LGBT問題についてイギリスとドイツの比較
ヨーロッパにおいて、対照的なLGBT政策を行っているのがイギリスとドイツだ。
ドイツは1906年に世界で初めて性転換手術を行った国、イギリスは2004年に世界で初めて性別適合手術なしでの法的性別変更を認めた国であるが、現在の状況は全く異なっている。
イギリスは女性達を中心とした活発な市民運動を受けて、肉体の性別を重視する方向へと立ち戻ろうとしている。
一方のドイツは、2011年に憲法裁判所が手術要件を違憲とするまでは法的性別の変更に性別適合手術が必要だったが、その後は「第3の性」を法的性別として認めるなど、どんどん"先進的"になっていき、2024年にはついにジェンダー・セルフID制度が導入されるに至ってしまった。
いったい何がこの違いを生んでいるのか。
それを探るために、各国で起こった出来事を、時系列で見てみたいと思う。
時系列の出来事
以下に時系列順に出来事を並べていく。
🌍 世界およびイギリスとドイツ以外
🇬🇧 イギリス
🇩🇪 ドイツ
1972
🌍
スウェーデンが世界で初めて性別適合手術後の法的性別変更を認めた。
1980
🌍
DSM-3にトランスセクシャル(性転換症)が記載される。
1989
🌍
デンマークが同性カップルのパートナーシップ制度を導入
🇬🇧
LGBT活動家団体ストーンウォールが設立される。
1990
🌍
哲学者ジュディス・バトラーが『ジェンダー・トラブル』を著し、「ジェンダーアイデンティティ=性別」という思想の基礎を作る。
1994
🌍
DSM-4に性同一性障害(GID)が記載される。
1995
🌍
国連の文書で初めてジェンダー(gender)が使われる。(北京宣言)
1997
🇬🇧
労働党政権下で大手LGBT活動家団体ストーンウォールが政策に深く関わり始める。
2000
🌍
EUにおいて「雇用と職場における平等」指令によりLGBT差別が禁止される。
EU基本権憲章に「性的指向を理由とした差別を受けない」権利が明記される。
LGBT権利運動を支援するアーカス財団が設立され、世界中のLGBT活動家団体に資金援助を行い始める。
2001
🌍
世界で初めてオランダで同性婚が可能になる。
🇬🇧
包括的な差別禁止法(平等法)を制定。
ストーンウォールが多様性チャンピオンズプログラム(企業・団体のアライ化)を開始する。
🇩🇪
同性カップルへのパートナーシップ制度を制定。
売春法によって売春が合法化。(もともと明確に禁止されてなかった)
2002
🌍
アメリカの人権団体ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HR C)が企業平等指数の公表を開始。LGBTフレンドリーかどうかを点数づけ。
2004
🇬🇧
ジェンダー認識法(GRA)が制定され、性別適合手術なしで医師の診断書のみで法的性別を変更できるようになる。(性別適合手術なしで法的性別変更を可能にした法律はこれが最初)
2005
🇬🇧
イギリス海軍がストーンウォールの多様性チャンピオンズプログラムに参加。以後、空軍と陸軍、MI5も参加する。
ストーンウォールが学校での教育に関与し始める。
2006
🌍
ジョグジャカルタ原則(性的指向と性同一性に関わる国際人権法の適用に関する原則)が採択され、性自認を尊重すべきという国際ルールの根拠とされる。(イギリス人法学者でトランス男性のStephen Whittleが参加)
🇬🇧
ストーンウォールの働きかけにより差別禁止法(平等法)が強化される。
🇩🇪
★包括的な差別禁止法(一般平等法)を制定。
差別問題対策局(ADS)を創設。
2009
🌍
ユネスコが包括的性教育のガイドラインである『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』を作成。
アメリカで包括的性教育が始まる。
2010
🇩🇪
連邦保健教育センター(BZgA)が包括的性教育のが緯度ライン『欧州の性教育標準』を作成する。
2011
🌍
3月
国連人権理事会が「ビジネスと人権に関する指導原則」を全会一致で承認。
6月
国連の人権理事会(UNHRC)が「世界のすべての地域において、性的指向およびジェンダー同一性を理由として個人に対して行われる暴力と差別の全ての行為に重大な懸念を表明」する決議を採択。
7月
国際レズビアン・ゲイ協会(ILGA)が国連関連団体になる。
12月
ヒラリー・クリントン米国務長官が国連でLGBTの人権について演説し、世界が注目する。
🇬🇧
GIDS(ジェンダーアイデンティティ発達サービス)が思春期ブロッカーの処方を始める。
