スクールアイドルミュージカルの時代設定と、ある説についての考察・完全版
※本記事は『スクールアイドルミュージカル』におけるネタバレを、思いっきり含んでいます。
鳴りやまない拍手の中で幕を閉じた、
『スクールアイドルミュージカル』追加公演。
初演の評判に誘われて、今回初めて観劇された方も多かったのではないでしょうか?
私自身も、8/6(日)のソワレ・大千穐楽だけになりましたが、観劇させていただきました。初演時の大阪公演・大千穐楽(2023/01/29)では、当時イベントでの声出しが解禁されておらず、カーテンコールで「いつかみんなと一緒に歌いたい」と言っていたルリカちゃんとの”約束”を果たすことができて、本当に感慨深かったです。
さて、今回の追加公演が初見だったという方で、さらには『ラブライブ!シリーズ』がお好きな方の中には、こう思った方も多いはず。
「これって、いつの時代の物語なんだ??」
「あれ…もしかしてこれ、スクールアイドルのはじまりの物語なのでは??」
これらの疑問についてですが、
正直、ほぼ答えが出ています。
この記事では、これらの疑問についての、考察理由をまとめました。
とは言うものの、内容の6割くらいは、初演後に私が投稿した考察動画とほぼ同じです。
動画の方はネタバレを極力避けた内容ですので、舞台を未見の方でも安心して見られるようにしてあります。よろしければ動画の方もぜひ。
この記事は、動画では削ることになった、真偽不明な情報や、個人的な見解が強い考察、さらに追加公演での新情報も含めて、情報を一本化するために書いた次第です。
夢中で書いていて、気がつけば、1万5千字越え。
よろしければ、お時間のあるときにお付き合いただければ幸いです。
第1章:『スクールアイドルミュージカル』の時代設定はいつ?
まずは、『スクールアイドルミュージカル』での劇中の描写から、時代設定について考察していきます。
結論を先に言うと、『スクールアイドルミュージカル』は、
ほぼ間違いなく、時代設定を意図的に現代よりも昔に設定していると思われます。
その理由を一つずつ紹介していきます。
【時代考察①「メディア・電子機器」】
『スクールアイドルミュージカル』(以下、略称として『SIM』)の劇中では、令和では当たり前のメディアや電子機器を、恐らく意図的に登場させていません。
一つは「スマートフォン」
理事長2人が通話をしていたシーンでは、ガラケーを使用していました。
これだけなら、舞台上での芝居をわかりやすくするためだったり、コメディ的な演出意図のためだとも考えられるでしょう。
しかし、劇中の女子高生たちは、スマートフォンどころか、ガラケーすら、誰一人として劇中で使用していませんでした。
特にスマートフォンは、初代『ラブライブ!』TVアニメ第一期(2013)より作中に登場し、以降も『ラブライブ!シリーズ』においては、女子高生の象徴的アイテムとして使われてきたものです。時には物語上のキーアイテムを担うこともありました。
『ラブライブ!』に限らず、現代の女子高生を描いた作品であれば、当たり前のようにスマホが登場するはず。
椿咲花の子たちが、ハーバーランドで待ち合わせをする場面も、もし各々がスマホや携帯電話を持っていれば、簡単に解決してしまったことでしょう。
少なくとも椿咲花の子たちは、ガラケーすら持っていないのではないでしょうか。お嬢様学校故ゆえに、まだ持たせてもらえていないのかもしれません。
また、スマートフォンだけでなく、劇中の情報媒体も、令和らしくはない印象があります。
