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社獣ハンター シニア向けの分譲マンション地獄
【社獣ハンターのメンバー】
堀部映理(ほりべ えり)
社獣ハンターのメンバーで黒髪ショートカット、スーツ姿、格闘技の天才。『必殺飛燕真空回し蹴り』で数多くの悪人を沈めてきた。オフィスでは筋トレを欠かさず、常に身体を鍛えている。
五十嵐いづみ(いがらし いづみ)
社獣ハンターのスタッフ。女優・山岸あや花似の美女。身長175cm、痩身でメガネをかけた知的な雰囲気を持つ。セクハラを行う社獣を罠にはめるのが得意。
藤堂葵奈(とうどう あいな)
社獣ハンターのアシスタント。一見クールだが、小心者。強くありたいと努力するものの、恐怖や極度の緊張に襲われると嘔吐してしまう体質。
AI先生
社獣ハンターに確実な情報を伝えるモニター上のクリーンなインターフェース。
チャプンド
情報工学の専門家。盗聴や盗撮を駆使して堀部映理たちを援護。デスクはモニターと機材で埋め尽くされ、最新の情報を解析する。
第1章 被害者・吉田孝太郎
吉田孝太郎は、72歳。定年退職後、静かな老後を過ごすつもりでいた。若い頃、住宅ローンを組み、念願の分譲マンションを購入した。それが彼の「安心」になるはずだった。しかし、現実は違った。
三十年前、駅近で便利な立地だったこのマンションも、時代の変化と共に環境が大きく変わった。周囲の商店街はシャッター通りとなり、馴染みの店が次々と姿を消した。買い物のために遠くまで行かなければならず、足腰が弱ってきた孝太郎には大きな負担となった。
それでも、持ち家の安心を信じ、我慢していた。しかし、ここ数年の修繕費の高騰が、彼の生活を追い詰めていった。屋上防水工事、外壁補修、エレベーターの交換——すべて住民の負担で行われるため、毎年のように修繕積立金が増額された。年金生活の孝太郎には重すぎる負担だった。
「売るしかないか……」
そう思い、不動産会社に相談した。しかし、返ってきた答えは厳しいものだった。
「この築年数では、売れても相場の半分以下でしょうね」
「そんな……」
三十年前、人生の安定を信じて購入したマンション。だが、もはや「資産」ではなく、「負債」となっていた。焦りと不安に苛まれる中、ある日、孝太郎のもとに一本の電話がかかってきた。
「吉田様ですか? 当社では、シニア向けの住み替えサポートを行っております。今なら高額で売却できる特別なご案内が——」
その言葉に、孝太郎の心は揺れた。売れないと諦めかけていたマンションが、高く売れるというのだ。相手は「シニア専門の不動産会社」を名乗り、親身な口調で相談に乗ってくれた。
「築年数が古くても、当社なら確実に売却できます。今が売り時ですよ!」
「ほ、本当ですか?」
「もちろんです。まずは無料査定をしましょう。その後、スムーズに売却手続きを進められます」
孝太郎は期待を抱き、その会社に査定を依頼した。営業マンはスーツ姿の若い男で、爽やかな笑顔を浮かべていた。
「この物件、立地もいいですし、十分な価値がありますよ。ただし、手続きには少しコストがかかります。その分、売却価格はしっかり保証しますので、ご安心ください」
その言葉に孝太郎は安心し、言われるがままに契約書にサインした。
だが、ここからが地獄の始まりだった。
手数料と称し、次々と請求される高額な費用。書類作成費、売却サポート費、特別査定費——数十万円が一瞬で消えた。それでも、売却の話は一向に進まない。
「そろそろ買い手が決まりそうです。もう少しお待ちください」
「次の手続きに進むためには、追加の保証金が必要です」
次々と要求される金銭。気がつけば、貯金のほとんどを奪われていた。最初に「売却価格は保証する」と言っていたはずなのに、連絡は徐々に減り、やがて電話もつながらなくなった。
