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ホットココアと絵本

 今年も寒い季節がきた。年を重ねるごとに寒さがより骨身に染み込んでくるような気がするが、一体なぜなのだろう。学生の頃は寒いとは思いつつ、ミニスカートをはくことも厭わなかった。寒さより可愛さを優先した。それが今では厚手のタイツをはき、そこから更にズボンと靴下をはき、ムートンブーツで外に出かける。寒空の下、ミニスカートを翻す女子高生を見るだけでこちらが身震いしてしまう。つい「そんなに肌を見せて寒くないのですか?」と尋ねたくなってしまい、年をとったことを実感し、ちょっと虚しくなる。

 ただ、冷たく乾燥した冬の空気を吸い込むと、昔の記憶が蘇る時がある。暖かい部屋にホットココア、寒さに耐えて図書館から借りてきた数冊の本。そして本を目の前にワクワクしている自分。小学生時代の冬休みの過ごし方は、今思い出しても満ち足りた時間だった。こうして思い返して懐かしんでしまう程にはあの時間が恋しい。
 図書館から借りた「数冊の本」だが、一番最初に思い出すものとして「ミッケ!」(小学館)がある。「ウォーリーをさがせ!」のような探索系の絵本なのだが、今読んでみても楽しめる本ではないかと思う。実際の文房具や玩具、雑貨等を散らばせて撮影した写真が見開きで印刷されていて、ページ下部に文章で探すべきものが淡々と指示されている。これがまた探し出すのがなかなかに難しい。
 様々な物が写真いっぱいに置かれているので、ターゲットを探すのに一苦労する。わざと見つけにくいような置き方をしている場合もあるし、逆に堂々と置かれていて却って見つけられない、といった場合もある。一冊丸ごと全てのミッションをこなすには、下手をすれば数時間必要となることもあるかもしれない。
 多くの雑貨が乱雑に散らばっている写真が何ページもある本、ではあるのだが、乱雑で汚いなぁと思うページは一切ない。ページを捲る内に、何故かほんの少しの懐かしさと静けさを感じる不思議な本だ。
 元はアメリカで出版された絵本なので、写っている雑貨はほとんどアメリカのものなのだろう。外国のアンティーク調の置物や小物が映っている写真もあって、ものすごく異国情緒を搔き立てられる。そういったちょっと古い外国の雰囲気が好きな大人にとっては、写真を見るだけでも楽しめるのではないかと思う。
 実際、数ヶ月前に古本屋へ立ち寄った際、大判本コーナーでミッケ!を見つけた私は思わず購入してしまった。ウン年ぶりに開いたミッケ!は、相変わらず外国の雰囲気を纏い、指示された物を見つけるのが難しかった。全てのページを探索したと思ったら巻末に「おまけのかくれんぼ」として追加の探し物が書かれており、子どもの頃よりも気力が衰えていた私は思わず白旗をあげた。とにもかくにも、最後まで楽しさがぎゅっと詰められている絵本だ。
 その他に記憶に残っている本としては、「かいけつゾロリ」シリーズや「こまったさん」「わかったさん」シリーズ、「落第忍者乱太郎」シリーズ等がある。とにかくどっさりと図書館から借りてきては時間を忘れて読みふけっていた。確かに楽しかったし、心は満ち足りていた。でもあともう少しだけ外に出て友達と遊んでいたら、今よりは社交性のある大人になれていたかもしれない……。

「エルマーと16ぴきのりゅう」はサンタクロースからの贈り物だったので、今でも本屋で並べられているのを見かけると自然と冬の記憶が思い浮かぶ。
 記憶に残っているゲームや漫画も同様に、初めて触れた時の季節が思い出されるものではないだろうか。
 沢山の友達がいなくても、こういう懐かしい記憶を一つずつ胸に秘めていく人生もいいのではないか。いや、いいものである。断言をしないと虚しさで心が崩れそうだ。

 冬。枯葉の匂いをまとった冷たい空気を吸い込むと、世間の荒波を知らない穏やかな時間を過ごしていたあの頃の温かい記憶が蘇る、寂しい季節。もうあの頃に戻ることは絶対に出来ないのに、どうしても指先で思い出をつついてしまう。そうして虚無感に襲われ、ため息をついて何とか今日を生き抜くのが大人というものなのかもしれない。

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