『SIM』の物語は、椿ルリカちゃんが「滝桜女学院アイドル部」の模様をテレビで観ることろから幕を開けます。
その後も、滝桜のことを深く知る手段として、雑誌が何度も登場していました。現代の女子高生の情報収集の手段としては、やはりスマホが一般的ですよね。
もはや10年前の作品になる、初代『ラブライブ!』ですら、μ'sの子たちはスマホやPCを多用していました。これらの現代的な情報メディアが『SIM』では一切使われていません。
もちろん、舞台上で芝居のわかりやすさを優先して、テレビや雑誌を用いたという可能性もあるでしょう。
ただ、雑誌に関しては、追加公演において興味深い情報がありましたので、後述の項目もご覧ください。
さて、これらのことから、『SIM』は、ガラケーは普及しているものの、スマートフォンはまだ普及していない時代、なのではと考えられます。
では、国内の携帯電話の普及事情を見てみましょう。
1990年代半ばまでは、外出先での連絡手段としては、公衆電話かポケベルが一般的でした。1995年を境にシェアが拡大し、90年代後半からは、PHSやガラケーが急速に普及していきます。
その後、しばらくは携帯電話一強の時代が続きますが、2010年代初頭からは、スマートフォンが瞬く間にシェアを拡大することになります。
スクールアイドルらしく、高校生に対象を絞ったデータを見ると、平成24年(2012年)には、たった一年でスマホと携帯の所持率が逆転します。
そして、平成25年(2013年)、ちょうどTVアニメ『ラブライブ!』第一期の放送時期には、高校生の80%以上がスマホを持っていたようです。
これらのデータから、ガラケーは普及し始めているが、スマートフォンはまだ普及していない時代というのは、広めに捉えても、1995年頃~2012年頃と言えるでしょう。
【時代考察②「ルーズソックス」】
メディアの他に、服装からも時代を考察できる要素があります。
滝桜女学院の晴風サヤカちゃんは、制服にルーズソックスを着用しているキャラクターでした。
これは、公式のイラストにも反映されていることから、ルーズソックスが彼女の正式なアイテムであることは間違いないでしょう。
また、彼女以外にも、滝桜女学院の生徒には、ルーズソックスを着用した子が複数人います。
このことから、晴風サヤカちゃんの個人的な趣味のファッションセンスというよりは、ルーズソックスが流行している時代である、とは考えられないでしょうか。
若い方などで、ルーズソックスをご存じない方のために少し説明をすると、
ルーズソックスとは、平成の女子高生の間で、爆発的な流行をしたファッションのことです。
1990年代初頭に流行が始まり、1996年には「ユーキャン・新語流行語大賞」のトップテン入りするほどの大流行をします。
その後、2000年の初頭から少しずつブームが去っていったようです。
1990年代~2000年代初頭に生まれた作品や、その時期をあえて時代設定としている作品では、ルーズソックスを着用した女子高生のキャラクターも多く見かけることでしょう。
ルーズソックスは、まさに平成ギャルの象徴と言っても過言ではない存在で、それを複数キのャラクターの衣装に採用していることには、何かしらの意図を感じますよね。
その意図とは。
やはり、時代を現代より少し昔に設定しているから、ではないでしょうか。
【『ラブライブ!シリーズ』から見るスクールアイドルの誕生時期とは?】
そもそも、『ラブライブ!シリーズ』の中で「スクールアイドル」という存在はいつ生まれたのでしょうか?
