日記① 夢想

 ※例のごとくフィクションです※

 世の中の男子の7〜8割は「学校にテロリストが入ってきてそれを撃退する」という類のイタタな妄想をしたことがある。絶対にある。私もそうだった。あるいは「中二病(厨二病)」という死語になりつつある語を考えてもらっても良い。これは必ず罹患するものであって、何も恥ずべきようなことではない。ただ大人になってもまだそうであるようでは話は別だ。

 悲しいかな、私の夢想癖("fantasy-prone"の訳語として今作ってみた。「空想癖」より突拍子もない感じがする)は二十歳を超えてなお収まらないようで、一日のうちの幾ばくの時間を到底実現しようのない妄想に費やしている。

 夢想の中で私は何通りもの物語の主人公になっている。ある時は遠くない未来の理想の自分であり、またある時は現実とひどくかけ離れた異世界での自分でもある。それらは同時的simultaneousであって、あたかも定期刊行される漫画雑誌の異なる連載作品のように存在している。

 最近の私はその作品たちに自分を投影するのではなく、まるでアメリカン・コミックのスーパーヒーローを観ているかのようになっている。痛快に活躍しまさに「主人公」といった感じの、決して現実たりえない優れた自分の姿を、画面越しに見ている感覚。あゝ憐れむなかれ!自らの人生ですら主人公たらず、ただ道化を全うして死にゆくだけの私を!

 
 
 大体こうやって文語調で思考が回りだしたときは酒でバッドに入っているときに決まっている。だから一人で飲むのは良くないんだ。暗い酒より明るい酒に金を使った方がいいに決まっている。

 暗い酒は大抵すぐに悪酔いする。土色の顔で床に臥し、浅い眠りから覚めて、泥と重い身体を持ち上げる。そのとき私は、この吐き気と頭の鈍い痛みが誰にも奪われていないことに安堵する。酒飲みの快楽と悲哀だけは他のどの私にも譲らない、この私だけのものだ。

 
2024年7月某日 二日酔いから覚めて

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