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こわいはなし

 何故か物心ついた時から怖い話が大好きだ。幼稚園児だった頃、月に数回ほど様々な話の読み聞かせをしてくれる先生が園に来た時、私はいち早く挙手をして「怖い話をして」とせがんでいた記憶がある。不思議な話、ゾッとする話を聞いた時の刺激が、私にとって丁度いい塩梅なのかもしれない。

 怖い話といっても、その種類は多岐にわたるだろう。妖怪、幽霊、未確認生命体、超能力、自然ーーざっくばらんに言ってしまえば大体はオカルトに分類されるだろうか。どの話も好き嫌いなく楽しめるが、どうしても「自分が恐怖体験を経験する」ことだけは非常に苦手だ。
 アクション要素があるホラーゲームや遊園地等にあるお化け屋敷はどうしてもその経験が「自分ごと」になってしまうので遊ぶことが出来ない。心臓がぎゅっと小さくなるほど驚く体験を繰り返す胆力がない。第三者視点で怖さを眺めていたい。つまり、私は怖い話が好きなのにも関わらず、怖がりという矛盾した性質を持っているみたいだ。
 そのため、自然と小説や漫画へ恐怖を追い求めるようになった。

 小学生時代は「怪談レストラン」シリーズにどっぷりとハマっていた。怖い話の短編集なのだが、一つの話を一つの料理として、レストランのメニューのように紹介されているのがとても面白く、夏休みはこのシリーズを一心不乱に読んでいた。
 イラストもまた非常に魅力的で、読んでいて飽きることがなかった。二人のイラストレーターさんが担当をされており、たかいよしかずさんの可愛らしいイラスト、かとうくみこさんのザ・ホラーなイラストのギャップがさらにこのシリーズを印象付けた。
 もちろん、怖い話自体も読みごたえがある。(松谷みよ子さんが責任編集をされている。)
 日本や外国の昔話から現代の話まで、色んな時代の怖い話を楽しめる。これを書きながら色んな話を思い出し、「ヒラメになれ」や「リプレイ」が怖かったな~と何気なくネットで検索してみたら、やはりこの二つの話は当時の少年少女の心にトラウマを植え付けたらしい。短編でありながら怖くて面白い話を読むことが出来るこのシリーズは、今までもこれからもずっと忘れられない大切な本である。

 トラウマといえば、中学に入って間もない頃、私は怖い話を追い求めて鈴木光司さんの「リング」に手を出してしまった。
 もちろんストーリーは非常に面白く、また文章も個人的に読みやすかったため、ぐんぐんと読み進めてしまいリングの世界観にどっぷりと浸かってしまった結果、読み終わった感想は「怖すぎる」の一言で、三日間くらいきちんと眠ることが出来なかった。謎が解明される度に怖さが一歩近づいてくるような、まさにじわじわと迫ってくる恐ろしさで、当時の私にはこの恐怖を受け止める器を持ち合わせてなかった。目を瞑るとビデオテープの映像が、貞子が思い浮かんでしまい、夜中の布団の中で本を読んだことを深く後悔した。
 今読み直したらそこまで怖いと感じないような気もするが、この時のトラウマのせいもあってどうしても手に取れない。ハリウッド映画のザ・リング辺りから徐々に慣らしていけば克服出来るだろうか……。

 木原浩勝さん、中山市朗さんの「新耳袋」シリーズは、中学・高校時代の読書時間や放課後の図書室で、黙々と読んでいた。お手軽に読める短編の怪談が九十九話収録されている本である。一話のみを取り上げれば、短い話ということもあってそれほど恐怖を感じない。しかし、そういったちょっとした怪異を一つずつ積み重ねるように読んでいくと、次第にそれははっきりとした恐怖となって心にのしかかってくる。
 しかもこの本を一日で読み切ると怪異に遭遇する、という話も収録されており、当時の私は怖気づいて、どんなに時間があっても一日で一冊読み切ることはしなかった。
 梅雨時、家族が誰もいない家で雨音を聞きながら一人これを読んでいると、ふと怪異が私の傍に潜んでいるのではないかという気がしてどうしようもなくなり、恐る恐る本を閉じたことがある。
 短編集だからと侮れない、重厚な恐怖を与えてくれるシリーズである。

