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何ひとつつかめない実習

実習は入学してすぐ始まった。
子どもの観察のしかた。動き方、質問をすること。
2年生になれば実際に時間をもらって先生となり、
何かをしなければいけない。


アルバイトはしていたものの、保育園という
独特な雰囲気になじめず、主任の先生には
あまり好かれなかった。

実習日誌もどう書いていいかわからず
ほぼ白紙で出したこともある。

大きな園で実習をしたときは同じ学校の子も集められ
コピーをした実習日誌をみんなでシェアされたこともある。

”ほかの実習生はここまでできているんだぞ”
と無言の何かを感じ取っていた。

動きがのろい私は要領よく動けず、
それでも私ができる早い動きで「何かできることはないですか?」
と聞いてきたつもり、1番嫌だったのは、パートの先生に
「大丈夫よ~、ゆっくりしていきんさい」といわれた矢先に主任の先生に
みられたことである。今となっては断ってほかの先生に聞きに行くという
正解がわかるんだけど、当時の私は言葉をそのまま受け取ってしまっていた。

どうしてこんなにしんどいんだろう。
私社会人としてやっていける気がしない。
実習も何一つ成果を残せていない。

このままこの業界に就職しても
日々、上の先生の視線や態度や言動におびえながら
過ごしていかないといけないなんて耐えられない。

目をつけられやすい人間なのかもしれない。
一生懸命動いているのに、なぜか空回りで、何一つしっくりくるものがない。

幼馴染も同じ実習先だったんだけど、うまくいっているみたいで
自分だけがつらくなっているのが悲しくて仕方がなかった。


2年生の幼稚園実習。私は幼馴染と母園に実習に行った。
一番下の妹が在園中だったころの先生が主任になっており、
挨拶まではいい雰囲気だったのに、実習が始まったとたん、
態度が変わってしまった。日誌がダメ、補助の仕方がダメ(ここは私が出しゃばりすぎた面もあった)と毎日のようにダメ出しを受けた。
日誌は幼馴染に助けを求めて書き方を変えて次の日に提出をしたけど
それさえもダメ、すべてを拒否された。

何が”ダメ”で私はどうしたら”いい”になるんだろう。
分からないまま、主任の先生に対しての恐怖があるまま、
時間をもらって臨んだ保育も隅で事務の先生とこそこそ私を見ながら
話しているのが聞こえて本当に逃げ出したかった。

その実習には同じ時期に違う大学の生徒が一人いた。
私の後に主任の先生のクラスに実習に入った彼女は、
なぜだか私に対して上からの言葉ばかりで、
さすがに幼馴染もあれはちょっと・・と
帰るときに言ってくれた。

実習が終わって数週間後、幼稚園の運動会の手伝いにいった。
打ち上げにも入れてもらい、トイレに行くと別のクラスの先生が
「実習どうだった?」と聞かれて素直に
「向いているかどうかわからなくなりました。」と言ってしまった。
言った後に(しまった、答えにくいこといちゃった。)と思ったけど
苦笑いだけで終わった。

なんで私こんな思いをしてまで実習をしているんだろう。

この業界絶対に向いていない。

もう保育士も幼稚園教諭にもならない。

完全に心が折れてしまった。

手伝いも終わって
少し経った頃、幼稚園の事務の先生が病院の事務をしている
私の1つ下の幼馴染のお母さんと話をしたらしい。
幼馴染のお母さんが私の母に「相当あたりが強くてひどかったみたいよ」と話してくれた。

実習中に私が愚痴ってもちっとも気にしなかった母が
そのことを聞いたと教えてくれた。

しんどかったけど、そうやって見てくれていた人がいたんだと
おもったら涙が出てきた。


もう二年生の秋。
就活が本格的になる。


私の頭から保育業界への就職はなくなった。







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