🇩🇪
1月
連邦憲法裁判所が手術要件を違憲と判断し、手術要件が撤廃される。
2012
🌍
アルゼンチンが世界で初めてジェンダー・セルフID制度を導入。
🇬🇧
ロンドンオリンピック・パラリンピックでLGBTへの支援が積極的に打ち出された。
2013
🌍
DSM-5で性同一性障害(GID)の病名が性別違和(GD)に変更される。
同性婚法が制定される
2014
🌍
「EU人権促進7ヵ年計画」でLGBTのための多額の予算(4億ユーロ=620億円)
オリンピック憲章で人権・宗教と並び、性別や性的指向による差別を禁止。
🇬🇧
イギリスでトランスジェンダーを自認する若者が急増し始める(特に思春期の女子)。
2015
🌍
6月
アメリカで同性婚が合法化
9月
国連がSDGsを採択
🇬🇧
ストーンウォール局長のルース・ハントにより、トランスジェンダーの平等のためのキャンペーンが開始される。
トランスジェンダーの若者を支援する活動家団体マーメイドが設立される。
2016
🌍
ダボス会議でSDGsを通じてLGBTQを推進する企業連合Open Fro Businessが設立される。(ドイツ銀行やイギリスの企業、法律事務所なども参加)
🇬🇧
ストーンウォールがSDGsにどのようにしてLGBTQの権利を組み込むかを発表
スコットランド与党のSNPがジェンダー再認識法の改革をマニフェストに掲げる。
🇩🇪
7月
売春者保護法が制定
2017
🌍
国連エイズ合同計画(UNAIDS)がLGBTI差別が世界経済に与える損失は年間1000億ドル(約11兆円)に上るという調査結果を発表。経済界がLGBT問題に注目。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、企業のLGBTIに対する差別解消の取り組みを支援するための、グローバルな行動基準「Standards of Conduct for Business」を公表。世界の企業に対し、LGBTの権利推進を要請。
🇬🇧
政府がジェンダー認識法(GRA)を改革し、ジェンダー・セルフID制度を導入することを検討。これに対して女性たちから多くの反発の声が上がる。
🇩🇪
6月
同性婚が合法化
SNS対策法が制定されSNSでのヘイト投稿を24時間以内に削除するよう義務づけ。
11月
憲法裁判所が現行制度が個人の権利を侵害し差別禁止法に違反しているとし「第3の性」を認めるか、性別登録制度を全面的に廃止することを命じた。
2018
🇬🇧
3月
J.K,ローリングがトランス女性のことを「ドレスを着た男性」と表現したSNSの投稿にいいねを押したことにより、トランスフォビアだと非難を受ける。
6月
ジェンダー認識法(GRA)の改正に反対して、For Woman Scotland(FWS) が設立される。「性別は2つしかなく、人の性別は選択可能ではなく、変えることもできない」という信念を掲げる。2018年に委員会のメンバーの半分を女性にすることを目的として制定された、公共委員会におけるジェンダー代表法(スコットランド)(Gender Representation on Public Boards (Scotland) Act 2018)の中で、女性にはジェンダー認識法によって法的性別を女性に変更した人も含むと定義されていたことに関連して、「女性の定義」について司法審査を申し立てた。
7月
サセックス大学の哲学科教授キャスリーン・ストックがジェンダー認識法(GRA)の改正に反対を表明。これにより激しい攻撃や脅迫を受け始め、最終的に2021年に大学を辞した。
9月
シンクタンクの客員研究員であるマヤ・フォースタターがSNSで「男性は生物学的に女性にはなれない」と投稿し、強い批判を浴びる。その後、2019年に職場を解雇されたため、不当解雇として職場を訴えた。(最終的に2023年6月に職場に対して10万ポンド(2000万円)の賠償命令)
性別移行を希望する若年女性が4400%増加したと報道。
10月
トランス活動家団体マーメイドの監修のもと、トランスジェンダーを主人公としたテレビドラマ『バタフライ』が作成される。
ストーンウォールがトランスフォビアに反対する政策の一環として「トランス女性は女性です」などのスローガンを掲げたTシャツを販売。
🇩🇪
法的な性別として、男性と女性以外の第3の性を承認。
2020
🇬🇧
1月
NHSイングランドにより若年者へのジェンダー肯定医療に関する大規模調査が委託される(The Cass Review)。
5月
