガリアーノさんがクリエイティブディレクターを務める現在のマルジェラを好きになれるのか、という疑問もありました。
2024年のコレクションは(あきやさんが多岐にわたるブランドに関して「⚪︎⚪︎さんのコレクションが始まるよ」のお知らせをXで出してくださっていたのもあって)動画で見ており、「これはもう演劇」と言うしかないオリジナリティには脱帽しましたが、好きかどうかと言われると「…」という何とも言えない感想に…
(ちなみに分かりやすく美しく洗練された「快い」ものなら気負わず「好き」と言うことができるのは、野暮ったく美しさのない「不快な」ものを「好き」な自分が許せなくなるからなのかもしれなくて、それがいわゆる天界属性なのかもしれないです)
加えて、先日ジョン・ガリアーノさんのドキュメンタリーを観て、「デザイナーとしては天才かもしれないが、人間としては好きになれそうにないな」という感想を持ったので、そんな私がガリアーノさんのコレクション展示を見に行って良いのかという気持ちにもなったりしました。
ファッション業界のクレイジーさが伝わる映画でおもしろい内容ではありました。(インタビューの中でガリアーノさんは「全て話すよ」と話していたけれど絶対に全ては話してくれてはいないんだろうな)
葛藤はあったものの「どうやら来場は無料のようだ!」で気持ちが定まり、来場申込をしてみました。
実際に展示を見て
見に行ってよかったです。嘘偽りのない感想です。何なら何度でも行きたいです。とても美しく真似できない世界観がそこにはありました。ガリアーノさんという人は好きにはなれないけれど、彼の方が生み出すものは別ものとして捉えることができました。写真撮影OK、SNS等で公開OKということですのでつたないですが写真を載せていきます。(後日写真は消すかもしれません)
この世のものとも思えない繊細なもの
見てくださいこの美しさ…!マネキンの内側?に仕込まれた照明もあいまって、まさに夜の海を泳ぐくらげです…美しい…レトログレーディングという手法で、身体全体を覆うレース的な極めて薄い素材の一部にくらげの形の型抜きを施して、似たような素材のでも異なる柄の布をくらげ型のアップリケのようにわざわざあてはめて縫っているそうなんですよ…正気の沙汰じゃないですね。どうしてわざわざそんな修羅の道を行くようなことをするの…でもその匠の技があるからこそ儚い美しさが生まれるのです…
Fabric sequins(布でスパンコール的な小さな円形の飾りを表現する手法?)が施されたスカート。これもなんて美しいんだろう…モデルさんが歩いたり動いたりするたびにこのひらひらが揺れてわずかに開いていくんですよ…動き方によって見え方が変わるのが素敵。うっすら裏地もあるので人の肌がもろに見えないのも上品。
クリエイターの思考を辿る記録
あと大興奮だったのは、今回展示されているルックの制作過程を記録したジャーナルみたいな冊子がずらっと並べられていたことです。上はそのうちの一冊。スケッチブックとか見本帳とか手記とか大好きな人間なので端から端まで眺めました。冊子の一番下のページにコンセプト案やデザイン画、参考となる過去コレクションの写真等があって、アップデートしていくようにモデルさんの着用写真が上に重ねられていきます。素材や生地の一部がピン留めされているのがおしゃれ。(海外の人って絶対ピン使って物留めますよね!のりとかボンドじゃないんだな…)夢中だったので冊子の写真をあまり撮っておらずこれしかない。
デザインチームが参考にしたという資料も壁全面に飾ってあり、「20年代の美しさの概念」とか「ポーズ」とか「髪型」みたいにテーマごとに冊子化されていました。10点以上…20点くらい飾ってあったかな…色々うろ覚えで間違っていたらすみません。でもその中に「ミッキーマウス」って書かれた冊子もあったことは覚えてます。意外なテーマだったので…今回のコレクションにミッキー関係あった???(誰か解説してほしい)
ファッションは開けている
以上がルックの展示にフォーカスしたフロアの展示でした。まだあります!
その下のフロアは動画鑑賞用のスペースで、壁全体に、今回のルックの制作にあたって活用されているテクニックの数々をお針子さんの実際の制作風景でもって紹介する趣旨の映像や(そこでレトログレーディングの説明があり恐れ慄いた)、コレクションの中で用いられた映像かな?と思わしき様々な動画が投影されていました。
そして来場者には、今回の展示について説明する趣旨の案内(厚紙変形サイズ二つ折り)と、会場スペースの説明も入ったA3ポスターと、記念のポストカードが配布されます。この展示内容を無料で実施してくれる理由が全くもって理解できません…!いいんですかマルジェラの偉い人…
以前あきやさんがどこかで「ファッションは上流から下流まで全員に等しく開かれている」的なことを仰られていた気がするのですが、ハイブランドが率先して実施してくれると、本当にそんな気がしてきますね。そんなことされたら好きになっちゃいます…
あきやさんの記事はこれかな?
「マルジェラの装備(服やバッグや靴)がないから展示に行くための装いができない…諦めよう…」と思っていらっしゃる方がいたら「そんなこと関係なく行って良いと思いますよ…!」とお伝えしたいです。あきやさんもきっとそう仰るはず…!
