試合を決めたのは寺地のジャブの進化?寺地拳四朗vs京口紘人
昨日、11月1日(火)さいたまスーパーアリーナを舞台に行われた日本人世界王者同士の統一戦は、ライトフライ級WBC王者の寺地拳四朗が7RTKOで同級WBAスーパー王者の京口紘人を下すという結果に終わった。
本年屈指の話題のカードは期待に違わぬ激闘だったが、それでも寺地の圧勝といってよい内容だった。
試合直後に発表された記事をいくつか眺めていて、最も印象的だったのは「ジャブが思ったより強くてどうしようかと」という京口のコメントだった。
たしかに試合を通じて寺地のジャブはよく当たっていた。試合を決めたワンツーも、この正確で強いジャブがあったからこそだろう。
思い出すのは、昨年9月の矢吹正道との第一戦だ。今のところ寺地の唯一の敗戦であるこの試合、4Rごとにジャッジの採点が公表されるオープンスコアのシステムがとられていた。
この試合でも開始直後から寺地のジャブがよくヒットし、試合を支配していた…ように思われた。本人、および陣営もそう認識していただろう。しかし、4R終了後に発表されたスコアは意外なほどに矢吹に傾いていた(と僕には思えた)。
ジャッジは、軽くヒットしていた寺地のジャブをポイントとはせずに、前に出る矢吹の攻勢の方をより評価した。その後のラウンドで、寺地は戦い方を変え打ち合いを挑んだが、当初のプランにない戦い方は機能することはなく、結局、10RTKO負けを喫する。
陣営は試合後、序盤のジャブによる有効打がポイントとならなかったことに不満を漏らしていたが、昨日の試合を観ると、その後、ジャブのあり方を相当見直し、鍛えてきたのではないかと思われた。
矢吹第一戦まで、寺地のジャブは、彼のボクシングの生命線である相手との距離感、つまり自分のパンチは当たり相手のパンチは当たらないポジションを図るためのレーダーとしての役割が強かった。
しかし、今回の寺地のジャブはこれまでとは格段に力強くなっており、レーダー役という以上に、ダメージング・ブローとしての役割を果たしていた。
再三、京口の頭を跳ね上げるジャブを見て、長谷川穂積、山中慎介の解説陣も「あれはダメージが溜まります」と声を上げていた。二度のダウンを奪ったのは直接的には右ストレートだったが、それまでにジャブでしっかりダメージをため込んでしまったのは間違いない。
京口の側に誤算があったとしたら、この点だったのではないだろうか。思いのほか強いジャブにインファイトを仕掛けることがなかなかできず、そして、ダメージをため込むこととなってしまったこと。
京口が「ジャブで効かされてしまう」ことを予想した人は、寺地有利を予想した人のなかにも少なかったのではないだろうか。
矢吹との二戦を経て寺地は様々な面で進化を果たしたが、このジャブの変貌は今後も大きく生きることになると思う。
とりあえず、リング上で対戦を希望したWBO王者のジョナサン・ゴンサレスとの試合が実現することを望みたい。あの日本にはなかなかいないタイプのテクニシャンを寺地がどのように攻略するのか、想像しただけでわくわくしてしまう。
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