リズ・トラス平等大臣がストーンウォールやマーメイドが行っているジェンダー・イデオロギーを含む小学生向けの教育内容を批判。
6月
包括的な表現として「月経のある人々」という言葉を用いた記事に対して、J.K.ローリングが「女性という言葉を用いるべきではないか」と指摘するような投稿を行ったことがトランスフォビアであると批判された(トランス男性やノンバイナリーなど女性以外にも月経がある人はいるから彼らを排除することになるという理由)
9月
J.K.ローリングが「トランスフォビアな商品を販売しているサイトを宣伝した」として批判された。
イングランド政府がジェンダー認識法(GRA)の改革を断念。ジェンダー・セルフID制度の導入が阻止される。
12月
ベル対タヴィストックの裁判で、16歳未満への思春期ブロッカー投与の妥当性に懸念が示された。GIDSは控訴。
2021
🇬🇧
1月
For Woman Scotland(FWS)が申し立てた「女性の定義」をめぐる裁判で、裁判所は「法的性別を女性に変更した人物を女性と認める」と判断。FWSは控訴。
4月
スコットランドで『憎悪犯罪と公共秩序法(Hate Crime and Public order)2021』が可決される。施行は2024年。従来の公共秩序法の範囲を年齢や宗教、性自認などにまで広げたもので、言論の自由を抑圧するのではないかと懸念されていた。
5月
平等と人権委員会が多様性チャンピオンズプログラムからの撤退を表明。女性・平等大臣であるリズ・トラス議員は全ての政府部位者が撤退するべきだと提言した。
6月
雇用控訴裁判所でマヤ・フォースタターが勝訴。彼女の「トランス女性は生物学的に男性であり女性にはなれない」という信念は、尊重されるべき者だと判断を下した。
トランス活動家団体マーメイドが「トランス差別的である」ことを理由に、LGBアライアンスの慈善団体としての登録取り消しを求める裁判を起こす(のちに棄却)。
7月
J.K.ローリングが殺害予告を受けたことを公表する
9月
ベル対タヴィストックの裁判で、控訴裁判所が判決を覆し、16歳未満への思春期ブロッカー投与を認めた。
10月
ポッドキャストの番組でBBCがストーンウォールの多様性チャンピオンズプログラムに参加している事が暴露される。
サセックス大学の学生が、哲学科教授のキャスリーン・ストックがトランスジェンダーにとって危険であると主張し、解雇を求めるキャンペーンを行なった。これに対して哲学者のグループなどから学問の自由を支持する署名や声明が出されたが、最終的にストックは大学を辞めた。
11月
BBCが多様性チャンピオンズプログラムから撤退。
12月
ロンドン大学(UCL)が学問の自由と、ジェンダーに関する議論が妨げられることを理由に、多様性チャンピオンズプログラムから撤退。
チャンネル4(英国の公共放送)、法務省、保健省、通信局、内閣府が多様性チャンピオンズプログラムから撤退した。
犯罪学者のジョー・フェニックスが、オープン大学でジェンダー・クリティカル・リサーチ・ネットワークを設立。学問の自由のもとイデオロギーによる制限を受けることなく、証拠に基づいた学問を行うことが目的。しかしこれによって、フェニックスは激しい攻撃を受けた。大学側も彼女を守らず、辞めざるをえなくなった。これに対してフェニックスは大学を雇用裁判所で訴えた。(2024年1月に勝訴、大学は謝罪)
🇩🇪
3月
ドイツが世界中のLGBTIの権利を守るためのLGBTIインクルージョン戦略を発表
2022
🌍
9月
WPATHのSOC8が発表される。
12月
アメリカで同性婚法制化
🇬🇧
3月
The Cass Reviewの中間報告が発表。GIDSのシステムの欠陥を指摘。また思春期ブロッカーに対する懸念が表明される。
労働党党首が「トランス女性は女性である」と述べたことをJ.K.ローリングが批判し「労働党はもはや女性の権利を守るために頼りにならない」と述べた。
4月
J.K.ローリングがアリソン・ベイリーについて投稿。
ボリス・ジョンソン首相が親権の制限を伴う「ギリック能力テスト」(テストをクリアすれば親の同意なしで医療を受けられる)を批判。
7月
政府が新しく建設する公的建造物に男女別トイレを設置することを義務付けを発表。
教育省がストーンウォールから分離
マヤ・フォースタターの事件において、雇用裁判所は、彼女がジェンダー批判的な信念を持っていることにより差別を受けたと判断。
GIDSの閉鎖が決定。
9月
