ダンス柔術

1 「空手バカ一代」という漫画がある。雑誌連載時は私が生まれる以前のはずだから、私が読んだのは20代になって以降に復刻された文庫版である。
 マス大山が空手の大会に出て、伝統派空手を「ダンス空手」と揶揄しているシーンを今でも覚えている。マス大山のモデルである大山倍達本人がそういう発言をしたのかは知らないが、原作者である梶原一騎としては「極真空手」の実戦性を宣伝するために、伝統派空手を貶めるような話を創作したのだろうと思う。
 なぜいきなり「空手バカ一代」の話から始めたのか不思議に思われた方もいるかもしれない。
 伝統派空手が「ダンス空手」だとは門外漢の私にはとても思えないが、「ブラジリアン柔術」については、公式試合に勝つ事だけを目的に練習していると、「ダンス空手」ならぬ「ダンス柔術」になる危険がある事を本稿で指摘しておこうと思ったからである。
 まずは、次の試合動画を見て頂きたい。

 「ブラジリアン柔術」に馴染みのない方のために、この二人の選手が「ダブルガード」から何をしたかったのか?という意図について説明しておく。

 この動画の解説を見れば、ある程度先の試合における両選手の意図が理解できるのではないだろうか。つまり、「先に立ってアドバンテージを取りたい」裏を返せば「相手にアドバンテージを取られたくないから」お互い3秒以内に立ち上がって、アドバンテージが入らないように延々とスクワットを続けているのである(注1)。

注1)DUMAUルールでは、下記ルールブックの51頁を参照。アドバンテージではなく2点が入る。上記「ダブルガード」の解説はDUMAUルールを念頭に置いているモノと思われる。
https://files.sjjif.com/public/assets/SJJIF_Rulebook_jp.pdf
 
 確かに「ダブルガード」からの「ベリンボロ」(注2)は、「ブラジリアン柔術」の中でも華があり、高度な技術だとは思う。だが、「試合に勝つ」事だけに焦点を当てて練習を重ね、試合に熟達すると、ポイント一つ、アドバンテージ一つで勝敗が決まる事が多々あるので、「アドバンテージを取る」「取られない」の攻防をやらざるを得ないのである。

注2)

 当人達も勝つために大真面目にスクワットをしているのだが、「ブラジリアン柔術」に経験のない人が、こういう試合を見てどう思うだろうか?

Double guard pull > double leg

Posted by Easton Training Center - Arvada on Thursday, June 17, 2021

 こういう反応が自然だと私も思う。私は先の試合に見られるような「ダブルガード」の展開を「柔術ダンス」と呼んでいる。
 試合に勝つためにルールの穴を突くのは立派な戦術だろう。だが、ルールそのものがおかしい、あるいは、穴だらけの場合、そこに一度は疑問を感じて欲しい。
 先に引用したBJJBEEの記事の下の方で、サウロ・ヒベイロが「柔術の本質はセルフディフェンス」と語っているが、「ダブルガード」の展開も「ブラジリアン柔術」の流行り廃りの中でいずれ消えていく技術だと思われる。
 私は「セルフディフェンス」に焦点を当てて稽古しているが、公式試合に勝つために練習を続ける人々を否定する気は毛頭ない。試合での勝ち負けは別にして、平素の自分の練習の成果を「試したい」と思うのは、人として自然な感情だろう。だが、「試合」はあくまでも「試し合い」である。「殺し合い」を意味する「死合」ではない。
 大事なのは「試合」の勝ち負けに一喜一憂することなく、日々の稽古を積み重て行く事ではないだろうか。努力は続ける事に価値がある。

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藤田 正和
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