ここで一旦、考察の前提を整理しておきます。
シリーズ第1作目『ラブライブ!』は、TVアニメ化の際にキャラクターデザインなど、多くの設定が一新されていました。
このときに、実は時代設定も一緒に更新されていたのではないかと、私は考察しています。
例えば、TVアニメ化前にリリースされた、アニメーションPVでは、ガラケーを使用しているキャラクターも多くいましたが、TVアニメでは全員がスマートフォンを使用しています。
TVアニメ『ラブライブ!』第1期(2013年)の制作時期相応に、時代設定も一新されているのだと私は考えています。
というわけで、TVアニメをベースに、
μ'sの物語=2013年
という仮定を基にして、この後の話も進めていきます。
さて、そんな第1作目『ラブライブ!』では、TVアニメ第1期1話の時点で、既に「A-RISE」をはじめとしたスクールアイドルが、大きな人気を博していました。
そして、第1期4話でついに、スクールアイドルたちの甲子園、「ラブライブ!大会」の、第一回の開催が発表されます。
その後にスクールアイドルの人気がどれほど高まったのかは、劇場版や、後のシリーズ作品を観れば明らかでしょう。
つまり、μ'sの物語(2013年)が始まる前から、全国大会が開催できる規模でスクールアイドルの人気が拡大していたため、
スクールアイドルの誕生自体は、もう少し前だったのではないでしょうか。
また、シリーズ4作目『ラブライブ!スーパースター!!』では、葉月恋ちゃんのお母さん、葉月花さんが、スクールアイドルがまだない時代に「学校アイドル部」として活動していた、というエピソードがありました。
「学校アイドル部」の正確な活動時期はわかりませんが、ここではおおよその推測を立てて考えていきます。
まず、仮定として、『ラブライブ!スーパースター!!』第1期の時代設定を、放送時期と同じ2021年とします。(作中の描写を見るに制作時期と時代設定が、大きくは離れてはいないはずです。)
すると、葉月恋ちゃんの生年月日は、2005年11月24日となります。
仮に、葉月花さんが、恋ちゃんをご出産された年齢が25歳だとすると、
花さんは1980年生まれとなるので、1996年~1998年の三年間が高校生だったことになります。
また、35歳でのご出産だと仮定すると、花さんは1970年生まれとなるため、1986年~1988年が高校生だったことになります。
つまり、葉月花さんのスクールアイドルがまだない時代の「学校アイドル部」は、1980年代後半から1990年代後半のどこかに当てはまるのではないでしょうか。
かなり仮定が多く含まれる考察ですので確証は薄いですが、大きく外れてもいないと思います。
【時代考察のまとめ】
ここまでの時代考察をまとめます。
まず『SIM』劇中からの考察は以下の通りです。
・ガラケーの普及時期→1995年頃~2012年頃
・ルーズソックスの流行→1990年代初頭~2005年頃
そして、この2つが重なる時期は、
1995年頃~2005年頃となります。
『スクールアイドルミュージカル』の時代設定は、この辺り年代を想定しているのではないでしょうか?
他の『ラブライブ!シリーズ』の時代考察とも照らし合わせてみましょう。
1995年頃~2005年頃がスクールアイドルの誕生とすると、
それから約18年~8年後に全国大会の開催(2013年)されるほどの人気になった、という歴史の流れになり、そこまで不自然ではないかと思います。
また、葉月花さんのスクールアイドルのない時代を1980年代後半から1990年代後半と仮定しましたが、スクールアイドルが誕生はこの時代より後になるので上手く当てはまりそうです。
もちろん、公式にここまで厳密な年代設定はしていないかもしれません。
細かい年代の考察については、正直当たっている気はしていません。
しかしながら、
・μ'sの時代から当たり前に使われていたスマートフォンが登場しない
・平成初期~中期を象徴するファッションを複数人に採用している
という事実だけを見ても、
『スクールアイドルミュージカル』は、少なくとも、μ'sの時代より前の時代を想定している。
という可能性は非常に高いのではないでしょうか。
これまでの『ラブライブ!シリーズ』は、現代劇が基本でした。
(※『幻日のヨハネ』のような特殊例を除く)
どの作品も、制作時期通りの舞台を背景にし、登場するメディアの進歩も時代相応です。あえて時代設定をずらしたように思える作品は一つもなかったわけです。
つまり『スクールアイドルミュージカル』は、
『ラブライブ!シリーズ』史上初めて意図的に時代設定を設けた作品
と言えるでしょう。
そして、何かと面倒な時代設定を、なぜ設けたのか。
その理由は、やはり、スクールアイドルの「はじまりの物語」を描くため