トランス活動家団体マーメイドの未成年者からの相談に対する対応が問題視される。(性別違和を抱えた少女を装って相談した記者に対して、思春期ブロッカーは安全などと説明し、親に相談せずに胸を押しつぶすバインダーの装着を勧めたりした)
10月
スコットランドが法律を改正してジェンダー・セルフID制度を導入しようとしていることについてJ.K.ローリングが反対を表明し、当時のニコラ・スタージョン首相を「女性の権利の破壊者」と呼んだ。(2023年2月にニコラ・スタージュンは辞任)
11月
マーメイドの代表スージー・グリーンが辞任。
12月
J.K.ローリングが生物学的女性に限定したレイプヘルプセンターを設立する。
市民が反発する中、スコットランド議会でジェンダー認識法(GRA)の改正案が可決され、ジェンダー・セルフID制度の導入が決定する。しかしイギリス王室が法律を承認せず(史上初)、阻止される。それに対してスコットランド政府は司法審査を要求。(2023年12月に訴訟却下の判決)
2023
🇬🇧
2月
スコットランド首相のニコラ・スタージュンが辞任。
3月
アイルランド首相のレオ・バラッカーが記者の質問対して「生物学的男性は女性刑務所に収監されるべきではない」と返答。
4月
ケミ・バデノック平等大臣が女性の法的保護のために平等法の書き換えを検討。
男子校や女子校にトランスジェンダーの学生を受け入れないことを許可。
公共テレビ・チャンネル4で性教育番組『Naked Education』が放送開始。子供達に複数人の大人の全裸を実際に見せながら解説する番組。
5月
リシ・スナク首相が包括的性教育の見直しを提言。
英国自転車競技会がトランス女性の女子競技への参加を禁止。
ジェンダー批判的とされる哲学者のキャスリーン・ストックがオックスフォード大学で講演することに対して、多数のLGBT活動家が抗議。それに対してリチャード・ドーキンスなどの学者がストックを支持することに署名。講演は予定通りに開始されたが、抗議者の妨害活動によって開始直後に中断された。
6月
マヤ・フォースタターの事件において、雇用裁判所は、彼女がジェンダー批判的な信念を持っていることにより差別を受けたと判断。職場に対して10.5万ポンド(2030万円)の賠償命令。
J.K.ローリングが「シスジェンダーはイデオロギー用語である」と主張。
10月
政府が公的機関によるジェンダーデータの収集に関する調査を開始。sexとgenderに関する全ての公的機関による研究と統計を収集分析し、具体的な勧告を行う予定。
スティーブ・バークレイ保健長官やスエラ・ブレイバーマン内務大臣が、トランス女性の女性スペースへの立ち入りを制限する方針を発表。
スエラ・ブレイバーマン内務大臣が、性犯罪者が名前や法的性別を変更することを生涯禁止することを発表。
リシ・スナク首相が、「男は男、女は女。それが常識だ」とスピーチ。
11月
英国検察庁がストーンウォールの影響を受けていると報道。
「トランス女性は男性だ」とSNSに投稿した女性が、警察から不当な取り調べを受ける事件が発生。ジェンダー・イデオロギーに反対する団体FAIR COPが女性側を支援し、警察本部に抗議。法廷闘争も辞さない構え。
For Woman Scotland(FWS)が申し立てた「女性の定義」をめぐる裁判で、FWSの控訴が認められず、「法的性別を女性に変更した人物を女性と認める」という裁判所の判断が確定。……かと思いきや、後に最高裁判所に上訴することを認められた。J.K.ローリングなどから資金援助を受けている。
12月
NHSがジェンダークリニックへの紹介には親の同意が必要であると規則を改正
リズ・トラス元首相が平等法の改正案(男女別スペースの保護、学校などが18歳未満に社会的移行させることを禁止、18歳未満へのホルモン製剤の使用を禁止)を議会に提出。(野党の抵抗により可決はならず)
ケミ・バデノック平等大臣が「ストーンウォールがこの国のルールを決めるわけではありません」と議会で発言し、歓声を浴びる。
ケミ・バデノック平等大臣が議会でジェンダー肯定医療に言及。ジェンダー違和を訴え若者が急増し、取り返しのつかない医療処置を後悔する若者が増加していることについて「Epidemic(伝染、流行)」と表現。
レイチェル・マクリーン議員が他党の候補者であるメリッサ・ポールトン(1年前にトランスしたトランス女性レズビアン)を「かつらを被った男性」と表現して批判を受ける。
ケミ・バデノック女性・平等大臣が公的機関の長に向けて文書を発行。平等法で守られるべき属性について明確化した(sexや性的指向は含まれているがgender/gender identityは含まれていない!)
