「コワすぎ!」を観て電車で失神した話
人生初失神だったので記録しておく。
「コワすぎ!」とは
まずは軽く「コワすぎ!」シリーズについて説明しておこう。
正式名称は「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」。
白石晃士監督によるホラー作品で、モキュメンタリーの形をとったオリジナルビデオシリーズである。
現在ビデオシリーズが6作、劇場版2作、「超コワすぎ!」とした新シリーズが2作となっている。
ホラーとしての怖さはそこまでだが、メインキャラクターである工藤ディレクターの「暴」の勢いや怪異に物理で対抗する様、シリーズを貫く一つのストーリーなどが魅力だ。
私は現在、シリーズ7作目にあたる「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!最終章」の途中まで鑑賞済みだ。
えらく中途半端だが、これを観ている最中に起こったことを書き留めておきたかったのでこんなことになっている。
以下、失神の経緯を書いていくが、「コワすぎ!最終章」の内容に結構触れているのでネタバレを敬遠される方は申し訳ないがここでブラウザバックしていただきたい。
指切り
「コワすぎ!最終章」は前作まで話を牽引してきた工藤に代わり、カメラマンである田代(白石監督が演じている)が主人公となっている。
前作「史上最恐の劇場版」において、まあなんやかんやあったせいでディレクターの工藤とアシスタントの市川が行方不明になってしまったからだ。
独自に調査を進める田代のもとに「江野祥平」と名乗る男が現れる。
この江野祥平は、同じ白石監督作品である「オカルト」に出て来る人間である。このために「コワすぎ!最終章」を観る前に「オカルト」を観たりしたのだが、今は置いておく。「オカルト」は江野君と白石君の疑似友情が堪らない。
江野は田代に「工藤と市川をこちらの世界に戻したいなら、4つのミッションをこなせ」と言う。
戸惑いながらも工藤と市川を助けたい一心で従う田代カメラマン。
4つのミッションは徐々に過激になり、3つ目のミッションは「自分の指を包丁で切り落とせ」というものだった。
さて、私は最近アマプラに加入し、ダウンロードした映画を通勤中の電車で楽しんでいた。「コワすぎ!」も1作目からちまちま観て7作目までやってきたのだ。
その日の仕事帰り、私は電車の出入口付近で座席と扉の隙間の角に身を収めながら「コワすぎ!最終章」を観ていた。
そしてやって来る指を切り落とすシーン。
いや、でも、と田代が躊躇し、その度に江野に銃を突き付けられ脅される。覚悟を決めて包丁を押し当てるが、あまりの痛みに半泣きでやめてしまう。早くしろと言う江野は、淡々と指切りシーンを撮影している田代のカメラに銃口を向ける。その途端、大慌てで「やります、やります!」と叫ぶ田代。自分の頭に銃が向けられていた時以上の必死さだ。何があってもカメラを回し続ける田代のカメラマンとしての在り方が見える。「よーし、行くぞー」と震える声で気合を入れ、包丁を指に当てて体重をかける……。
私はわりにグロ耐性はある方なのだが、リアリティが増すとキツくなるタイプだ。
漫画や画像→映像→音あり→リアルな演技
という風に、右に行けば行くほど辛くなる。
なので、この指切りシーンも「ひぃ~」と思いながら口に手を当てて観ていた。
鬱な映画やキツめのスプラッタを観た時と同じような胸の詰まり方をしていたのを覚えている。
ようやっと指切りシーンが終わり、江野が田代を「漢やなあ!」と褒める――と、ここで私の体に異変が起こった。
気持ち悪い。吐き気の序の口みたいな感じ。
頭にどんどん血が上る感覚がし、逆に足からは力が抜けて行く。
あ、これマズいな。
そう思い、動画再生をやめ、スマートフォンの画面を切った。
電車の扉に凭れて目を閉じる。
大丈夫、あれは演技、本当に切ってるわけじゃない……。
自分に言い聞かせるが気持ち悪さと頭のジンジンとした感じは消えない。
ゴンッという音と同時に、額に痛みを覚えた。
はっと目を開くと、目の前に床があった。
手にスマートフォンを握りしめ、土下座のような体勢になっていることを認識した瞬間「……現実?」と呟いた。
あ、これ現実か。
電車の床に突っ伏し、額を打ち付けた衝撃で目を覚ましたらしい。
いつの間に。自分の感覚では、まだ壁に凭れていたはずだった。失神していたのだ。
嘘だろ……と思いながら立ち上がると、私の周囲は半円状に人がいなかった。
