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永遠モブな俺が、もしも自称恋愛マスターな幽霊と師弟関係になったのなら。~その幽霊、美少女につき~
第一話 『萌え系な家出幽霊、参上! ~その幽霊、美少女につき~』
「好きです! 付き合って下さい!」
校舎裏で響くのは、一人の男子高校生の叫び声だ。
周囲に人影は無く、遠くから微かな下校中の生徒たちの話し声が聞こえてくる程度の音しかない。
季節はもうすぐ春になろうかという頃で、吹き付けてくる風はやや肌寒い。
さて、そんな時期に校舎裏でやる事と言えば、やはり告白だ。
クリスマス、卒業式、文化祭、そして新学期と、高校生活には何回かの、告白シーズンというものがある事をご存じだろうか?
周囲の空気に押されて、はたまたその場のノリで、もしくは、多分もう会わなくなっていくだろうからと、投げやりな告白だってあるだろう。
だが基本的に、投げやりだったり、何となくでした告白は上手く行かないものである。
「ごめんなさい。気持ちは凄く嬉しいんだけど、今は無理なんだ。そ、それに私、あんまり影山君のことを知らないから。」
「そ、そ、そっか......」
「だから、友達からで、ダメ?」
「......」
せめて『うん、友達からよろしく!』とかを言いたいと思ってはいるが、ショックのあまり言葉が出てこない、この作品の主人公こと影山霊次。
情けないが、告白に失敗した学生の心境は、察するに難くないはずだ。
「う、うん、よろしく。突然告白しちゃってごめんね。」
そう言い残して、走って校舎裏から逃げ出す影山。
目から出た少量の涙は、男の勲章か、もしくはただの悔し涙か。
ビュンビュンとなる風の音を聞きながら、影山は自転車で家へと爆走する。
涙はもう収まったらしいが、目の周りに残った涙痕だけは無駄なくらい綺麗に残っている。
「ミスったぁぁぁぁ!! 告白するんじゃ無かったぁぁぁああ!」
坂道を、加速し続けながら下る影山は、只今絶賛さっきの告白を後悔している最中だった。
周囲にも普通にすれ違っていく人たちも居るが、どうやら今は影山の視界には移り込まないらしい。
記憶を消そうと、全力で頭を前後に振っている。
「やっぱ、あいつの言う通りに壁ドンすべきだったのか? いや、どうせ振られるか......」
こうして独り言をブツクサ言いながら自転車を漕ぐ姿は、傍から見ればただの不審者だ。
普段は普通の男子高校生なのだ。
「もう学校に行けない。せめてあと一週間、高一が終わってクラス替えが無い限り、俺は学校に行けないぃぃぃ!」
そんな、どうしようもない事に思考を巡らせながら、影山は家へ帰るのだった。
♢♢♢♢♢
ガチャン
勢い良く家のドアを閉める影山。
「あ、お兄おかえり~。」
「おう......」
リビングでスマホ片手にポテチを食べている妹をスルーしつつ、影山は心を無にして部屋へ駆け込み、ベッドへ飛び込む。
精神的な疲労か、まるでベッドの中に沈み込んでいる様な錯覚を覚えながら、ふて寝をしようとする。
仰向けになり、今日起こった事を忘れようと目を閉じた瞬間、視界に何か薄ぼんやり見えた気がした。
「ん?」
影山は思い瞼を上げ、もう一度頭上に何かあったかを確かめた。
常識的に考えて見間違え、きっと天井のシミが何らかの形に見えたとかだろうと予測を付けるところだ。
そんな予想を影山も立てて目を開けようとした瞬間、思い出した。
そういえば、天井にシミなんてあったっけ、と。
「は?」
影山の目に移り込んだのは、壁をすり抜けてこの部屋へ入って来ている謎の少女だ。
もう少し付け加えるのなら、宙に浮いている謎の美少女だ。
常識的に考えて見間違え、きっと空気中のハウスダストが何らかの形に見えた......とか、そういう事じゃ断じて無かった。
瞬きを何回しても、頬を何回つねっても、見えるし痛いし。
状況の理解が少しずつ追い付いてきた影山は、余計に理解出来なくなるという人生初の体験に混乱を極める。
「んんんんんんんん??」
そんな影山の困惑を感じ取ったのか、その幽霊が話しかける。
『大丈夫ですか?』
心配しているのであろうその仕草も、どうしても絵になる。
きっと、同級生にこんな少女が居たら大半の男子諸君が彼女の虜になること間違い無しだ。
「ちょっと待ってて、あと少しで冷静になれそうだから。」
『あ、はい。』
「ふぅぅー、落ち着くんだ俺。今まで、慌てていて上手く行った事なんて無いじゃないか。活かすんだ、教訓を。」
数秒程そんな自己暗示を掛けた後、影山はようやく幽霊と向き合う。
「よし、もう大丈夫ですよ。」
『なんか、口調が少し変わってません?』
「そ、そんなことないでヤンスよ。」
『いや、わざとですよね。』
どうやら、影山は幽霊とのコミュニケーションも苦手らしい。