最後の4小節 君の気持ちが動く
初めて観たクリープハイプのライブは「こんな日が来るなら、もう幸せと言い切れるよ 4月11日」だった。「イト」で知って、「泣きたくなるほど嬉しい日々に」を聴いてライブに行ってみたくなった。アーティストのライブに行くことも初めてで、自分が育った場所でのライブということもあり、この日はとにかく浮き足立っていたのを覚えている。この初めてのライブに向けて、今までのクリープハイプが出してきた全てのアルバムをレンタルショップで借りて聴き込んだ。その中で一番好きになった曲は「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」だった。
地元なのに初めて入る会場は異質な空間だった。静かなのにうるさい。一人一人がこれからクリープハイプを観るんだという熱を帯びていた。なにより雰囲気が違ったし、その雰囲気に初めて来た自分は恐ろしささえも感じていた。
そして開演とともに客電は消え、クリープハイプのメンバーが登場した。尾崎さんがギターを鳴らして
「ハニー 君に出会ってから色んな事わかったよ」
と語りかけるように歌う「ex ダーリン」から始まった。普通アルバムのツアーだったら、アルバムの一曲目をやるものだと思っていたから早速裏切られた。正直、想像していた始まり方とは全く違った。最初は思いっきり楽器をうるさいくらいに鳴らして始まり、勢いよく始まるものだと思ってた。でもすごくかっこよかった。そして1番が終わりカオナシさん、幸慈さん、拓さんが加わったときに、「今「バンド」を見にきているな」と感じた。堂々としていて4人しか音を鳴らしている人はいないのに4人以上いるような迫力だった。そして曲が終わると優しい拍手の音が会場に響いた。全てが好きな空間だった。
そこからは流れるように曲を披露していった。生でクリープハイプを初めて観た自分にとって、全てがかっこよかった。拍手や歓声があるのにそんな声を無視して淡々と、飄々と曲を演奏していく姿も立ち姿も。そんなことを思っていたらmcでは尾崎さんがライブ前にエゴサをした話をしていた。同じ人間なのに歌っている時と話している時とのギャップに惹かれた。
そして「HE IS MINE」では念願の“アレ”を叫ぶことができて、あの時の興奮は今後も忘れられないと思う。ライブってこんなに楽しいんだとも感じた。基本的に自分はどこか冷めてて、どんなに楽しくても「早く終わらないかな」と思うことが多いのだが、この時ばかりは、終わらないでくれと思っていた。ずっとクリープハイプの音楽を浴びていたかった。
ライブはあっという間に最後の曲となった。尾崎さんがギターを弾く音と青色の照明だけが会場を支配する。何を最後に歌うのだろうか。既にツアータイトルに引用されている「燃えるごみの日」は歌われた。そんなことを思っていたら、ドラムが入り、尾崎さんの息づかいが聞こえた。「クソみたい仕事を終えて君のところへ」と歌う。これは自分の歌で、「君」はクリープハイプだ。
「疑い始めればキリがないから もう全部が嘘みたいに思えた
でも歌が始まれば霧が晴れてく もうなんかどうでも良くなった」
と歌う。今まさに自分が思っていることを歌ってくれている。どんな事を思っていても歌の前では正直になれるし、さらけ出せる。
「君の歌が好きだ 君の歌なんか嫌いだ
君の事が好きだ 君の事なんか嫌いだ」
と言い放ち、イントロが流れる。おやすみ泣き声、さよなら歌姫だ。クリープハイプの過去のアルバムを聴き込んでいる中で一番好きだと感じた曲だ。当時どんな理由でこの曲が一番好きだったか今までに聴きすぎて忘れてしまったが、今でもクリープハイプの曲の中で一番好きな曲だ。この曲中では腕を振ることも忘れて、曲に入り込んでいた。そして曲の最後に赤い花びらが降り注ぎ、光の点滅とともに
「最後の4小節 君の口が動く
最後の4小節 君が歌う
最後の4小節 君の気持ちが動く
さよなら」
と歌う。この儚げな演出と尾崎さんの声、クリープハイプの音が相まって感動し、鳥肌が止まらなくなったのを4年経った今でも覚えている。この光景は今後も一生忘れないだろうなと観ている最中に感じた。
そして歌の通りアンコールはなかった。一人で行ったため語る人もおらず、平然なふりをして帰った。帰りの電車でその日演奏された曲を聴いたが、「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」だけは聴けなかった。それはライブが上書きされてしまいそうだったから。その日は体を引きずるようにして家に帰り、寝る前も「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」中の光景は瞼の裏に貼りついて離れてくれなかったし、音も耳から離れてくれなかった。このライブ以降、段々とクリープハイプへの愛は深くなっていった。
この日ライブに行って感じたのは、今後自分にとっての「歌姫」は尾崎世界観でありクリープハイプになるだろうということだ。そして今でも自分にとっての「歌姫」は尾崎世界観でありクリープハイプである。
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