一番心に残るのは、ステージで輝いた記憶ではなく、裏方として迎えた最後の文化祭。
裏には裏の良さがある。
そう思った高校最後の文化祭が、私の心に残る学校行事だ。
運営代としての文化祭(高校2年生)
私は中高6年間、ダンス部に所属していた。
(※学校は中高一貫。)
うちのダンス部は、毎年11月の文化祭を中心に活動している。
部員みんなが日々、文化祭のステージで輝くために必死に練習するのだ。
文化祭のステージは、高校2年生が運営代として作り上げる。
ステージのテーマから、踊る曲、振付、衣装にいたるまで、全て運営代が考えている。
だから、自分が運営代のときの文化祭が、一番心に残ると決めてかかっていた。
実際、高校2年生の文化祭はとても思い出深い。
自分たちで考えた振付でステージを成功させることができて、一緒に踊った同期や後輩からも、よかったと言ってもらえて。
でも自分も出演者なので、全力を出し切ることに夢中。なので正直、あまり覚えていないのだ。
そのくらい、ステージを無事終えることに必死になっていた。
裏方としての文化祭(高校3年生)
運営代を終え、受験勉強モードに入る高校3年生。
部活からは引退するが、文化祭では大仕事が待っている。
ステージの裏方だ。
ダンスステージの裏方は、役割が結構多い。
タイムキーパー、照明、音響、後輩たち(出演者)の誘導などなど…。
自分たちでやってみて初めて、裏方とは、どれもミスの許されない、責任重大な仕事なのだと思い知った。
私は音響を担当。曲を流すタイミングや音量は、ステージ全体の雰囲気を作る。
間違えたりしたら大変だ。
せっかく本番まで頑張ってきた後輩たちのステージを、台無しにしてしまうかもしれない。
そう思ったので、真剣に取り組んだ。きっと、他の役割の同期も、みな同じ気持ちだったと思う。
裏方としての目標
緊張感はあるが、出演者としての緊張とは違う。
自分がステージに立つ出演者の場合、自分の最高のパフォーマンスをしようという一点に集中している。
しかし裏方の場合は、ステージ全体の成功を目標に動く。
だから、緊張する後輩を元気づけたり、ステージ用の髪形にしてあげたり、メイク未経験の中学1年生のメイクを手伝ったり。
部活は引退しているから、単純に後輩との交流を楽しめるのも嬉しい。
文化祭は、学校中が浮かれた雰囲気になるので、ハプニングも多い。
そんなとき、裏方が冷静に対処することも大事だったりする。
本番のステージでも、衣装の早着替えがいつもより遅くなるハプニングが発生した。
ステージの音源は、各ダンス作品の合間にあたる、空白の時間も入れてあるので、基本的に止めることはしない。
なので、そのまま流してしまうと着替え終わらず、曲に間に合わない、という事態になる。
このような緊急事態には、舞台の反対側の袖にいる私に、着替えの場所にいる同期から懐中電灯でサインが送られる。
私はそのサインに気づき、音源を一時停止。
こうして無事、一人もダンサーが欠けることなく進行できた。
裏方のやりがい
こうしてステージは成功に終わったが、裏方は特に感謝されることはない。
運営代のときは、後輩から「今までありがとうございました」の感謝を貰えて、今まで頑張ってきてよかった、と心から思える。
一方、その感動の瞬間を味わっている頃、裏方の高3はせっせとお片付け。
それでも、なんだかもの凄い達成感が、心を埋め尽くしていた。
やり遂げたという安心感だろうか、いままで可愛がってきた後輩たちの輝く姿を見れたからだろうか。
今思うに、文化祭という、年に一度のビッグイベントを創り上げた感覚があったのだろう。
信頼する同期と協力して、一つのことを成し遂げたと思えた。
出演者のダンスはイベントの花形だ。ただ、その輝きの裏に、それを支えるたくさんの役割があったんだ。
この経験は、私の視野を広くしてくれた。
だからこそ、高校最後の文化祭が、大人になった私の心に一番残っているのだなと思えた。