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短編小説「ドーナツと非日常」

ザーーーーーーーーーー

    ポツポツ

        トンッ トンッ トンッ

 パシャッ

適当に入ったお店で目に飛び込んできたのは、彼女の奇行だった。

「なに、してんの?」


彼女の右手はドーナツを高くかかげていて、左手はスマートフォンをこねくり回していた。

「んー…芸術の爆発、かな?」

彼女は視線を合わせずに、答えた。

何も言わずに彼女のスマートフォンを覗くと、ドーナツと、その穴から見える外のどんよりとした景色がフォトアルバムに追加されていた。

「晴れた日にやれば良いのに」
「この、非日常感が、いいんじゃん」

雨のどこに非日常感なんてあるんだ。
今の彼女自身の方が、よっぽどーー。

「とりあえず、何か買ってきたら?」

思考を打ち消すように「そうする」とぶっきらぼうに返した。



買ってきたコーヒーがトレーの上で、ほわほわと湯気を立てている。

「これから、どうすんの?」

確信をついた問いに、彼女がびくりと震えた気がした。

「ちょっと、休もうかなって」

いつもと同じ明るい声。
なのに目はこちらを見ていなくて、何かを堪えるように口を開けて閉じた。

今、聞くべきじゃ、なかったかもしれない。

「おい、手、汚れてんぞ」

ペラペラの紙ふきんを取って、彼女の目の前に差し出した。

「ありがと」

彼女はチョコレートで汚れた手を紙ふきんで一所懸命にぬぐっている。
けれど、チョコレートは取れずにむしろ広がっているように見えた。

「ちょっと手、洗ってくるね」
「うん」

今日はじめて視線をこちらに向けた彼女の目は、キラキラと光を反射させていた。



喋る相手がいなくなり、目は自然と買ってきたドーナツに向く。

「芸術の爆発、ね」

彼女の真似をして、ドーナツの円に外の景色を写してスマートフォンを構えた。

「やっぱり、晴れてる方が、いい」


ドーナツの円には、雲の合間に光が指している景色が写されていた。


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