ではないでしょうか。
第2章:本当にスクールアイドルの「はじまりの物語」なのか
結論から先に言ってしまうと、
『スクールアイドルミュージカル』が、スクールアイドル誕生の物語であるということは、99%間違いないと思っています。
【「はじまりの物語」であると断言できる根拠】
99%間違いないなんて、なぜそんな自信を持って言えるのか。
最大の根拠は、公演パンフレットの中にあります。
パンフレットのP34からは、主要スタッフ4人によるインタビューが掲載されています。このインタビューには、本当に興味深い話が目白押しなので、ご購入された方は、ぜひ読んでいただきたいですね。
パンフレットによれば、そもそもこの『SIM』の企画は、ミュージカルシーンでご活躍されている、岸本功喜さんと小島良太さんのお二人自らが、サンライズの若林悠紀さんにコンタクトをとり、「ラブライブ!シリーズでミュージカルをやりたい」という企画を持ち込んだことが発端とのことです。
若林さんと言えば、μ's最初期から現在まで『ラブライブ!シリーズ』に携わられているお方で、2015年頃までは公式Twitterの中の人として「Sun_わかば」名義でツイートされていたのを見ていた方も多いはず。
(※10周年の際に久々に名義付きでのツイートをされていましたね。)
『SIM』には、若林さんがプロデューサーとして携わられています。μ'sよりも昔の時代を描く。そんなシリーズの根幹に関わるレベルの話を可能にできる立場の人ではあるはずです。
さて、ここからが本題です。
パンフレット内の、主要スタッフインタビューの中の、
若林さんが「『SIM』の脚本はアニメ制作同様にみんなで話し合いながら制作をしていった」という話題に続いての、岸本さんのコメントを一部引用します。
そうです。
『スクールアイドルミュージカル』の脚本会議の中では、
スクールアイドルがどう生まれたか、についての議論がされていた
というのです。
『SIM』の劇中では、滝桜女学院は「芸能コース」、椿咲花女子高校は「アイドル部」という名称で、「スクールアイドル」というワードは途中まで一切登場していませんでした。
物語が進み、大一番のあのシーンで初めて、椿ルリカちゃんの口から「スクールアイドル」という言葉が出てきました。
この瞬間、世界に『スクールアイドル』という概念が生まれたのではないでしょうか。
「ラブライブ!大会」が生まれるのはもう少し先のお話。
だからこの舞台は、『ラブライブ!ミュージカル』ではなく『スクールアイドルミュージカル』なのではないでしょうか。
前章の考察から
・時代設定をμ'sよりも昔にしている可能性が高い
さらに、
・スタッフ内で、スクールアイドルの誕生についての議論がされていた
そして、
物語の終盤で初めて「スクールアイドル」という言葉が出てくる
この3点を鑑みれば、『スクールアイドルミュージカル』がスクールアイドル誕生の物語であることは、ほぼ間違いないでしょう。
【本当の本当にスクールアイドルの始祖なのか?】
ここまで考察を書き並べておいて、ちゃぶ台をひっくり返す話かもしれませんが。
『スクールアイドルミュージカル』が、「スクールアイドルのはじまりの物語」であることは、ほぼ間違いないと考えています。
しかし、スクールアイドルの唯一の始祖ではないのでは、とも思います。
前章で触れた通り、スクールアイドルがまだない時代に、葉月花さんは「学校アイドル部」として活動していました。
また、シリーズ最新作『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』において、芸術の名門校である『蓮ノ空女学院』の「スクールアイドルクラブ」も、「スクールアイドル」という言葉が生まれる前は「芸学部」という名称で活動していたことが語られています。
つまり、「スクールアイドルのような存在」は、呼び名に違いはあれど、全国で散発的に生まれていたのではないか、とも思うのです。
そんな中、どこかのタイミングで「スクールアイドル」という呼称が広まり、地方名門校のクラブ名が変わるほど、全国的に浸透することになった。
そのきっかけは、「ラブライブ!大会」の開催だったのか、もしくはμ'sの爆発的な人気だったのか。はたまた、椿滝桜の子たちが何か大きなムーブメントを起こしたのか……。
それはわかりません。
『スクールアイドルミュージカル』の続編があれば、もしかしたら。
なんて思ってしまいますね。
【スクールアイドルミュージカルの記録?】
そういえば『ラブライブ!』及び『ラブライブ!スーパースター!!』にも登場した、「伝説のアイドル伝説」というDVDがありました。
『ラブライブ!』一期で、そこまで深く考えているわけないだろ、というツッコミは置いておいて…
