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社獣ハンター 女を喰らう売国政治家を叩き潰せ!

登場人物:
社獣ハンター:堀部映理(「ほりべ えり)
売国右翼政治家:蛭田無犯窓(ひるた むはんまど)
五十嵐いづみ:蛭田無犯窓の秘書
高橋恵子:無犯窓の執拗なネットリンチにあい自殺した市議会議員
田村うさぎ:無犯窓が新たに目をつけたターゲットにした市議会議員

【ある女性の死】

朝靄がまだ街を包み込んでいる時間だった。都心の一角にそびえる高級マンション、その敷地内に異変が生じた。
通勤のために駐車場へ向かっていた住人の一人が、ふと違和感を覚える。エントランス脇、植え込みの脇に人が倒れている——。
慌てて駆け寄った彼の足元に広がるのは、鈍く光る液体。暗いアスファルトの上に滲み、ゆっくりと広がっていく赤。女性の身体は不自然な角度に折れ曲がり、まるで何かに怯えるような表情を張り付かせたまま、静かに横たわっていた。
マンションの上階から飛び降りたのか。いや、それとも……。
通報を受け、ほどなくして警察と救急隊が駆けつける。救急隊員が脈を確認し、小さく首を振る。その様子を見て、警察官の一人が小さく息を吐いた。
「……心肺停止の状態です」
現場はすぐに規制線が張られ、警察の捜査が始まった。遺体の身元は、このマンションの住人である一人の女性と判明する。年齢は三十代後半、仕事も持ち、特に目立ったトラブルはなかったとされる人物だった。
遺書らしきものは見つからなかったが、彼女が住んでいた部屋の窓は開いていた。室内には争った形跡もなく、鍵も内側から掛かっている。
遺体の近くにはスマートフォンが落ちていた。画面はうっすらと光を放ち、最後に操作されたアプリの名が表示されている。
警察はこれを「自殺」として処理する方向で動き出した。
だが、現場の様子に違和感を覚えた刑事もいた。死に顔の表情。まるで、最後の瞬間まで何かを訴えようとしていたかのような、その痕跡が胸に引っかかる。
女性は何を思い、何を抱え、この結末に至ったのか——。
その答えを知る者は、果たしてどこにいるのだろうか。

【街頭演説】

都心の喧騒から少し離れた場所にある高級住宅街。坂道が多く、歴史ある邸宅と近代的なマンションが入り混じるこのエリアには、多くの大使館が並び、国際色豊かな空気が漂っている。だが、一方でかつて賑わった商店街は、時代の流れとともに活気を失い、シャッターが降りたままの店も目立つようになっていた。外国人向けの高級ブティックが増え、日本人経営の個人商店は次第に姿を消している。
その静けさを破るように、選挙運動のワゴン車が静かに滑り込み、停車した。補助席にいた男が素早く降り、後部座席のドアをうやうやしく開ける。
車から降りたのは、一目で高級品とわかるスーツを纏った男だった。英国屋で仕立てたジャケットは肩にしっかりとしたラインが入り、ワイシャツは最低でも一万円はする上質な生地。そして、ネクタイには日本の老舗ブランドである福助のものを使用し、袖口のカフスボタンが異様なまでに光っている。
蛭田無犯窓(ひるた むはんまど)——日本革命労働党の代表。バブル崩壊後の混乱と疲弊した日本社会の中で、彼の力強い言葉と明確なビジョンは、多くの国民にとって新鮮で希望に満ちたものに映っていた。
彼の風貌は、一見すると品のある政治家然としている。髪は年とともに薄くなってきたが、七三にきっちりと分け、まるで闇黒な宇宙を思わせるほど黒く染め上げていた。目は細く、下まぶたには深い皺とたるみが刻まれている。
若い女性スタッフがうやうやしくマイクを渡す。蛭田がそれを受け取ると、袖口のカフスボタンがまたもやギラリと光る。
普段は落ち着いたこの商店街も、この日は異様な熱気に包まれていた。彼の信者と見られる人々が押し寄せ、通りを埋め尽くしている。年配の支援者が目立つが、中には疑問を抱えながらも演説を見守る若者の姿もあった。

蛭田の第一声である。

「信者の皆さん、貧しい労働者の皆さん、こんにちは!」
蛭田の声が拡声器を通じて街中に響き渡った。彼の言葉に呼応するように、群衆の一部から歓声が上がる。
「この商店街1960年代から90年までは非常に栄えていました。しかし、どうです。今は。さびれた街・閑散とした街、高級住宅には外国人が住み着き、こんな街、こんな日本にしたのは一体誰ですか?誰が悪いのですか?」
観衆:「イオンだ!スーパーのイオンが悪い!」
蛭田:
「違いますよ!違いますよ!〇〇総理大臣!日本政府!そして官僚なんです。我々はこの国の未来を守るために戦っている!外国勢力の手先どもが、この美しい国を食い荒らそうとしているのを、私は決して許さない!」
彼の手が宙を切るたびに、袖口のカフスボタンがぎらりと光る。彼のスーツの袖の下には、見え隠れする奇妙な刺青があった。細い線で描かれたそれは、一見すると幾何学模様のようにも見えるが、注意深く見れば何かの紋章のようにも思えた。
蛭田は演説を続けた。
「この国の政治は、金と権力にまみれた連中によって汚されてきた。しかし、我々日本革命労働党こそが、真に日本国民のために働く政党なんです!私は戦います。しかし、私の力なんかは微実たるもの、皆さんの協力が必要なんです。だからこそ、私は諸君に問います。今こそ立ち上がるときではないですか!私に力をください。みなさんとともに昔のような底力がある日本にしましょう!」
群衆の中から「そうだ!」と賛同する声が上がる。

