【謝罪】カナダのサロンが賠償命令を受けた事件についての検証
記事について
こちらの記事で「女性専用サロンで男性器の脱毛を拒否→賠償金3万5000ドル」として取り上げさせていただいた事件についてです。
(現在はタイトル・内容ともに修正されています)
このサロンが賠償金を命じられた事件について「高額な賠償命令の理由は、男性器の脱毛を断ったことではないのでは?」というご意見を頂いたので検証しました。
私が当初参考にした記事はこちら。
被告側の立場から書かれたものです。
『オンタリオ州の裁判所は、女性用サロンが「彼女の」睾丸のワックス脱毛を拒否したため、トランスジェンダーを自認する男性に3万5000ドルの賠償金を命じた。』
それとは別に教えてもらった記事はこちら。
主に原告側の主張が書かれており、実際の経緯もより詳細に書かれています。
『ウィンザーのビジネスは、先住民のトランスジェンダー女性の「差別と報復」のために35,000ドルの罰金を科されました。』
これらの記事を合わせたところ、具体的には以下のような流れがあったようです。
2018年3月、原告であるトランス女性が脚の脱毛を希望してサロンに電話。その際に従業員に対して、このサロンでトランスジェンダーが歓迎されるかどうかを尋ねる。(この時点で男性器があることを仄めかした?)
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従業員は返答できずに、オーナーに電話を代わる。(従業員は法廷でトランスの意味がわからないと話した)
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オーナーは原告がブラジリアンワックス(陰部の脱毛)を希望していると考え、原告に男性器があることを理由に処置の対象外だと断る。その際に原告を男性扱いしてミスジェンダリング(自認する性別と異なる扱いをすること)したと原告は主張。
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原告がFacebookに名指しで差別的な店だと動画を投稿。1時間程度で削除したが、投稿を見た人が店を差別的だとして攻撃。これを受けて店側も反撃のためのニュースリリースを準備し、事前にメディアに配布。
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原告が人権裁判所に「トランスジェンダーであることを理由に脚の脱毛を断られた」と差別行為を受けたと申し立て。
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差別の申し立てについて店側に通知。
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店側がメディアを通してニュースリリースを発表。「男性器への脱毛を求められたので断った」と主張した。原告の個人情報も広く知られることに。(この個人情報については、ニュースリリースではなく、行政の公開文書(申立書)によって知られたものであると被告側は主張)
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事件がメディアに報じられた事により原告の精神状態が悪化し、「対処するための物質」(精神科の薬のこと?)を再利用し始め、仕事を失い、自殺を考え、離婚し、ウィンザーから7時間離れた場所に引っ越すなどの影響を受けたと原告は主張。
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裁判所は店側が出したニュースリリースによって、原告が強い悪影響を受けた事を考慮して、多額の賠償金を命令した。
事件のまとめ
記事の内容を総合すると、原告のトランス女性は脚の脱毛を頼むつもりで電話したが、オーナーは原告がブラジリアンワックス(陰部の脱毛)を求めていると思い込んで断った。
断られた原告は、いったんFacebookに差別的な扱いを受けたことを訴える動画を投稿したがそれは削除して、人権裁判所に「トランスジェンダーであることを理由に脚の脱毛を断られた」と差別の申し立て。
店側はそれに対抗するためにメディアを通して「男性器の脱毛を断ったら、差別として申し立てを受けた」と主張。メディアが発表した記事自体には原告の身元は明記されていなかったが、差別の申立ての内容については裁判所によって公開されてそこに申立人の個人情報も記されており、調べれば分かる状態であった。
このようなメディアの記事によって、強いストレスを受けた原告は、精神的にも悪影響を受け、仕事を失ったり、引越しまでせざるを得なくなったと訴えた。
6年にわたる係争の結果、人権裁判所は被告に対して多額の賠償金を命じた。
上記は記事に載っていた原告と被告の両方の主張を合わせたものです。
被告は原告が電話で店に対して陰部の脱毛を求めてきたと主張していますが、原告は脚の脱毛を希望していたと主張しています。
陰部の脱毛を求めたというのは店側の思い込みであった可能性もあり、少なくとも人権裁判所はそのように判断しているようです。
記事の中で被告は上訴の予定だと話しています。
この事件が発生したのは、2018年3月のオンタリオ州ですが、ちょうど同じ2018年3月にブリティッシュコロンビア州ではトランス活動家のJessica Yanivが女性向けサロンに対して男性器の脱毛を求める事件を起こしており、その事が被告の行動に影響を与えた可能性は考えられます。
Jessica Yanivはいくつものサロンに対して同じ事を要求し、断った店を次々と差別禁止法違反として裁判所に訴えて(少なくとも15件)店に賠償金を求めましたが、最終的には、裁判所からその訴えは認められず、逆に本人の人種差別な発言が問題視されるなどもあり、施設側に対して賠償金を支払うことが命令されました。
しかし訴えられた店の中には、この事件をきっかけに少なくとも2件の店側廃業してしまいました。
Jessica Yanivのサロンを巡る裁判については、現在では全て結審しています。
Jessica Yanivについて
原告と被告のやり取りについての推測
上記の記事の内容や背景を踏まえて、原告と被告の間にどのようなやり取りがあったのか、私の推測を書いてみます。
2018年3月、原告であるトランス女性が脚の脱毛をしたいと考えサロンに電話。
原告「脱毛をしたいですが、良いですか?」
従業員「はい、いつがご希望ですか?」
原告「こちらのお店ではトランスジェンダーも歓迎されるでしょうか?」
従業員「トランスジェンダー?それは何ですか?」
原告「つまり、出生時に割り当てられた性別とは、異なる性別を選んだ人々のことで…。例えば、中には肉体は男性であるけれど、女性である人々もいます」