「騙された……?」
現実を悟った孝太郎の顔から血の気が引いた。
——このままでは、生活すら立ち行かなくなる。
絶望の中、孝太郎は妻と話し合った。
「もう、どうしようもないな……」
妻もまた、疲れ切った表情でうなずいた。
「二人で終わらせようか……」
お互いに言葉を交わしながら、彼らはベランダへと向かった。
そのとき——
「待って!」
鋭い声とともに、黒い影が飛び込んできた。瞬間、孝太郎と妻の腕をつかみ、強い力で引き戻す。その勢いに押され、二人は床に倒れ込んだ。
「大丈夫? しっかりして!」
倒れたまま見上げると、そこに立っていたのは黒髪ショートカットの女性。スーツ姿で、精悍な顔つきをしている。
「あなたは……?」
「社獣ハンターの堀部映理よ」
そう名乗ると、映理は二人をじっと見つめ、静かに言った。
「こんなことで人生を終わらせるなんて、許さないわ。あなたたちを騙した奴ら、私が必ず叩き潰すから」
孝太郎はその言葉を聞き、滲んだ涙を拭いながら、小さく震えた——。
詐欺に気づいた孝太郎は、わずかな希望を込めてスマートフォンを手に取った。
《シニア向けマンション売却詐欺に遭いました。どうか助けてください。》
震える手で送信ボタンを押した。しかし、返事が来ることはないと思っていた。
そのメッセージがなければ、二人とも救われなかったかもしれない。
そして、孝太郎は初めて「生きていてもいいのかもしれない」と思えた。
第2章 潜入と社獣ハンターの危機
藤堂葵奈は、おばあさんに扮して敵のアジトへと潜入した。シニア向けの相談者を装い、詐欺組織に接触する。彼女は慎重に、しかし積極的に話を持ちかけ、ターゲットに近づいた。
「まあまあ、こんなお得な話があるなんてねぇ。わたしもそろそろ住み替えを考えてるんですよ」
詐欺師たちは、最初は警戒しながらも、金になりそうな獲物と判断したのか、葵奈に売り込みを始めた。彼らは連日、彼女と会い、契約の話を持ちかけた。
「今なら特別価格で買い取れるんですよ、おばあさん」
「手続きは簡単で、すぐにでもお金が手に入ります」
葵奈はうまく相槌を打ちながら、慎重に情報を集めていた。しかし、何度も顔を合わせるうちに、詐欺師の一人が違和感を覚え始めた。
「このババア、どこかおかしい……」
ある日、男の一人がいきなり葵奈の腕を掴んだ。
「な、何を……!」
「お前……本当に年寄りか?」
葵奈は抵抗しようとしたが、すぐに複数の男に囲まれ、強引に引きずり込まれた。彼らは彼女のウィッグを引き剥がし、変装を暴いた。
「しまった……バレた……!」
葵奈は恐怖に震え、逃げ道を探した。しかし、狭い部屋に閉じ込められ、男たちの冷たい視線が彼女を取り囲む。
「スパイか? さて、どうしてくれようか……」
極度の緊張と恐怖に襲われた葵奈の胃が痙攣する。そして、彼女は耐えきれずに嘔吐してしまった。
「なんだこいつ……大丈夫か?」
男たちが戸惑いながらもさらに詰め寄る。その時——
「そこまでよ!」
扉が勢いよく開き、黒髪ショートカットのスーツ姿の女が飛び込んできた。鋭い目を光らせながら、彼女は詐欺師たちを見据える。
「お前ら、詐欺で老人を食い物にしてるってわけね。最低のクズどもだわ」
「誰だてめぇ!」
「社獣ハンターの堀部映理よ!」
映理は一瞬で間合いを詰めると、目前の男を「必殺飛燕真空回し蹴り」で吹き飛ばした。
「ぐあっ!」
他の男たちも襲いかかろうとするが、映理の連続蹴りが次々と悪党どもを沈めていく。
「は、速すぎる……!」
「こ、こいつ……ただ者じゃねえ……!」
葵奈は倒れたまま、ぼんやりとその光景を見つめていた。恐怖に震えていた自分とは対照的に、映理は何の迷いもなく悪党どもをなぎ倒していく。
やがて、部屋の中は呻き声だけが響く。映理は倒れた男たちを見下ろしながら、息を整えた。
「葵奈、大丈夫?」
