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第21週: ニューラルネットとSoftware2.0

 待望にしていた10月10日のテスラのイベントでは、ロボタクシー(サイバーキャブ、ロボバン)と人型ロボットオプティマスが発表された。いずれの技術もその根幹にはニューラルネットの技術が使われており、その凄さに圧倒される。イベントではブレードランナーっぽい世界観が巧みに演出され、さすがイーロン・マスクだ。しかしこの技術が実際に日本で運用されるまでには、技術的な課題以上に政治的なハードルも高いと感じる。自動運転車、ロボットの安全性が証明されれば、思い切った政策でその技術を運用できるようになることを期待したい。今回はニューラルネットでつくられるSoftware2.0について書きたい。

ニューラルネットとScaling Law

 ハードウェアは「ムーアの法則」に従って半導体の進歩とともに進化してきたが、いくらハードウェアが進歩しても、ソフトウェアが進歩しないとハードウェアの性能を全て発揮するのは難しかった。ハードウェアとソフトウェアの進歩はそれぞれ独立していた。
 しかし、ニューラルネットの登場により、その状況が一変する。ニューラルネットはデータの量とパラメータの量を増やせば増やすほど、精度が上がることが確認されたからだ。これをScaling lawという。ニューラルネットによって優れたソフトウェアを作るには、データの量とパラメータの量を増やせばよく、大量のデータとパラメータを捌くには、ハードウェアにお金をかければいい、ということで、大量の計算が得意なGPUの奪い合いが始まった。ハードウェアにお金をかけることこそが、ソフトウェアの性能に直結する時代に突入したのである。

ニューラルネットとSoftware2.0

 Software2.0とはニューラルネットの技術を活用して、プログラム開発をする方法である。従来のプログラム開発(Software1.0)では、人間が全て手動でコードを書かなければならなかったが、Software2.0ではデータをニューラルネットに与えれば、最適なコードを生成してくれるため、人の手の介在する余地を大幅の減らすことができるのである。
 従来のプログラム開発(Software1.0)では、手動で人間が1から厳密なルールをコーディングしなければならず、コードの量が膨大で複雑になりがちだった。プログラムを改良する場合も、手動で行わなければならず、メンテナンスコストも高くなる。しかしSoftware2.0では、データを与えればニューラルネットが自動的にパターンを認識して複雑な処理をしてくれるため、厳密なルールをコーディングする必要がなくコードの量が少なくてすみ、プログラムの改良も楽になる。その代わり、良質なデータを十分に与える必要があり、そのようなデータを収集することに手間をかけなければならないのである。
 Software2.0の手法が適用されている分野は多岐にわたる。

自動運転

 カメラやセンサーから得られた情報と、アクセル、ブレーキ、ハンドル操作の情報によってニューラルネットをトレーニングし、車両を制御している。テスラに搭載されているソフトウェアは、ユーザーのドラレコの映像を大量に集めてニューラルネットをトレーニングして作られている。ニューラルネットによるプログラムにより大幅にコードの量を削減することに成功している。

ロボット

 従来ではロボットの動作を厳密に定義しなければならなかったが、ニューラルネットの活用により動きを自動で学習させることができるため、効率よくロボットを動かすプログラムが生成できるようになった。この技術を使えば、絶滅が危ぶまれる匠の技を使った日本の伝統技術のデータをニューラルネットに学習させることにより、その技術が存続できるかもしれない。介護現場に適用して、老老問題の解消も期待したい。

医療診断

 CTやMRIのスキャン画像をニューラルネットに学習させて、異常を検出したり疾患を予測している。これにより、人の目だけの診断よりも精度を上げて異常を見つけることができ、がんの早期発見などにつなげている。

自然言語処理

 LLM(大規模言語モデル)と言われるニューラルネットのモデルを使って、テキストを読み込みトレーニングされている。これにより、質問に答えたり翻訳ができるようになっている。

新薬開発

 タンパク質は20種類のアミノ酸から構成されるが、その組み合わせから生まれるタンパク質は数百万種類あるといわれている。従来はアミノ酸の配列とそこから生成されるタンパク質の構造は1対1の関係にあることは分かっていたが、アミノ酸の配列からタンパク質の構造を予測することは困難だった(タンパク質の折り畳み問題)。しかし、アミノ酸の配列をニューラルネットに大量に学習させることにより、そこから生成されるタンパク質の構造を予測できるようになった。これにより、新薬開発の大幅な加速が期待される。

株価予測

 金融データをニューラルネットに学習させることにより株価の予測ができるようになる。個人的には人間の予測よりもよっぽど信頼に値するものが生まれると思う。

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