従業員「えーと、わからないので責任者と代わります」
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従業員「あの、オーナー…お客様が、トランスジェンダーも大丈夫かと。肉体が男性の女性とかなんとか」
被告「なんだって。最近、トランスジェンダー女性だと名乗って男性器があるのにブラジリアンワックス(陰部の脱毛)を求めてくるとんでもない奴がいるとは聞いていたが、うちにも来たか。きっぱりと断ってやる」
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被告「代わりました、この店のオーナーです。失礼ですがお客様は手術はお済みなんですか?」
原告「え、いえ、手術はしてませんが…」
被告「申し訳ないんですが、うちの店は男性の脱毛はやってないんですよ」
原告「いや、私は女性として生きていて…」
被告「うちのスタッフは敬虔なイスラム教徒なので、身内以外の男性の体に触れるのは無理なんです。そういう事で、ご理解ください」
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原告「なんてひどい差別的な対応。他のトランスジェンダーの人達があの店を間違って利用しないように注意喚起しないと。脚の脱毛を頼もうとしたら、トランスジェンダーである事を理由に断られたと、注意喚起の動画を作ってFacebookに投稿しよう」
(この動画自体は1時間以内に本人が削除)
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Facebookの動画を見た人「うわ、この店はなんて差別的な店なんだ。差別禁止法にも違反してるし、通報しよう」
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被告「どうもうちの店が通報されているらしい。この間のブラジリアンワックスを要求してきたトランス女性だな。自分の要求が通らなかったからといって、うちの店を炎上させる気なんだろう。そっちがその気なら、こっちにも考えがある。こちら側の主張をメディアに記事にしてもらって、どちらの言い分が正しいか皆に判断してもらおう」
(ニュースリリースを作成して、メディアに送付。この時点ではまだ発表されず)
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原告「やはり今回の差別については、ちゃんと人権裁判所に訴えてしかるべき処分をしてもらうべき」
(人権裁判所に申立書を提出)
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被告「差別の申し立てを受けたと、裁判所から連絡がきた。やはり差別だと難癖をつけるつもりなんだな。しかもうちが脚の脱毛を断ったなんて嘘までついて。メディアに前もって送っておいた情報を記事にしてもらおう」
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2018年5月にメディアが店側の主張に基づいた記事を作成。
サロンに男性器の脱毛を求めた上、断られた事を人権侵害だとして訴えたトランス女性として記事にされる。
『トランスジェンダーの女性がウィンザースパに対して人権苦情を申し立てる』
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原告「私は男性器の脱毛なんて求めてない。この記事には私が人権裁判所に訴えことが書かれているけれど、これを見た人が公開されている裁判所の記録を確認すれば、私の名前が明記された書類が読めてしまう。私という人間が、サロンに対して男性器の脱毛を求めるとんでもないトランスジェンダーだと思われてしまう。なんてこと」
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6年間にわたる係争
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裁判所「被告が報道させた記事により、原告は強い精神的苦痛を受け実害も発生している。よって被告に3.5万ドルの賠償金の支払いを命じる」
以上、「男性器の脱毛を要求されたというのが、被告の思い込みであった場合」について、想定されるやりとりです。
謝罪と反省
このたびは、不正確な情報を発信してしまい、誠に申し訳ありませんでした。
係争中の案件について、被告側の主張だけを取り上げた記事を参考にしてしまい、精査が不足していたと痛感しております。
問題をご指摘頂いた皆様、どうもありがとうございました。
今後とも誤りなどがあれば、どうぞご指摘いただけますと幸いです。
今回の事件は「男性器がある女性」が存在し、かつ「包括的差別禁止法」が存在し、かつ「男性器の脱毛を断ったサロンを差別禁止法違反で訴えるトランス活動家」が実在する社会で起こってしまったトラブルであると認識しております。
もしこれが被告側の誤解に基づいたものであった場合、ある意味では被告も原告も、非常識なトランス活動家の犠牲者と言えるのではないかとも思います。
何故なら、「男性器の脱毛を要求するトランス女性」という存在がいなければ、サロン側も原告がそのような常識的には考えられないような要求をしていると誤解することは無かったでしょうし、原告側もおかしな誤解を受けることなく、希望の処置(脚の脱毛)を受けられた可能性が高いだろうと思うからです。
もちろん本来、サロン側は最初からメディアに自分達の主張を載せるような手段を取るのではなく、行政や裁判所にしっかりと事情を説明して理解を得る努力をする必要があったはずです。それを経ずにいきなりメディアに係争中の案件について公表したために事態が複雑化し、多額の賠償命令にまで至ってしまったことは否定できません。(記事の中でも裁判所の担当は記事の公表がなければ裁判案件にまでは至らなかっただろうとコメント)
アメリカ・ワシントン州の女性専用スパであるオリンパス・スパは「男性器のあるトランス女性の施設利用を断るのは差別である」という申し立てに対し、行政から差別として認定されたため自ら裁判にもちこみ、その結果、2023年6月に裁判所が「男性器のあるトランス女性の施設利用を断るのは差別であり違法である」と認定したことについて、メディアを通して自分達の主張を訴えました。
メディアに自分達の主張を訴えるとしても、この位の段階をしっかりと経るべきであっただろうと思いますし、そうすればもしこの事件が誤解に基づくものであった場合には、途中でその誤解も解けていたかもしれません。
以上が事件についての検証です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。