葵奈は震える手で顔を拭い、なんとか頷いた。
「ごめん……私……怖くて……」
「大丈夫よ。無事ならそれでいい」
映理は優しく手を差し伸べた。葵奈はその手を握りしめ、二人は静かに部屋を後にした。
——こうして、藤堂葵奈の潜入作戦は失敗に終わったが、社獣ハンターは詐欺組織の一端を掴むことに成功した。
しかし、これで終わりではない。詐欺組織の本当の黒幕は、まだ姿を見せていなかった——。
第3章 悪徳業者・蛭畑剛一の影
詐欺組織の首領、蛭畑剛一(ひるばたけ ごういち)は、シニア向け不動産詐欺を生業とし、多くの高齢者を陥れてきた。彼は「セーフリビング不動産」の経営者として表向きは誠実なビジネスマンを装いながら、裏では詐欺による莫大な利益を享受していた。
その夜、蛭畑は都内の高級クラブのVIPルームにいた。シャンパンが並び、美女たちが媚びるように微笑む。
「社長、今夜も景気がいいですねぇ」
隣の席で飲みながら、手下の坂巻が笑う。蛭畑は葉巻をくゆらせながら、グラスを揺らした。
「当然だろ? あの年寄りどもから巻き上げた金は、こうやって使ってこそ意味があるんだよ」
女が甘えるように蛭畑の腕にしなだれかかる。
「もう社長ったら、やだぁ~。でも、それって大丈夫なんですか? 最近、詐欺のニュースも多いし……」
「心配いらねぇよ。俺たちは法の隙間を縫ってるんだ。契約書は全部合法、書類も完璧。バカな老人どもは何もわかっちゃいねぇ」
周囲が下卑た笑い声を上げる。
その中に、一人のホステスがいた。
五十嵐いづみ——社獣ハンターの情報担当が、ホステスとして潜入していたのだ。
「社長、シャンパンのおかわり、いかがですか?」
艶やかな笑みを浮かべ、いづみは蛭畑の横にそっと寄る。蛭畑はじろりと彼女を見上げると、満足げにニヤリと笑った。
「おう、なかなかいい女じゃないか。こっちに来な」
そう言って、いづみの肩を抱き寄せる。その手つきは馴れ馴れしく、明らかに彼女の身体を物色するような動きだった。
「社長、お手柔らかにね……」
いづみは涼しい顔を保ちながら、相手の警戒心を解こうとしていた。情報を引き出すためには、気に入られなければならない。
「お前、名前は?」
「いづみです」
「へぇ、いい名前だ。なあ、今夜は俺に付き合えよ」
蛭畑は酒の勢いもあって、いづみの腰に手を回し、さらに密着させようとする。
——その時、部下の石川が慌てて駆け込んできた。
「蛭畑さん、大変です! 逃げられました!」
蛭畑の目が細まり、葉巻を灰皿に押し付ける。
「……誰に?」
「怪しいババアです! 数日かけて契約を進めていたんですが、途中で消えました! それだけじゃない、どうも素性が怪しかったらしくて……」
「チッ、ドジ踏みやがって。すぐに見つけて始末しろ」
蛭畑は不機嫌そうに言い放ち、シャンパンを一気に飲み干した。
その横で、いづみは目を伏せながら、心の中で冷ややかに笑った。
——この時、彼は知らなかった。
目の前でしなだれかかるホステスこそが、自分を追い詰める社獣ハンターの一員であることを——。
第4章 崩壊の序曲
詐欺組織の首領、蛭畑剛一(ひるはたけ ごういち)は、長年にわたりシニア向け不動産詐欺を続けてきた。だが、その悪事が今、暴かれようとしていた。
社獣ハンターの情報工学専門家であるチャプンドは、ハッキングによって「セーフリビング不動産」の内部データを解析し、膨大な証拠を集めていた。詐欺の手口、被害者のリスト、さらには不正に流れた資金の動き——すべてが白日の下にさらされた。
「これをSNSに拡散する。証拠は十分。あとは連中が自滅するのを待つだけだ」
チャプンドの一声で、SNS上には#セーフリビング詐欺 というタグが拡散され始めた。被害者たちの証言や、蛭畑が金を巻き上げた契約書の画像、さらには豪遊している彼の写真まで投稿され、瞬く間にネットは大炎上した。