スコットランドのジェンダー認識法(GRA)改正案がイギリス王室により阻止されたことをスコットランの政府が司法審査にかけたことについて、エディンバラ司法裁判所が訴訟を却下。これによりスコットランドへのジェンダー・セルフID制度の導入が完全阻止された。
ジェンダー認識法(GRA)に反対するケリー・ジェイ・キーンによって政党 Party of Women(女性党)が結党される。
🇩🇪
5月
トルコ系公衆浴場に未手術のトランス女性が入って騒ぎになる。(施設はトランス女性に対して謝罪)
8月
自己決定法(Selbsstbestimmungsgesetz)が可決され、翌年11月にジェンダー・セルフID制度が導入されることが決定する。
11月
ドイツ連邦議会が小児性愛者の権利団体からの請願書(子供の自己決定権に関するもの)を受け入れた。
2024
🌍
3月
WPATHファイルが公開される
4月
国連特別報告者であるリーム・アルサレム氏が The Cass Review に言及し、「10代の若者への壊滅的な影響を明らかになった」と指摘。
欧州児童青年精神医学会(ESCAP)が、小児および青年期のジェンダー違和に関する声明を発表。医療従事者に対して「心理社会的影響が証明されていない実験的で不必要に侵襲的な治療を推進せず、"第一に、害を及ぼさない"の原則を遵守すること」を求めた。
🇬🇧
1月
ジェンダー批判的な犯罪学者であるジョー・フェニックスが、オープン大学が職員を守らず不当解雇したとして訴えた裁判で勝訴。オープン大学はフェニックスに対して謝罪。
2月
大学や専門学校で教員をしている男性が、J.K.ローリングを理路整然と擁護する内容の動画を投稿し大反響を呼ぶ。しかしその後、職場の1つを解雇される。
保健福祉省によりNHSがストーンウォールの多様性チャンピオンズプログラムから脱退したと報道。
NHSがトランス女性の薬剤投与によって分泌した乳汁を、乳児にとって理想的な human milk だと述べる。
NHSが家庭医に対して怪しげなジェンダークリニックと連携しないよう警告。
For Woman Scotland(FWS)が申し立てた「女性の定義」をめぐる裁判について、英国最高裁判所への上訴が認められる。
3月
国連女性機関(UN Woman)がイギリスの女性代表としてトランス女性のケイティ・ニーブスを選出。後に子供に思春期ブロッカーを投与させるためのクラファンを立ち上げたり代理出産のPRをする。
トランス女性のインディア・ロビーが、「ネット上で私のことを男性だと呼びミスジェンリングした」として、J.K.ローリングを警察に通報。警察は「犯罪の基準を満たしていない」として逮捕せず。
NHSイングランドがジェンダークリニックでの思春期ブロッカーの新規処方を終了。
GIDSが閉鎖。
スコットランド議会が多様性チャンピオンズプログラムからの撤退を表明。
4月
スコットランドで『憎悪犯罪と公共秩序法(Hate Crime and Public order)2021』が施行される。初日にJ.K.ローリングはトランス女性の犯罪者などに関する投稿を行い、彼らが男性であることを指摘。これについてスコットランド警察は犯罪には当たらないと声明を出した。
The Cass Reviewの最終報告書が公開される。
イギリスの平等・人権委員会が The Cass Review を支持する声明を発表。同日、イギリスにおける思春期ブロッカーの処方が禁止される。
スコットランドが思春期ブロッカーの一時停止を発表。
プールの男女共用更衣室で5000人以上の女性の着替えを盗撮し販売していた男性が逮捕。
NHSが breast feeding を chest feeding と言い換えることを禁止。
NHSイングランドが女性専用病棟には生物学的女性のみを割り当てることを発表。
5月
2024年後半から男女別トイレの設置義務化のルールが適用されることが発表される。
民間のジェンダークリニックでの思春期ブロッカーの処方禁止を立法化
6月
