まさかあの人にアウトは
「いやぁ、ちょっと聞いてよすぐる君。昨日はホントにすごい日だったんだ。」
「どうしたの?」
「すごい人が3人もいたんだ。その3人全員と少しだけど喋ることができたんだ。」
「へえ、なんかすごそう。詳しく聞きたい。」
「昨日ふらっと新世界に寄ったんだよ。そしたら串カツ食べたくなっちゃって空いてる串カツ屋さんに入ったんだよ。そしたらそこでケーヒルが串カツ食べてたんだよ。」
「ケーヒルって誰?」
「オーストラリアの有名なサッカー選手だよ。」
「サッカーあんまり見ないからなぁ。」
「そうなんだね。とにかくすごいことなんだ。だってケーヒルが新世界で串カツ食べてるんだぜ?しかも他のお客さん誰も気付いてないんだ。ケーヒルは特に変装してないのにだよ?」
「うーん。その状況だと意外と気づく人いないんじゃないかなぁ。」
「そんなもんなのかな。彼は上下灰色のスウェットを着ていたんだ。そして横には通訳をする60代くらいの女性がいたんだ。たぶんオーストラリア人だと思う。恐らく何か困ったときのために連れてきたんだろうね。」
「なるほど。」
「とにかく誰もケーヒルに気づいてないことは僕にとって幸運だった。適当に注文してすぐケーヒルに話しかけにいったよ。
『相席していいですか?』
『いいよ。』
『あの、失礼ですが、ケーヒルさんですよね?』
『わお。よく気づいたね。君が初めてだよ。』
『いやぁケーヒルさんだ。あはは。まさかこんなところであなたに会うとは思ってなかったですよ。』
『ちょうど国内のリーグが終わって解説の仕事にも少し空きができたから、せっかくだからということでOsakaに来てみたんだ。』
『こんな偶然があるんですね。あ、もう散々言われてきたと思いますけど、2014年W杯のオランダ戦。あのゴールすごかったですね。』
『そうだね(笑)。たくさんそのゴールについては賞賛してもらったよ。でもオーストラリアはあの大会いい結果を残せなかったから個人的にあの大会に良い思い出はないんだ。』
『ああ、そうなんですね。あ、あとやっぱりケーヒルさんと日本といえば2006年W杯の初戦ですよ。当時僕はまだ小さかったのでリアルタイムであの試合は見てなかったんですけど、あの試合を見ていた日本国民は辛かったでしょうね。』
『あはは。あの試合はよく覚えてるよ。あれは僕のW杯のデビュー戦なんだ。途中出場だったけど、あの日はすごく調子が良かったんだ。だから。そうだね(笑)。日本の皆には悪いけど、あの試合は僕にとって素晴らしい思い出だよ。』
『いやぁほんと参りましたって感じです。』
『それじゃあ僕はこれで。』
『あ、いやぁ会えてよかったです。ありがとうございました。』」
「へえ。そんなにすごい人なんだね。」
「それでだよ。ケーヒルが帰っちゃったから僕もすぐ店を出たんだよ。でもまだ少し腹を満たしきれてなかったから今度はマクドでてりやきバーガーを食べようと思ったんだよ。そしたらだよ。60代半ばくらいの外国人女性がいてさ。一目見て気づいたんだよ。『あ!マイケルジャクソンのスリラーでマイケルの右後ろでダンスしてたピンクの服着たゾンビ役の人だ』って。」
「いやいや(笑)ええ(笑)そんな一瞬で分かるものなの?僕もスリラーのミュージックビデオは見たことあるけど、あれ随分昔の映像だよね?」
「自分でも不思議だったよ。でもピンと来たんだ。てりやきバーガーを頼んですぐその女性に話しかけにいったよ。」
「さっきのサッカー選手のように通訳の人を連れていたの?」
「いや。通訳の人はいなかったけど隣に旦那さんがいたよ。僕はアメリカ英語くらいなら少し話せるんだ。
『あの、すいません。もしかしてスリラーでマイケルの斜め後ろでダンスしてたピンクの服着たゾンビ役の人ですか?』
『ええ!なんでわかったの?!』
『自分でもびっくりしてるんですけどもしかしてって思ったんですよ。』
『母国では今でもたまに声をかけられるけど、まさか日本でもこんなことがあるとは。』
『ははは。マイケルジャクソンの影響はすごいんだな。俺もダンサーだったけど、俺より家内の方が実力も実績も上なんだ。』
『そうなんですね。あのダンス小さいときによく真似してましたよ。』
『あれはほとんどマイケルが考えた振り付けなのよ。私は今でも世界最高のミュージシャンの隣でダンスできたことを誇りに思ってるわ。』
『貴重なお話ありがとうございます。』
そうやってお二人と握手させてもらったんだ。」
「いやぁ、それにしても鉄郎君がなんでその人だって分かったのか不思議だよ。」
「まだあるよ。昨日の僕はそういう能力が開花していたんだと思う。」
「まだあるの?そういえば3人って言ってたね。」
「てりやきバーガーを食べた後でスパワールドに行ったんだ。そしたらそこでTOMATO CUBEの人が温泉に入ってたんだよ。」
「トマトキューブ?知らないな。」
「『あのすいません。TOMATO CUBEのサングラス被ってる方ですよね?』
『え、あ、はい、そうです。よくわかりましたね。』
『すいません突然。自分でもびっくりしてるんですけどビビっときたんですよ。』
『あ、そうなんだ。』
『あの、僕ONE PIECEのエンディングで【私がいるよ】が一番好きなんですよ。』
『ああ、そうなんだね。』
『あのエコーがかかったような歌声、そして優しく包み込むような、それでいて切なくもあるメロディ。歌手のかたは元気にされてるんですか?』
『ああ西村さんね。最近は全然連絡とってないけど、今でもボーカル活動してるみたいだよ。』
『ああそうなんですね。あの歌は、、、あなた、、って言えばいいんですかねこういうとき(笑)あれ?(笑)』
『あなたでいいですよ(笑)』
『すいません(笑)あなたがあの歌作られたんですか?』
『そうだよ。』
『ええ、そうなんですね。』
『・・・・』
『いや、ほんと突然すいません。ありがとうございました。』
『いえいえ。』
とまあこんな感じだったんだ。」
「すごい1日だったんだね。ていうかその話ホントにホント?」