収録内容は「各プロダクションや事務所、学校など」とのことで、プロのアイドルだけではなく、スクールアイドル(の先駆け的存在)も含まれているのでしょう。
椿滝桜のスクールアイドル、そしてメジャーデビューした元滝桜女学院の芸能コースの子たちも、もしかしたらこのDVDには収められているのかもしれません。
また、TVアニメ『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』2期第5話では、「スクールアイドル」記念館なるものが登場し、歩夢たちは「スクールアイドルの軌跡」という展示会を見ていました。
もしかしたらここには、『スクールアイドルミュージカル』での彼女たちの記録も残されているかもしれませんね。
第3章:追加公演に際しての新考察材料
さて、ここからは、追加公演で新たに出てきた考察材料についてです。
【追加公演における隠れキャッチコピー】
『スクールアイドルミュージカル』のキャッチコピーは、
「大事な約束より大事なことを探して……。」ですよね。
しかし、追加公演の際に公式Twitterなどでは、
「スクールアイドル はじまりの物語」というキャッチコピーが密かに(?)繰り返し使われていました。(初演時には一度も使われていなかったはずです。)
あ~……つまりもう、これは完全にそういうことです。
しかしながら、「はじまりの物語」であることを、前面に押し出してウリにしているわけではなく、まだ観に行っていない人は全くピンと来ないで読み飛ばすし、既に観劇した方はニヤニヤできる、くらいの言及にとどめているのが、ニクいですよね。
ちなみに、脚本・演出の岸本さんはもちろん、キャストの方も、ツイート内で、この言葉を使用するようになり、
さらには、7/28(金)放送の『ラブライブ!シリーズのオールナイトニッポンGOLD』内でも、皇ユズハ役・浅井七海さんが「スクールアイドルのはじまりの物語を、ぜひ一人でも多くのみなさんに、目にしていただきたい」と、サラッと仰っています。
公式でも、キャストの方々も、「はじまりの物語」であることを認識した上で、あえて大々的な明言は避けてくださっているのでしょう。
そのご配慮に感謝するばかりです。
【時代考察についての新情報「ルリカの雑誌」】
第一幕では、ルリカちゃんが滝桜のことを知るために、雑誌を読んでいるシーンがありました。
この雑誌は、表紙と裏表紙が舞台用に作られたオリジナルのもので、中身は既存の雑誌が使わています。
(※下記の動画リンクから初演の雑誌の様子が少しだけ見られます)
初演時は、中身の雑誌に『MIRACLE WAVE』衣装のAqoursキャストが掲載されていたという口コミが多くありました。
どうやら中身の雑誌には、「B.L.T.2018年9月号増刊 Aqours版」が使われていたようです。
パラパラとページをめくる芝居のため、観客から中身が見えてもシーンの意味がブレないように、適当なご当地グルメ雑誌などではなく、アイドルっぽい内容の雑誌にしたのでしょう。
この雑誌が使われた経緯はわかりませんが、サンライズに置いてあった雑誌をとりあえず持ってきた、みたいな単純な理由かもしれません。
しかしあくまで、「滝桜女学院のことが載っているアイドル誌を読んでいる」というシーンですので、ルリカちゃんがキャストのAqoursに触れているというような考察は全くの誤りだと思います。
その証拠として、追加公演では、表紙と裏表紙のデザインは同じままで、中身の雑誌だけが変わっていました。
自分も観劇時に目を凝らして見ていたのですが、中身の雑誌が変わっているということだけしかわからず、内容まではわかりませんでした……。
ここは集合知(?)に頼ってTwitterをエゴサしていると、これらのような情報がみつかりました。
どうやら、2005年の雑誌で、「Berryz工房」が載っている雑誌、という可能性が高そうです。
この情報を元に調べを進めると、「Berryz工房」さんは2005年に『B.L.T.』で連載を持っていたらしく、2005年に出版されたこの雑誌には頻繁に掲載があったことがわかりました。
B.L.T.(ビーエルティー) 7月号 (発売日2005年05月24日)
公式サイトのを辿ると、Berryz工房やモーニング娘のライブレポートも掲載されていたとのこと。⇩
https://www.fujisan.co.jp/product/2173/b/81351/ap-tw-fujisan
『B.L.T.』は、2015年までは地方版も多く出版されていて、特に関西版は『KANSAI B.L.T.』として独自の紙面も多かったとのこと。(※Wikipedia情報)
同じ『B.L.T.』の雑誌ですし、追加公演では2005年発売の『KANSAI B.L.T.』を使用していたのではないでしょうか?