For Woman Scotland(FWS)などの働きかけを受け、スコットランド議会は公共委員会におけるジェンダー代表法(スコットランド)(Gender Representation on Public Boards (Scotland) Act 2018)の中の、「女性の定義」について言及した部分を削除した。スコットランド保守党副党首のメーガン・ギャラチャーは、FWSに言及して「スコットランド全土に、自分たちの権利が侵食されるのを容認しない、激しく、回復力のある、勇敢な女性がいることを嬉しく思います」と話した。
リシ・スナク首相がSNSに「子供たちは学校でジェンダー・イデオロギーを教えられるべきではない」と投稿。
🇩🇪
5月
児童ポルノの所持が軽犯罪化される。
女性専用ジムが未手術トランス女性のシャワー利用を拒否したことで訴えられ、賠償金1,000ユーロ(17万円)の支払いを命じられた。なおこのトランス女性はドイツの女子サッカーリーグに所属する初のトランス女性。
ドイツ医師会が未成年者の「医療移行」を管理された臨床試験に限定し、性別の自己識別を成人に限定する決議を可決。
6月
他の女子従業員の拒否を理由に女子更衣室の使用を断られた未手術トランス女性のマクドナルド従業員が職場を差別禁止法違反で告訴。
ミュンヘン市でオールジェンダートイレの設置が義務付けられ、女子トイレがオールジェンダートイレに変更される。
ジェンダー・セルフID制度を導入。
ミスジェンダリングに対する罰金刑も導入。
考察
あまりにもかけ離れたイギリスとドイツの動き。
両方ともに、包括的差別禁止法が存在する(イギリス:平等法、ドイツ:一般平等法)にも関わらず、どうしてここまで違いが出たのか。
その一番のポイントは、ドイツで2017年に制定されたSNS対策法だろう。この法律はプラットフォームの運営者に対して、24時間以内に差別的な投稿を削除することを求める法律である。違反すれば罰金刑。
これにより、LGBT思想(ジェンダー・イデオロギー)に反対するような投稿は「差別的である」としてすぐに削除されてしまい、SNSで拡散されず、影響力を持つことができない。
もしも2017年にイギリスでジェンダー認識法を改正して、ジェンダー・セルフID制度を導入することが検討されていた時、イギリスにもこのSNS対策法があったとしたら、マヤ・フォースタターの投稿はすぐに削除されて話題にもならず、結果的にJKローリングもこの問題に関わることはなかったかもしれない。そしてそのまま、イギリスはジェンダー・セルフID制度を導入してしまっていたかもしれない。
そう考えると、いかに言論の自由が大切であるか、ヘイトスピーチ規制法がいかに危険であるかがよくわかる。
そして、イギリスの女性達の奮闘には目を見張るものがある。
その戦い方には主に以下の3つが挙げられるだろう。
①情報を発信する
②組織をつくる
③不当な扱いに対して、裁判を起こす
①情報を発信する
各自がそれぞれ、有益な情報を投稿し、それをJKローリングのような拡散力のある人物が広める。
これによって、LGBT思想(ジェンダーイデオロギー)の問題点を多くの人に知らせ、世論を動かす。
②組織を作る
政治に働きかけるためには、団体を作ることは重要だ。
少なくともLGBT活動家は、それによって絶大な影響力を及ぼしてきた。
イギリスのストーンウォールを見れば一目瞭然だろう。
それに対して反対派も団体や組織を作って対抗している。
ストーンウォールの方針に反対する性的少数者達で構成されたLGBアライアンス。
「女性の定義」、ひいては性別の定義を守るために作られたFor Woman Scotland(FWS)。
学問の自由を確立するために作られたジェンダー・クリティカル・ネットワーク。
ジェンダー認識法に反対するメンバーで構成された政党Party of Woman。
LGBT活動家たちから激しい攻撃を受ける中、女性達があらゆる手を尽くして、多大な金も時間もエネルギーも注ぎ込んで、必死に戦い続けている姿に涙が出るのを感じる。