展示会場を出た後、興奮のあまり隣のメゾン マルジェラ オモテサンドウの店舗にもえいやっとお邪魔しました。普段の自分だったら絶対にそんな勇気は出ないけれどもこの日は別。意外と広いしラインナップ豊富でした。いつか…いつかお布施できればなあ…!と思いながら帰りました。(そのときはぜひ5ACのトートバッグを買います…!)
マルジェラというブランドについて思うこと
(ファッションのことをほとんど分かっていない人間の戯言になり、上から目線に色々と申し上げるつもりはないのですが、メモとして残させてください)
今回こうしてコレクションを見てみて、ガリアーノさんはマルジェラというブランドのことを非常によく理解されているのだなと思いました。
原点であり哲学である「再構築」のキーワード
人がマルジェラというブランドを語るときによく使われるフレーズが「デコンストラクション(Deconstruction: 再構築)」です。既存の概念を打ち壊して再生し新しく創造する。ガリアーノさんが手がける目を引くデザインはまさにそうですし、いろんな意味で「つぎはぎ」をしている今回のコレクションはブランドの信条に則していると言えます。
また、デコンストラクションという言葉は「解剖」という意味合いにも受け取ることができ、今回の展示ではそのイメージを汲んで服をX線で撮影したプリントを壁に飾ったり、解剖台の上に死体を載せるかのように服を配置したり、粋な演出だなと思いました。コレクション内で用いられる包帯(と思わしきストッキング等による加工)とか骨(のようなモチーフ)とかただれた皮膚(のような特殊メイク)などの「死」を彷彿とさせる演出も非常に合っていますね…
今回のコレクションを見た時に頭に浮かんだのは「きれいはきたない、きたないはきれい」、という言葉でした。シェイクスピア作品の引用で元は善と悪の相互関係を指すらしいのですが、ガリアーノさんの手がけたルックはどれも、汚いものも美しいということを知らしめるために、美しいもの(素材)をあえて汚く見せているところから、この言葉が思い浮かんだんだと思います。
というのは、いずれのルックも天界に住まう天使の装いではなく、地上のどこか、霧が立ち込める、汚くひどい臭いの街に住む、リアルな人間(キャラクター)の装いだからです。マルタン・マルジェラさんも、プラスチック材でできたぴらぴらのもはや布としての機能も果たさないドレスだったり、使用済みのシートベルト?を使ったり、日常的な対して高価ではないものに価値を見出していた方です。ガリアーノさんはその哲学を踏襲しつつ、彼なりの「きれいはきたない、きたないはきれい」を体現しようとしているんだな、と思いました。
オートクチュールの精神をマルジェラに強く根付かせたのはきっとガリアーノさん
ガリアーノさんならではと思ったのは、オートクチュール感を強く感じた点です。分かりやすいところでいうとコルセット。今回は男性モデルにも女性モデルにもコルセットを着せ、一体どれだけのコルセットを作ったのだろうと途方に暮れそうになるくらいなのですが(メインがコートのルックでさえも実はちゃんとコルセットが中にあるんですよ…!)、コルセットはマルタン・マルジェラさんならまず採用しないだろうなと…
でもコルセットのフォルム美しいんですよね…着けている方は痛いし自由がきかないし不快極まりないと思うんですが、見てる側にとってはもうただ単に美しいんです…理由とかないんです…
そういうわけで、マルタン・マルジェラさんとガリアーノさん、それぞれに対して尊敬できる部分を感じた展示でした。機会がありましたらぜひ足を運んでみてください。
展示スペースはかなり狭いので手荷物は少ないほうがおすすめです。といいつつ、おみやげ(ポストカード等の配布物)はあるので場合によってはサブバッグ等あると良いかもしれません。
オーディオガイドが聞けるURLを案内されるのでイヤホンを持参すると良さそうです。ただ展示を見ている間はガイドを聞く(心の)余裕がなくなるので、展示回遊は好きなようにしてオーディオガイドは後日聞くでも良いと思います。(私はそうしました)
事前予約なしでもOKではありそうですが予約した方がすんなり入れるかもです。
ルックの制作過程を記したジャーナルは「あのルックと実は姉妹(大元のアイデアは同じ)なんだ〜」という発見もあって楽しいです。一番下のページから見ていくのがおすすめです。
今回珍しくファッションの記事にできて嬉しい🥳二人のデザイナーさんに想いを馳せて、どうやら私はデザイナー軸ではなくブランド軸で、「メゾン マルジェラ」が再構築する(=新しく作り出していく)美しさに興味をひかれているようだということが分かりました。それはきっとクリエイティブディレクターとお針子さん等職人さんたち、ブランドを支えるあらゆるステークホルダーの力でこれまで生み出されてきたもの、今後も引き継がれるもの、これから新たに作り上げられるものです。単推しではなく箱推しみたいなスタンス。特定の人物がいないという意味ではマルジェラというブランドの「匿名性」にも繋がる感覚かもしれません。今後も同ブランドの展開を楽しみに追っていきたいと思います。(そしていつか5ACのトートを買うのです…!)