『SIM』の舞台も関西ですので、時代設定と場所の設定を合わせるために、
雑誌の中身を2005年の『KANSAI B.L.T.』に変更した、というのは理屈が通っていると思います。
そして、もしこれが正しければ……
『スクールアイドルミュージカル』の時代設定は2005年である
という見立てが強まります。
2005年は、ガラケーの時代ですし、ルーズソックスもギリギリ現役の時代ですので、可能性は十分にありますね。
第4章:なぜ『スクールアイドルミュージカル』で「始まりの物語」が描かれたのか、についての私見
最後に、ここまで事実ベースで考察を進めてきましたが、ここからは個人的な考察が9割の話になります。
第2章で触れた、パンフレット内の岸本さんのコメントを再度引用しましょう。
これを読むに、岸本さんが企画を持ち込んだ段階では、「ラブライブ!でミュージカルを作りたい」という企画だけで、「スクールアイドル誕生の物語にする」というアイデアはまだなかったように見受けられます。
「はじまりの物語」の案は、『SIM』の企画が正式に立ち上がり、内容を揉んでいく中で決まったのではないでしょうか。
そして、パンフレットを読んだ方はわかるかと思いますが、
『スクールアイドルミュージカル』は、一切の予定がないところから生まれた物語です。
『ラブライブ!シリーズ』全体のロードマップにはない、完全に外から持ち込まれ、生まれた企画なのです。
言ってしまえば、シリーズ全体の予定として、μ'sより前の時代や、スクールアイドルのはじまりの物語を作る、そんな予定は当初はなかった、とも言えるのではないでしょうか。
例えば、周年記念で、一作目の過去を描いた特別編を作るだとか、新シリーズを全シリーズを横断した作品にするとか、長期化したシリーズ作品では珍しくないことですし、コンテンツも非常に盛り上がる要素ですよね。
(中には、描き方が上手くいかず、熱心なファンの反感を買ってしまうケースも往々にしてありますが…)
そういった予定もなかったのだと思います。
では、なぜ。
成功するか失敗するかも未知数。あえて悪い言葉を選べば、ポッと出の企画である『スクールアイドルミュージカル』に、シリーズの根幹にも関わるような「はじまりの物語」を授けたのか。
これは、私見が9割の考察になってしまうのですが、
この理由は、企画を話し合う中で、「スクールアイドルのはじまりの物語」と、「ミュージカルの親和性」が見いだされたからではないでしょうか。
舞台演劇には、描かれていない部分は観客が脳内で補完する
という特徴があります。
さっきまで学校だった場所も、街灯とベンチを一個置くだけで、そこがハーバーランドに見えてくるのです。
これが、アニメや映画などの映像作品であれば、街の全景から、一度も触れない部屋の小物まで細かく設定する必要があるでしょう。
仮に『SIM』と全く同じシナリオでアニメを作ったとしても、背景や小物、何気ない日常のやり取り一つで、現代の設定ではないことを誰もが察するはずです。もしかしたら、本編そっちのけで、まるで時代考察がメインディッシュかのように、ネット上では盛り上がってしまうかもしれません。
アニメでは、作品のテーマが、ダイレクトには伝わらないかもしれません。
さて、ここまで偉そうにつらつらと考察を書き並べている自分が言うのもアレですが……
『スクールアイドルミュージカル』に、
時代設定だの、考察だの、マジでどうでもいいと思っています。
時代設定だの、他のラブライブ!シリーズがあーだのこーだの、ルリカちゃんたちの青春の物語には、1ミリも関係がない話です。
『スクールアイドルミュージカル』の世界を純粋に楽しむ上で、はっきり言えば、ノイズでもあるわけです。
正直自分は、考察なんてメインディッシュをひとしきり味わったあとに、好きな人だけが楽しめばいい、食後の杏仁豆腐ぐらいのものだと思っているのです。
話を戻します。
観客に伝わる最低限の情報だけを舞台上に出し、大筋に関係のない情報を極限まで省けるのが、舞台演劇の長所でもあるわけです。
それ故に、時代設定に関する情報も、極限まで削り落とすことができる。