【SNSで拡散された投稿の一部】
1. 「うちの祖父がこの詐欺会社に300万円も騙し取られました!絶対に許せない! #セーフリビング詐欺 」
2. 「蛭畑剛一、老人の金で豪遊してる証拠写真!最低すぎる… #悪徳不動産業者 」
3. 「この会社、契約書を交わした後に、不当な追加料金を請求してくる手口だったらしい。完全にアウトだろ…」
4. 「テレビでも報道され始めた!詐欺会社つぶれろ! #詐欺撲滅 」
5. 「元社員の内部告発きた!ここの社長、顧客を“カモ”って呼んでたらしい」
6. 「行政も動くべき!老人を騙すなんて最悪。拡散希望! #高齢者詐欺 」
7. 「詐欺業者のオフィス前に、被害者たちが押しかけて抗議しているぞ!」
8. 「このクズ、逮捕される前に逃げる気じゃないか?徹底的に監視しよう!」
9. 「政治家とも繋がってるらしい。闇が深すぎる… #不動産業界の闇 」
10. 「警察が動いた!これはもう時間の問題だな… #悪は滅びる 」
「やってくれたな……!」
その頃、蛭畑剛一はオフィスで怒りに震えていた。スマートフォンの画面には、彼を糾弾するニュースや、批判コメントが次々と流れている。
「社長、まずいです! マスコミが押しかけています!」
部下の坂巻が血相を変えて飛び込んできた。
「何ィ!? どういうことだ!」
「テレビ局のクルーと被害者たちが、建物の前に集まりインタビューを求めています! それに、SNSで拡散されたせいで、今や全国レベルの騒ぎに……」
蛭畑は拳を机に叩きつけた。
「くそっ! こうなったら金で黙らせ——」
その瞬間、オフィスのドアが乱暴に開け放たれた。
「警察だ! 全員動くな!」
怒号と共に突入したのは、警察の特別捜査班だった。書類を持った刑事が前に出て、蛭畑に向かって宣言する。
「蛭畑剛一、お前を詐欺罪で逮捕する!」
「ふざけるな! 俺は合法的に商売をしている!」
蛭畑は抵抗しようとするが、刑事たちはすでに手錠を構えていた。
「お前の会社の内部データ、全部押さえさせてもらった。もう言い逃れはできないぞ」
「社長、どうしましょう……」
坂巻が震えながら言うが、蛭畑にはもはや打つ手がなかった。
——こうして、長年にわたり老人たちを食い物にしてきた詐欺組織は、完全に崩壊した。
社獣ハンターの任務は成功したのだ。
第5章:エピローグ 希望の光
数週間後——
都内の小さなカフェのテラス席に、穏やかな午後の陽光が差し込んでいた。
吉田幸八は、熱いコーヒーをゆっくりと口に運びながら、微笑んでいた。詐欺に遭い、人生を諦めかけた彼だったが、社獣ハンターの尽力によって救われた。
「本当にありがとうございました……。あのままだったら、私たち夫婦はどうなっていたことか分かりません」
彼の隣には妻が座り、同じように感謝の眼差しを向けている。
「幸八さん、もう過去のことは忘れて、これからの人生を楽しんでくださいね」
そう声をかけたのは、カフェの向かいの席に座る堀部映理。隣には五十嵐いづみが、ゆったりとカップを傾けていた。
「それにしても、いづみの潜入作戦、なかなか様になってたじゃない。ホステス役なんて、ぴったりだったんじゃない?」
映理がからかうように言うと、いづみは苦笑しながらグラスを揺らした。
「まあね。でも、あんな男に口説かれるなんて、もうこりごりよ」
「そう? 私はもっと大胆にいくかと思ったけど」
「映理、それパワハラよ?」
三人は顔を見合わせると、自然と笑いがこぼれた。
「まあ、何はともあれ、またひとつ悪を成敗したってことで」
映理がグラスを掲げる。
「乾杯!」
「乾杯!」
グラスが軽やかにぶつかり合い、カフェには心地よい笑い声が響いた。
——社獣ハンターの戦いは続く。
だが、今日くらいは、束の間の平穏を楽しもう。
そう思いながら、映理はいづみと共に、もう一口、コーヒーを楽しんだ。