 そして私が最も好きなホラー作品、それは小野不由美さんの「ゴーストハント」シリーズ(悪霊シリーズ)だ。
 初めての出会いは、漫画雑誌「なかよし」に掲載されていたいなだ詩穂さんによるコミカライズで、可愛い絵柄にも関わらずしっかりと怖いストーリー、少しだけ大人っぽい世界観に私はすっかり惹きこまれてしまい、寝ても覚めてもゴーストハントのことを考えていた時期があった。
 まず、登場人物が全員魅力的だ。主人公の谷山麻衣は女子高生で、当時小学生だった自分にとっては憧れのお姉さんだった。心霊現象を調査する渋谷サイキックリサーチの所長である渋谷一也ーー通称「ナル」はかなりプライドが高く、賢く、そして顔がいい。その助手のリンさんは寡黙でナルと共に謎に包まれた人物だ。
 麻衣はそんな渋谷サイキックリサーチでアルバイトをすることになるのだが、その協力者たちもキャラクターが濃い。
 滝川法生、通称ぼーさんは茶髪ロン毛の元坊主で現ベーシスト。巫女の松崎綾子は派手な服装に派手なメイクをしていて怖がり。霊媒師の原真砂子は麻衣と同じ女子高生で、日本人形のような美人。エクソシストのジョン・ブラウンはバリバリの大阪弁を話す。シリーズ中盤から渋谷サイキックリサーチの手伝いをすることになる安原修は、掴みどころのない性格をしていて、もしかするとこのシリーズで一番「強い」人間かもしれない。

 少女向け作品でありながら、各巻で起こる怪奇現象は容赦なく怖い。またその怪奇現象から生まれてくる謎や、上記の愉快なメンバー達とそれを解き明かしていく過程は丁寧でありながらもテンポがよく、時間を忘れて読み進めてしまう。読み切った後の充実感と少しの切なさは、このゴーストハントシリーズでしか味わえない。また読めば読むほどオカルト系の豆知識が増えていくのもお得だ。(?)
 コミカライズもアニメ化もされ、リライト版の小説も刊行された。あとは続編があれば飛び上がるほど嬉しいのだが……やはり、叶わぬ夢だろうか。続編の発表があるなら本当に何でもしますので、どうぞよろしくお願いいたします……。

 また、ホラーゲームであれば「零」シリーズが有名だろう。テクモ(現コーエーテクモゲームス)から発売された和風ホラーアドベンチャーゲームで、現在でもリメイク版が発売されたりしている。操作するキャラクターは男性の場合もあるが、基本的にはどこか暗い雰囲気を纏った女の子で、和風ホラー×美少女は最高だなとしみじみ思わせてくれるのだが、私はこのゲームを最後までプレイ出来たことがない。
 このゲーム、操作キャラが除霊の力を持つ古いカメラを持って幽霊と戦うことになるのだが、そういったアクション要素が冒頭で書いたように「自分ごと」の体験となってしまい、めちゃくちゃ怖い。舞台設定自体は大好きなので活を入れてゲームを開始するものの、屋敷の奥へ進めば進むほどその場の空気に吞み込まれてしまう。
 それほどに古い建物の様子や環境音にリアリティがあり、幽霊が出てきた時よりもいつ幽霊が出てくるのか、と思う時間が非常に怖い。そうして頑張ってプレイをしている内に、屋敷を彷徨い幽霊に襲われる悪夢を見てしまうので、私は泣く泣くコントローラーを置き、ゲーム実況者さんの動画を見ることになる。
 課金なり何なりして、無敵モードが実装されればいいのにな、と地味に願い続けている。本当に何でもしますので……。

 ホラー好きなくせに怖がりだと、お化け屋敷やホラー映画、ホラーゲームといった話題に上がりやすいものを気軽に体験出来ないのがもったいないが、怖がりなりに楽しめてはいる。
 なぜ怖いものが好きなのか。改めて考えてみると、人間の尺度だけでは推し量ることの出来ない存在がいるかもしれない、と思わせてくれるその想像の余地が、私にとって心地良いのかもしれない。
 これからも、びくびくしながら怖い話に手を伸ばしていくのだろう。

 


 

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