事実、『SIM』の時代設定の要素も、気が付かなかった観客は、気が付かないまま劇場を後にしたはず。鑑賞中のノイズにならない情報量に抑えられています。
だからこそ、『スクールアイドルミュージカル』では、
余計なノイズが削ぎ落とされ、物語は2時間に凝縮され、
登場人物たちの心情、キャストやスタッフの方々の熱意、
そして、「やりたいからやる、それがスクールアイドル」というテーマ、
これらが観た人の心にダイレクトに伝わってきたのではないでしょうか。
もし、スクールアイドルの「はじまりの物語」を描こうとしたら、
「スクールアイドルとは何か」がテーマになるのは当然の帰結にも思うのです。
また、逆も然り。
これだけ多様な作品が生まれた、今のラブライブ!シリーズで、
改めて「スクールアイドルとは何か」という本質をテーマに物語を作ろうとしたら、「はじまりの物語」を描くことになるのではないでしょうか。
いずれの道順であっても、「はじまりの物語」と「スクールアイドルとは何か」というテーマはセットとなった、そんな気もするのです。
そして、このテーマがブレてしまい、伝わらないようであれば、「はじまりの物語」を描く意義は薄い。
最もダイレクトにテーマが伝わる手段として、ミュージカルとの親和性が非常に高かったのではないか
というのが、私の見解です。
パンフレットの中には、若林さんからこのような発言がありました。
脚本・演出・振付に、(『未完成ドリーム』を除いた)すべての劇中曲の作詞もされた岸本功喜さんと、
音響監督・歌唱指導に、ほぼ全楽曲の作曲・編曲をされた小島良太さん。
このお二方が、いかに高いレベルで『ラブライブ!シリーズ』を理解し、それを楽曲や物語に落とし込み、ミュージカルという形に昇華させたのかは、公演を一度でも観た方ならば十分にわかるはずです。
このお二人になら、スクールアイドルの本質を描いた、はじまりの物語を託すことができる。
そう判断されたのではないでしょうか。
話をまとめます。
『スクールアイドルミュージカル』に「はじまりの物語」が授けられた理由
それは、
テーマが素直に伝わるミュージカルと「はじまりの物語」の親和性の高さ。
それだけではなく、
岸本功喜さんと小島良太さん、
お二方と、『ラブライブ!シリーズ』及び「スクールアイドル」の本質との親和性の高さもあったのではないか。
このように私は感じています。
おわりに
もし、ここまで長々とした文章を、読んでくださった方がいらっしゃいましたら、嬉しい限りです。
昨今では、SNSや動画サイトなどの普及もあり、
アニメや映画、漫画にゲーム、それから舞台演劇においても、ファンの考察という文化が非常に盛んです。
もちろん、観客に考えさせることを狙った作品も多くあります。
しかし、少なくとも『ラブライブ!シリーズ』においては、
考察なんぞ、メインディッシュをちゃんと味わったあとに、好きな人だけが楽しめばいい程度のものだと、私は思っています。
考察にだけ興じるのは、中華料理の名店を訪れて、杏仁豆腐だけ食べて帰るくらいのバットマナーでしょう。
あくまで作品を純粋に楽しむことを第一に、
ときには深読みしてみたりして、これからも楽しんでいきたいですね。
ここまで長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
そして、またいつか、
『スクールアイドルミュージカル』の世界に、
ルリカちゃんたちに再び会える日を願っております。
※不採用とした考察「さんちかのアニメイト」について
さて、ここからは、かなり蛇足な内容です。
私が投稿した動画、および上記の考察では採用しなかった話題について、一応頑張って調べてはいたので、メモを残しておく目的で書いています。
長々と書いた割に、結論は釈然としない内容なので、気になる方だけ読んでいただければ大丈夫です。
劇中では、三笠マーヤちゃんから「さんちかのアニメイトに行ってくる!👍」というセリフがありましたね。椿咲花女子高校のある神戸において「さんちか」と言えば、三ノ宮駅の地下街のことでしょう。
しかし、「アニメイト三宮店」はセンタープラザ本館3階にあり、マーヤちゃんの言う「さんちか」にアニメイトは存在しません。
この「さんちかのアニメイト」とは一体何なのでしょうか?
