独断と偏見で語る、看護学生・看護師に忘れ去られた理系科目の知識が必要なのではないか論
「この薬の作用調べた?」 「この薬は何のために使ってんの?」
このような質問を受けた看護学生や看護師は必ずいるかと思います。特に知識の浅い新人看護師は業務に追われながら覚えることがたくさんあり、「明日までにこれを覚えないと」「これができるようにならないと」と不安を抱えていると思います。学生であれば手書きの記録が死ぬほどあり、常にそれに追われてしまってそれどころじゃない!と思っている人もいらっしゃるかもしれません。
学生時代から薬理学が好きだった人!生化学が好きだった人!と言われて真っ先に手を挙げる看護師はいないかと思います。それもそのはずです。なぜなら、看護大学や看護専門学校の多くは入試時点で理系科目を使っていない学生が多いからです。
少し話はそれますが、私は大学時代から塾講師としてアルバイトをしつつ、看護師をやめた後も塾講師として働いています。もう4年以上はかれこれやっており、看護学校に行きたい中学生や大学入試を受ける看護志望の高校生を何人も見てきました。受験というシステムにおいては、じぶんが勝てる方法であれば文型・理系関係なく通ってしまえばこっちのものです。しかも、大学や専門学校では理系科目をあくまでも「選択科目」として入試に題していることは多いです。
※国公立大学であれば、共通テスト(旧センター試験)を通ってきた猛者ばかりだと思うので苦手意識はあっても理解できないということはおそらくないかと思います。
(全国試受験生の約10%が国公立受験者(=6000人ほど))
話を戻しますが、そういった受験システムのある種、弊害によって理系科目から逃れてやっと看護師として足を一歩踏み出したと思ったら膨大な暗記量に苦しめられたといった経験は少なくないはずです。ですがこれらの大半は本当に入学後に新規に覚えなければいけなかったものでしょうか?
答えは「No」です!
では、大学受験や高校時代に習った知識は使えんの?という疑問があると思うので実際の例を紹介します。
第99回 看護師国家試験からの出題です
Q,ネフローゼ症候群で必ず見られるのはどれか?
①血尿 ②体重減少 ③低たんぱく血症 ④低コレステロール血症
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A,③
即答できた方はおめでとうございます!簡単すぎてそれほど手ごたえはなかった方もいるかと思います。ではその理由は説明できるでしょうか?また、他の選択肢、特に②が不正解な理由は何でしょうか?
解説にはおそらく「糸球体の毛細血管の機能障害が~」「タンパク質低下による浸透圧低下のため全身の浮腫が~」なんてことがおそらく書かれていることでしょう。しかしこれは全て丸暗記で新しい知識を入れないと解けなかった問題でしょうか?(もちろんネフローゼ症候群に関する病態生理は理解したうえでのお話です)
この問いも間違いなく「No」です。
糸球体にある毛細血管の炎症により、血管が拡張することで高分子のタンパク質まで流出。再吸収することなくタンパク尿として放出されます。ここで血漿タンパク質の流出に伴い血管壁(半透膜)を介して血管内外にて浸透圧が変化しますが、そもそも浸透圧とはなんでしょうか?高濃度の溶液に向かって水分が移動すると答えた方はGood!です。ではもっと数学的に、化学的に考えましょう。
<浸透圧の公式(ファントホッフの式)>
・Π=CRT
(Π:浸透圧(圧力)、V:体積、C:n/V、R:気体定数、T:温度)
この公式に見覚えはあるでしょうか?化学の発展の内容ではありますが、やったことがある人は間違いなく覚えているかと思います。もしくはこれを忘れても気体の状態方程式である『PV=nRT』は覚えているのではないでしょうか?浸透圧の公式は、気体の圧力(P)と気体分子の濃度(n)の表記を半透膜にかかる圧力(Π)と溶質の濃度(c)変えただけのものです。では、いまこの浸透圧の公式から何が言えるでしょうか?某予備校講師がCMで「数式は言葉です。計算じゃない。」という言葉を思い出してみると見えてきます。
まずは求めたいΠは不明ですが他の情報はどうでしょうか?溶液の体積は1Lで固定。今注目している血漿タンパク質(Alb)は、体外にどんどん出ていってしまっているのでcは低下。Rはそもそも定数なので一定。Tはホメオスタシスによっておよそ37℃付近で保たれているので一定。
ということで今回変化したのは濃度(c)だけということになります。ここから何が言えるかというと、例えば濃度が元々「10」だったとして、そこから減って「1」になったとしましょう。前者から後者に変化したとき、一気に1/10にまで浸透圧が下がったことが分かります。言い換えると、「今注目している物質の濃度に浸透圧が依存している」ということであり、かつ、「濃度が下がれば浸透圧が落ちる」ということを表しているわけです。
したがって、血管内の濃度が濃いほど血管外から水分が入り込んできて浸透圧が上がり循環血漿量が増加する。逆に言えば今回のように、血管内の溶質の濃度が低下しているから浸透圧が下がり、血管内の水分が血管外へ流出し、浮腫を生じるというわけです。
このように考えられれば他の症状も想定できるはずです。静脈還流量は当然増加しますので心臓の前負荷は上がり悪化すれば心嚢液の貯留がみられます。また、肺循環においても水がたまるので肺水腫を呈することがあります。眼瞼浮腫の兆候がよく国試に出題されていますがまさに浸透圧の考えからもそれは容易に考えられるはずです。
長きにわたってあつーーーーーーーーーーーーーーーく語ってきましたが私の主張は一つです。
「看護の基礎も科学である」ということです。
もちろん解剖など暗記じゃないと無理なものもあります。ですが、覚えただけで次に生かせないのであれば暗記した価値がありません。国試という一つの受験勉強を攻略するといっても暗記量は尋常ではありません(何なら毎年情報は更新されますし、新規の内容も増えています)。ほぼみんなが受かっていたようなかつての国家試験ではないのです。大学入試、専門学校の入試に問わず、理系科目を指定されていることにはそれなりの意味があり、それを理解したうえで進学してくれ!と言われているようなものです。理系科目が好きでなくてもそこから逃げてほしくはないのです。戦略的に合格することの向こう側にも目を向けてほしいわけです。
医学部受験で数3を扱いますが、入学後にこれを使った人はおそらくいないかと思います。ですが、数学ができる人や化学・物理ができる人、理系科目はほどほどだけど英語はずば抜けている人を取りたい傾向にあることは間違いありません。計算ができる事よりも理系的な思考プロセスを踏めるかが問われているわけです。
また、この記事を書いたもう一つの意味が「看護師免許を取ったからって看護師として就職しないといけないわけじゃないよ!」ということです。学生の間に違う資格を取ったり、外国語を勉強したりでもいいです。看護とそれを組み合わせて国際看護師として活躍もできます。なんなら全く別の生命科学系の研究の道へ進んだっていいのです。理系科目が好きな看護学生はぜひその道も考えてみてください。看護という「首輪」から解き放たれ、より自分が活躍できる場を自分で切り開ける人材になっていただけることを切に願います。