優しい方々が席を立って譲ってくれようとしたり、「座りませんか……?」と訊いてくださった。ありがたいことだ。そして申し訳ない。突然電車内で立っていた人間が倒れたらびっくりするだろう。私ならする。
倒れる直前、車内アナウンスで次が最寄り駅であることを知っていた私は「大丈夫です」と丁重に断り、よろよろと電車を降りた。
まだ手足の感覚はどこか遠かったし、気持ち悪さは消えないし、頭は奇妙にひんやりしてぐらぐらするしで満身創痍だったが、水を飲んだり、のそのそ歩いたりしている内にマシになっていった。
そして私の中には「失神ってこんな感じなのか……」という感想と「自分こんなことなるんや……」の気持ちが残った。
要因
初失神が衝撃的だったので、原因を色々考えてみた。
素人ながら多分「神経調節性失神」というものだと思う。
吐き気や発汗といった失神前の前兆も合致しているようだ。
指切りシーンがストレスになって起こったと考えるのが自然だろう。
その他体調面で言えば、その日は月曜日だったのだが、土日のちょっとだらけた就寝・起床時間のせいで寝不足気味だったとか、仕事終わりで疲れていたとか、貧血気味だったとか色々あると思われる。
また、スマートフォンの小さい画面で観ていたので、よりのめり込みやすかったことも挙げられる。
口を手で覆っていたせいで無意識に息を止めていたのかもしれない。
家に帰って上記のようにつらつら考えていたのだが、ふと、もしかしたら「コワすぎ!最終章」にも要因があるのでは? という気がしてきた。
もちろん「コワすぎ!最終章」を観るイコール失神ではないし、「コワすぎ!最終章」が悪いと言いたいのではない。
むしろ作品に散りばめられた要素が綺麗に機能していると言う方が正しいだろう。なぜかそれを受けて私が失神してしまっただけで。
汚さと想像力
江野が田代のもとに現れてから、こう言ってはアレだが画面的に結構汚い演出が続く。
江野の不思議パワーで過去行方不明になっていた人が向こうの世界から転がり出て来るのだが、その人は生まれたての赤子みたいにぬらぬらした液体に塗れている。しかも茶色い。
またまた江野の不思議パワーで瞬間移動をした田代が気持ち悪くなってしまい、道に吐いてしまうシーンもある。二回。あんまりオエオエ言っているので、もらいゲロをしてしまいそうになる。
1つ目のミッションをこなすついでに田代はホームレスらしきおじさんから靴を奪うのだが、その際靴を履きながら「臭っさ! 臭っさ!」と繰り返す。
そして2つ目のミッション、とある女性のパンツを、その……はい。
今思うと、パンツのあたりで自分は妙に没入していた気がする。
映像内で起こっていることは不可解で滅茶苦茶で、でも同時に汚さが嫌なリアリティを出している。手触りと言うか、臭いがしてくる。
ぬらぬらした人間、田代のゲロ、臭い靴、女性のパンツといったものが導線になり、指切りへと繋がっている気がするのだ。
そしてもう一つ、指切りシーンをキツいものにしている原因にカメラの画角がある。
江野が田代に指を切れと言った時点でどうやって映すのだろうと思っていたが、話は簡単、切られる手は映さず、田代の胸より上で演技をするのを見せるというものだった。
モキュメンタリーだしそりゃそうなのだが、この見せ方が結構ポイントになっていると思う。
私達は田代の半泣きの顔や助けを求めるように江野を見る目、何度も包丁を押し当てては呻く様や上がる息だけを見せられる。
これにより、見えない手元に対し想像力が逞しくなってしまうのだ。
覚悟を決めて体重をかければベキベキという嫌な音と共に田代の顔が苦悶に歪む。その時、私の頭の中では具体的な形を持たない指切りシーンが流れている。
想像力には果てがない。
多分、リアルなCGなどで指を切断するシーンを見せられても、そこまでショックではないだろう。
想像を逞しくしてしまったからこそ、明らかに作り物だとわかる田代の切り落とされた指が画面に映った時も、しなくてもいい緊張をしたのだ。
まとめ
ということで、体調や鑑賞時の姿勢、本編の演出など様々なものが相まって失神に至ったのだと思っている。
ただでさえモキュメンタリーという現実との垣根を薄く感じさせる表現手法だったので尚更効いたのだろう。
「コワすぎ!」は最後まで観るつもりだし、その他ホラーも観続ける予定だ。
ただまあ、「コワすぎ!最終章」を観る時は座っている時だけにしようかな……とは思っている。
よければ皆様もどうぞ。アマプラにあるので。