実は、現在のアニメイト三宮店は2013年に移転したもので、その以前は、センタープラザ西館の3階にありました。
この移転前のアニメイト三宮店に行くために、地元の方は、「さんちか」を通ってセンタープラザ西館の地下まで行き、そこから3階に上がってアニメイトに行っていた。だから地元民は「さんちかのアニメイト」と呼んでいた、という話が5chにはありました。
確かに一度地下に降りて、さんちかを通ってセンタープラザ西館に行く、という行き方は、地元住民にとって、割とポピュラーなのかもしれません。
(移転前のアニメイト三宮店と同じくセンタープラザ西館にある献血ルームのツイート⇩)
このことから、マーヤちゃんの発言は、2013年の移転前のことを指し、「さんちかのアニメイト」も時代設定を反映した要素の一つなのでは!?…という考察がかなり多く見かけました。
……しかしながら、結局のところ、私では真偽の判断がつかず、考察としては採用しませんでした。
というのも、自分も初演後に神戸を訪れる機会があったので、わざわざアニメイト三宮店に行ってみて気づいたのですが、移転後のセンタープラザ本館も、さんちかを通って行くことは可能ですし、西館から本館に移転したからといって「さんちかを通る必要がない」とはならないのではないのでは?と思ったんですよね。
実際に椿咲花女子高校のあるとされる、北野異人館街からアニメイトに行こうとすると、JR三ノ宮駅を越えて、地上からセンタープラザに行こうとすると、駅前交差点の赤信号を長いこと待つことになります。確かにさんちかを通って行った方が信号を待たずにセンタープラザに行けますし、特に悪天候の日や真夏や真冬なんかは、地下を通った方がいいな、という印象はありました。しかし、それは西館でも本館でも同じことなので、5chの情報には疑問が残ります。
さて、ここまで、神戸に土地勘のない人を置いてけぼりにしている気がしたので、位置関係などの簡単な情報を一枚の画像にまとめておきました。⇩
いろいろと調べたのですが、どうやらアニメイト三宮店は、1983年にセンタープラザ西館2階で開店し、当初はジュンク堂書店のフランチャイズ経営としてスタートしたらしく、店名も「アニメイトジュンク店」だったとか。その後も移転などが何度かあったようで……⇩
このあたりの店名の変更やら移転やらの中に「さんちかのアニメイト」に関する手がかりがあるのではと思ったのですが、結局見つけられず。
そして何より、「さんちかのアニメイト」という愛称についても、あまりにローカルネタ過ぎて、『SIM』関連以外でそう呼ばれている記録が一つも見つけられませんでした。
5chの情報も、現時点では真偽の判断が難しいので、時代設定に関する考察としては採用なかったという次第です。
そもそも、椿咲花の舞台が神戸になった経緯については、パンフレットに記載がありますが、簡単にまとめると、
ラブライブ!シリーズと言えば、舞台をしっかり設定するっしょ!
⇩
脚本の岸本さん「出身地で土地勘があるから神戸にするわ」
という経緯で決まったとのこと。
「さんちかのアニメイト」も、恐らくは神戸出身の岸本さんの実体験から来ているネタなのだと思われます。
もし、お読みいただいた方の中で、「さんちかのアニメイト」について何か知っている神戸出身の方がいらっしゃいましたら、情報お待ちしております。
また、追加の情報や、『スクールアイドルミュージカル』に動きがあれば、追記するかもしれません。
ではまた。
どこかでお会いする日まで。
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