【第4回】小説を創る 「プロエピプロット」
1 プロローグ(その1)
「パパ、なんか……、猫になっちゃったみたい……」
黒猫は、目の前で腰を抜かしている、自分の娘にそう言った。
少女は、勢いよく玄関の扉を開けた。
今日は少女の誕生日であった。
2 プロローグ(その2)
ぢっ、遅刻するっ!
今日は、よりによって入学式当日……。
母よ!
なんで起こしてくれなかったのぉ!
いや、二度寝した私が悪いんですけどぉ!
あなたの娘は、阿修羅の形相で街中を駆け抜けておりまぁすっ!
恥も外聞もかなぐり捨てましたぁ!
パンツもチラチラ見えてると思いまぁす!
野郎ども、たっぷり見ていけぃ!
でも、そんなの関係ねぇ!
ねえねえ、あの子、入学式に遅刻した子?
そうそう、遅刻ガール。
嫌だぁ!
遅刻番長、遅刻名人、遅刻警察の署長、遅刻屋、遅刻の国のアリス、遅刻から愛を込めて……。
嫌だぁ!
なに、その不定冠詞?
嫌だぁ!
そうだ!
私は、メロス!
走れメロスの、あのメロス!
じゃあ、竹馬の友のセリヌンティウスは、校長っ!
友よ!
あなたの大切な教え子は、あなたを救うため、命懸けで疾走中でぇす!
パンツ丸出しですけど、許してぇ!
駄目だぁ!
全然、感情移入できねぇ!
だって、校長って、見ず知らずのただのオッサンなんだもーん!
あっ、おばさんだったらごめーん!
着いた!
えっと、二組……、あった!
やった!
式には間に合った!
集合時間には遅れたけど……。
そんなの関係ねぇ!
母よ。
あなたの娘はやり遂げました。
セリヌンティウスを救いました。たぶん。
この扉の向こうに、波瀾万丈の私の高校生活が待っているのね。
イエス!
オープン・ザ・ドア!
ゴチンッ!
娘は、星野百合といった。
高校の入学式に遅刻する危機に瀕していた。
百合は駆けた。
それはもう必死であった。
入学初日に遅刻……。
そんな失態、在学中、どんなあだ名を承るかわからない。そんな不名誉、到底受け入れられないのだ。
百合は駆けた。
そしてついに、やり遂げた。
自分のクラスの扉に辿り着いたのだ。
あとは、引き戸を開けるだけ……。
ようこそ! 新世界……!
ごちんっ!
扉の前で、男子生徒と派手にぶつかった。互いに尻もちをつく。
「拓也?!」
「百合?!」
互いに幼馴染であった。
拓也は胸元から携帯電話を取り出すと、
カシャリ!
シャッターを切った。
「いぇい、百合の白パン、ゲット!」
百合は、ぶつかった衝撃で、すっかり無防備であった。股が大きく開き、下着が丸見えであった。
無数の青筋が、百合の額を這う。
そして、学生鞄を、ぶるん、ぶるんと大きく振り回して……。
えいやっ!
と、拓也の脳天に振り下ろす。
「ぐわっ! はっ!」
「地獄に堕ちろ、変態ゴキブリ野郎!」
拓也の断末魔と、教室に乾いた声が響いた。
3 エピローグ(その1)
Aパート
本編
4 エピローグ(その2)
「ちょっと、ユリ……」
そう言いかけた編集長は、咳払いすると言い直した。
「少しだけ残業、頼める?」
「はい、分かりました」
娘は、大学を卒業すると、母親の勤める出版社に就職した。
偶然、母が直属の上司であった。
夜七時、編集部は、二人だけになった。
「こっち終わりそうにないわ。ごめん。今週、私が食事当番だけど、代わってくれない?」
編集長は、舌を出して、両の手のひらを合わせる。
「またぁ。まあいいよ。やったげる」
「助かるわあ。それで、何作ってくれるの?」
「カレーかな」
「いいね。彼も呼ぶ?」
「……うん」
頬を染めた娘に親指を立てて見せると、編集長は原稿との仁義なき格闘を再開した。
「待った?!」
「いや、今来たところ」
待ち合わせ場所で、若い男女は落ち合った。
「今晩、カレーだろ。マジ上がるわ」
「ちゃんと食べてるの?」
「営業って忙しいんだよ。まあ、大体、コンビニですましてるな」
「馬鹿が悪化するよ」
「言ってろ……」
女は、いつか知った方法で、男の手を握った。
男は、それを握り返して言った。
「おまえの作るカレーは美味いからな。いつもありがとう。ユリエ……」
寄り添って夜道を歩く、男女ゆく先を、大きな満月が照らしていた。
*以降、記事を改めずに、本記事を順次、更新予定。