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安定を求めるほど冒険したくなる

「安定」は平凡でつまらないもの、イコール死だ。

私は今までこんなふうに考えていました。

だから会社選びでも、きっと多くの人が大事な判断材料にするであろうワークライフバランスやお給料の良し悪しなどは二の次で、とにかく自分が楽しいと思える仕事ができるかどうか、それが最も重要な要素でした。

念願叶ってエンタメ業界で仕事をすることになってから、プライベートでも仕事でも好きなことに触れていられる、趣味で得た知識・経験がそのまま仕事に生かせる環境にどんどんのめり込んでいきました。

ただ、テレビ局や芸能プロダクションなど、不規則な時間に働く人たちを相手にするので当然私たちの労働時間もそれはそれは非人道的なもの(笑)
多くの会社員が退勤するであろう時間帯から本格的な作業が始まり、明け方まで作業することもしばしば。「しんどいなあ」と思うことも数えきれないほどありましたが、当たり前のように過ぎていく非日常的な現実が感覚を鈍くさせてしまうんですよね。

だからずっと「自分が好きなものに携われるなら、どれだけ辛くても乗り越えられる」という自分の中での揺るがない信念を持って仕事をしていました。

でも何度か転職をしたのちに入社した会社。そこは私が長年目指してきた仕事がやっとできる夢のような場所でした。内定をもらった日、「人生何が起こるか分からないもんだなあ、なんだかんだ頑張ってたら報われるんだなあ」とやたら感慨に浸っていたことを今でも鮮明に覚えています。間違いなく人生最幸の瞬間でした。

でも夢みたいな現実は長くは続かない。

紆余曲折あって退職に追い込まれた時、私の人生は終わったと思いました。これまでの人生で一番の挫折、あれほどまでに絶望する日はもう来ないんじゃないかというくらい目の前が真っ暗に。

その時に私は、最愛のものを仕事にする残酷さを知りました。そして、好きなことであれば何があっても耐えられるという自分の信念も崩壊。

退職してからというもの、自分が一体この先何をしたいのか、何を大事に働きたいのか全く分からなくなり、復職に向けて動き出そうとすればするほど前職でのトラウマが呪いのように追いかけてきました。

でも、結局は時間が解決してくれる。私の人生最大のトラウマから2つ季節が過ぎ肌寒くなってきた頃、将来のことを考えられるようになりました。

「どれだけ好きなことでも耐えられないものは耐えられない!」と覚えた私は、どんな仕事をするかよりもどんな環境で誰と仕事をしたいかということを重視して会社選びを実行。やっぱり長く働くには、労働環境と周囲の人間性が大事ですからね!

ところがどっこい!順調に就職活動が進んでいた最中、きれいさっぱり清算したはずのエンタメ業界への未練がよみがえってきます。

エンタメ業界は「中毒」といわれますが、まさにその通り。刺激に飢えた変人の巣窟なのです(とんだ偏見)

「労働環境はいいんだけど、もの足りないんだよなあ…」

選考を受けている会社には心底失礼で申し訳ない。でもやっぱり心のどこかで日常では味わえないワクワクを仕事にも求めてしまう。あの業界に戻れば、過酷な環境でまた疲弊してしまうのが分かりきっているのに。

あれだけ時間をかけてトラウマと向き合い、そして消化し、これからの人生どう生きたいか決めたというのに。自分の軸の脆さにがっかりです。

でも、一度エンタメを仕事にしてしまえばもう手放すことができない、ああ、やっぱり私には「安定」という言葉に縁がないんだなと清々しくもなりました。無理やりふたをしたものは、ふとした瞬間に顔を出してしまう。

そんなこんなでそろそろ終われるかもと意気込んでいた就職活動も、完全に振り出しに戻ってしまいました。また求人を漁り、志望動機を考えて、大の苦手な面接に挑む日々が始まります。

あの頃とはまた違った絶望を感じる反面、なんだかワクワクしていて心に火が灯っていく感覚を味わいながら。



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