#20 シンプルな体調不良

おじさんはそこそこ体調不良である。熱はない。どこで生まれたか検討もつかぬ……、までには弱っていない。自室コンピュータの前に鎮座している。

なんだかわからんが胃腸の調子がすこぶる悪い。ダイエットを始める前には鯨飲馬食が災いして体調を崩すことはあったが、おじさんはたっぷり食事をしてよく寝れば軽い病気はすべて治ると思っているので問題はなかった(太った)。しかしダイエット食として納豆やヨーグルトや食物繊維を摂りまくっている今のおじさんになんの問題があるというのか。

「生物の本質は腸である」という言説がある。

乱暴に聞こえるかもしれない。落ち着いて聞いて欲しい。あなたが眠っている間に世界にいろいろな事件が起こったわけではない。

要約すると「生物の生命活動はすべて効率よく栄養を摂取するため存在する」という考え方である。大きな目は食料を探すため、大きな耳は隠れている食料を逃さないため、大きな口はお前を食べるためにある。なんとなく「人間の本体は脳」なんて思ったりするかもしれない。しかし脳も腸に食料を送り込むための情報処理器官にすぎない。なぜ胃があるのか? 腸が栄養吸収に全力を注ぐために食料を溶解・破砕する役割だ。

さて、そろそろ「生物の役割は繁殖だから性器では?」というルソー的スケベの意見が出てくる頃である。全裸になって自然に帰れとか言わないでほしい。せめて家でやってほしい。自然には帰れない。どうしても帰りたいなら斃るのが早くてオススメ。

ここで繁殖についての狭い常識を疑わなければならない。そもそも無意識に人間を基準に考えるからいけない。生物の生殖は多彩である。有性生殖があり、無性生殖があり、単為生殖も単為発生もある。胎生があり卵生もある。
しかし腸に分類できる栄養吸収器官を持たない生物はいない。少なくともおじさんは知らないし、おじさんクラスが知らないなら一般人は全員知らない。一部の専門家の解釈によってはいるかもしれないが些事である。そして性器だけの生物はいない。そう思いたいレベルのバカは多いが、彼奴らにも脳がある。多分。

つまり腸の活動は全てに優先するのである。腹痛が他に何もできない状態にまで痛むのは、腸に問題が起きているとアイデンティティが揺らぎ生命体としてレゾンデートルを失うからである。




※ここまで読んで「確かにな~なるほどな~」と思った方は人を疑うことを覚えて欲しい。さもこの論こそ正しいとでも言うように語ったが根拠はない。少なくともまだ「一説」にすぎない。

こんなことを考えなければ脳は痛みから呪いばかりを生産してしまう。



さておき、おじさんの腸は捻転状態だった。もう腹を下したとかそういうレベルの話ではない。一揆である。農民(腸内細菌)が鍬や鋤を手に代官を懲らしめようと殺到している。腸内細菌の数は数百兆にも及ぶらしい。幕府を転覆させるほどの勢力が襲いかかってくる。いつまでもズキズキ痛みギュルギュルと音は鳴るがいざ便座に座ると何も出ない。これは久しぶりに命のやり取りに覚悟を決めるほかなかった。今日はもう他に何もできない。というか眠い。眠気・寒さ・痛み、三重殺の苦しみが襲ってくる。もうボコボコである。腸内をスッキリさせてすぐに眠りたい。変な汗が出てくる。この世に神はいないことを確信しはじめる。「神は乗り越えられない試練を与えない」とか安全圏から言ってる奴を滅多刺しにしてから放置してやりたい暗黒の衝動に駆られる。しかし今行っても返り討ちになるほど戦闘力が低下しているので絵に描いた餅である。自分のちっぽけさに絶望すら湧いてくる。おじさんはここで死ぬのだ。


結果的に数時間の激闘の末におじさんは勝利した。疲労困憊満身創痍屍山血河死屍累々だった。この後で宝くじが当たっても6桁までなら幸運とは思えないほどのダメージを負っていた。イメージ上ではおじさんはストリートファイターⅡで負けたときぐらいボコボコになっている。待ちガイルが強すぎる。それ以前に波動拳を安定して出せない。格ゲー弱者である。


くにへ かえるんだな。
おまえにも かぞくがいるだろう.…

おじさんに かぞくはいない。


その後はこれだけ食っとけスープで胃腸を労りながら体調を回復した。現在は鶏ごぼうご飯をもりもり食べられるほど元気である。それにしても不調の原因が全くわからないままだったのが不気味だ。親類に腸の病気をした例を聞かないので、遺伝ではないと思われる。先日夜食にカップ麺を1つ食べたのだがまさかそれぐらいで悪くなるまい。



























ゴミを捨ててるときに「コレか……!」と声を出した。ダイエット以前の問題だった。

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