その結果、2020年にはイングランドで、2024年にはスコットランドでジェンダー・セルフID制度の導入を阻止し、そして2024年6月にはスコットランドの法律から女性の定義(ジェンダー認識法によって法的性別を女性に変更した者も女性に含むとしていた)を削除させたのだから、本当にすごいと思う。
特にスコットランドでジェンダー・セルフID制度の導入を阻止した時なんて、スコットランド議会では可決されてしまって、あとは英国王室の認可をもらって施行するだけ、というタイミングで大きく世論を動かし、歴史上初めて、英国王室からの認可を与えないという事態を引き起こしたのだから本当に素晴らしいと思う。
しかし、もしここでSNS対策法があったら、情報を広げることはできずに、この結果を出すことは難しかったんじゃないかと思う。本当に恐ろしい法律だ。
③不当な扱いに対して、裁判を起こす
SNSで「男性は生物学的に女性にはなれない」と書いたことで不当解雇されたことを訴え、多額の賠償金(2030万円)を勝ち取ったマヤ・フォースタター。
杜撰な診断と診療の末に取り返しのつかない身体となってしまい、NHSを相手に裁判を起こした元トランス男性のキーラ・ベル。これがジェンダー肯定医療の欺瞞を暴くきっかけとなった。
ジェンダークリニックの実情を告発したことで不当な扱いを受けたとして、NHSを告訴し勝訴したソニア・アップルビー。
学問の自由を守るためにアカデミックなネットワーク(ジェンダー・クリティカル・リサーチ・ネットワーク)を設立したことで、大学の内外から激しく攻撃を受けて辞めることになったことで、職員を守らなかったとして職場であったオープン大学を告訴し勝訴した犯罪学者のジョー・フェニックス。オープン大学は彼女に謝罪をした。
アメリカでも、未手術のトランス女性の水泳選手であるリア・トーマスと競わされたり、女子更衣室の共用を強制された元選手たちが大学などを相手に集団訴訟を起こしたり、アメリカの杜撰なジェンダー肯定医療で傷ついた脱トランス者達が次々と医療訴訟を起こしているが、法治国家において、傷つけられた人権や尊厳を回復する最も有効な方法はやはり裁判なのだと改めて考えさせられる。
どんな結果が出るにしろ、報道によって大勢が注目することになるから、問題を周知させるためにも有効だし。
あと、2019年に日本の最高裁で合憲とされていた手術要件が、2023年に違憲とされてしまったように、たとえ最高裁の判決であっても覆すことは可能なのだということは、LGBT活動家の人達が教えてくれた。
ドイツは包括的差別禁止法とSNS対策法によって、反論の言葉を奪われた状態で、LGBT活動家が裁判を通して権利をどんどん拡張している状態だ。
2011年に手術要件が違憲と判断されたことで、手術無しで性別変更が可能になり。
2017年11月に「男と女以外の性別が選べないのは違憲である」と裁判所が判断したせいで、2018年に第3の性ディバース(divers: 多様)が法的性別として認められ。
そして多くの人が口を塞がれたままの状態で、2024年にジェンダー・セルフID制度が導入されることが決まってしまった。更にはミスジェンダリング(本人の自認の性と異なる扱いをすること)に対して多額の罰金まで科せられることになってしまった。
本当に恐ろしい事態である。
LGBT活動家が裁判で違憲判決を勝ち取ることで、どんどん権利を拡張しようとしているという点では、日本も同じ状況である。イギリスのように全力で戦い抗わなければ、一気にジェンダー・セルフID制度になってしまう可能性はあるだろう。
幸いなことに、日本には差別禁止法も、SNS対策法も存在しない。まだ言論の自由は守られている状態だ。
それらの恐ろしい法律を作られてしまわないように最大限に警戒しつつ、イギリスのやり方に倣って戦い続ける必要があるだろう。
すなわち、①情報を発信し、②組織をつくり、③不当な扱いに対して、裁判を起こすことだ。
個人でできる具体的な事柄については以前まとめたことがあるので、どうかこちらも参考にしてほしい。
ドイツの惨状を見ると、かなり全力で抗わないとヤバそうです。皆様、どうか頑張りましょう。
とりあえず、差別禁止法とSNS対策法の2つを作られたらそこで詰みます。言論の自由だけは死守しましょう。