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右脳と左脳
暑すぎた夏も終わりが見え
夜耳を澄ますと
虫たちのすだく声が聞こえます。
スズムシ、マツムシ、コオロギなど、
虫たちの大合唱のことを
「虫時雨」と呼ぶ、
秋の季語もあります。
しかし、これは日本ならではの
風情のようです。
何故か?
実は外国人の耳には
秋の虫たちの声は
聞こえないのだそうです。
これは東京医科歯科大学の
角田忠信教授の
偶然の発見によります。
1987年、角田教授は
キューバで開かれた
国際学会に出席、その席上、
外で盛んに鳴いている
虫たちの声に気を取られます。
あまりのその激しい音に、
「なんと云う虫なのか?」と、
周囲の学者に尋ねたところ、
「何のことだ?」
と、、誰もが虫の声など
聞こえないと答えたのです。
この出来事をきっかけに
博士の研究が始まり、
角田教授はあることを
発見します。
それは、虫の音を人間は
どちらの脳で
聴き分けているかということ。
実は西洋人は虫の音を、
右脳で処理するのに対し、
日本人は左脳で受け止めて
いることが判ったのです。
右脳とは、音楽脳とも呼ばれ、
楽器の音色を
聞き分けることが
出来ますが、
日常、耳にする車の
エンジン音や
工場の騒音などは
雑音として捉え、
西洋人は虫の音も
実は単なる騒音として
捉えてしまうのだそうです。
一方、左脳は言語脳とも
云われ、人の言葉を
聞き分ける脳です。
つまり日本人は虫の音を
言葉として
受け止めているため、
チンチロリンやリーンリーンなど、
その虫の独自の泣き声を
聞き分けることが出来るのです。
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さらに研究が進み、
博士は虫の音ばかりではなく、
動物の鳴き声、波、風、雨の音、
小川のせせらぎ
といった音も、
日本人は言語と同様、
左脳で聴き、
西洋人は楽器や雑音と
同じく右脳で聴いていることが
判ったのです。
このような音を
左脳で聞くという
特徴は、世界でも
日本人とポリネシア人だけに
見られ、同じアジアの
中国人や韓国人も西洋型なのです。
何故、このような違いがあるのか?
それは、日本では、
様々な擬声語や擬音語が
高度に発達していることが
関係していると
勘が売られています。
雨ひとつとっても
シトシトからザーザー、ポツポツなど
色々な音で表されます。
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さらに、自然界には
すべて神がいて、
聞こえてくる様々な音を
神様たちの声として
捉えているという、
日本独自の自然観が
その理由と考えられています。
松虫や鈴虫など、
さまざまな虫が
さまざまな声で鳴いている、
それらの声に
日本人は、「生きとし生けるもの」の
さまざまな思いを感じることが
出来る稀有な民族のようです。