「最期に日本の栄光を取り戻し、日本人の生活をより豊かに!できるのは、この無犯窓!蛭田無犯窓だけです!信者と労働者の皆さん、蛭田無犯窓を宜しくお願いします。凱旋演説なので歌は歌いません!」
街並みの中には、大使館の鉄柵が見え隠れし、広尾特有の静けさと、異様な熱狂が混在していた。

【蛭田事務所内】

蛭田の事務所は二つあった、一つは永田町より近い住宅地、そして今流行りのvirtual Officeである。
蛭田が歩く周りにはスタッフが絶えず動き回り、蛭田を世話をする。
蛭田より先にドアを開け、電灯をつける。
蛭田はずっしりずっしりと歩き、大きなデスクの椅子にどっかり腰をおろした。
「今日の演説はどうだった?」
若いスタッフの五十嵐いづみは、都会のネオンの下でもひときわ目を引く存在だった。艶やかで滑らかな黒髪は肩のあたりでゆるく波打ち、自然な色気を醸し出している。整った顔立ちは、端正でありながらもどこか柔らかさを感じさせ、笑うとほんのりとした愛嬌が加わる。瞳は大きく、吸い込まれるような深いブラウン。目元にはうっすらとした陰影があり、どこか夢見がちな雰囲気をまとっていた。
細身ながらもしなやかなボディラインは、繊細さと女性らしい丸みを絶妙なバランスで保っている。肌は白く透き通るようで、スポットライトの下ではほんのりと輝く。長い指先がそっと動くたびに、静かで確かな魅力がにじみ出る。立ち姿は自然体でありながら、どこか計算されたかのような美しさが漂っていた。

言葉を発するたび、落ち着いたトーンの中に甘やかさが混ざる。その声は耳に心地よく、まるで囁くように人の心に入り込む。歩くたびに揺れる髪と、意識せずとも人を惹きつけるその雰囲気。どこか妖艶で、それでいて可憐な女性だった。
女優で例えるなら「山岸あや花」似だが、背の高さは山岸あや花が161cmであるのに対して175cmほどあり、細身のモデル体型であった。お辞儀をするときに妙にお知りを後ろに突き出す癖があった。

熱いエスプレッソを出しながら、
「最高でした。うっとりしました」
蛭田は椅子の袖を叩きながら大喜び。
パソコンに電源を入れると、Windowsの起動とともにメッセンジャーが新規メールを知らせる。
「おっ、工作部からだ」
蛭田がうやうやしく開き、ニンマリと笑った。
日本でハニートラップにかかった政治家のリストが添付されていた。
「これは使えるな。しかし、これはあるタイミングで効果的に発表できるな。今はその時ではない。楽しみが増えた」
「先生、もうこれ以上用がなければ、これで失礼します」
五十嵐は笑顔の明るい声でお尻を後ろに突き出し挨拶をするのであった。
ふと、右側の壁にかかったカレンダーに目が止まる。

【社獣ハンターオフィス】

都会の片隅にある社獣ハンターのオフィスは、一見すると何の変哲もない雑居ビルの一室だ。外には看板もなく、通りすがる人々の目にはただの古びたオフィスにしか映らない。しかし、その扉の向こうでは、日々社獣との戦いが繰り広げられていた。
オフィスの中は、機能性重視のシンプルなレイアウト。壁には社獣関連の資料がびっしりと貼られ、ホワイトボードには現在進行中の事件の情報が書き込まれている。デスクの上にはパソコンや資料、そしてコーヒーカップが無造作に置かれ、作業の合間に散らかったままの状態になっている。
ここで社獣ハンターのメンバーを紹介しよう。

チャップ:
姓名は不明だが、退治すべき対象を持ち込む。政府の裏の組織の一員らしい。彼はいつも黒いロングコートを羽織り、冷静な表情で情報を提供する。

堀部映理(ほりべ えり):
社獣ハンターのメンバーで格闘技の天才。彼女の『必殺飛燕真空回し蹴り』は多くの悪人を沈めてきた。オフィス内では筋トレを欠かさず、常に身体を鍛えている。

藤堂葵奈(とうどう あいな)
社獣ハンターのアシスタント。一見、落ち着いていてクールな雰囲気を持つが、内心はかなりの小心者。強くありたいと努力するものの、恐怖や極度の緊張に襲われると嘔吐してしまう体質。

AI先生:
人ではない、社獣ハンターに確実な情報を伝える。オフィス中央に設置されたモニターに映し出される、クリーンなインターフェースが彼の顔ともいえる。

チャプンド:
情報工学専門で、盗聴や盗撮を一手に扱い堀部映理たちを援護する。彼のデスクはモニターと機材で埋め尽くされており、常に最新の情報を解析している。

チャップは、壁にもたれかかりながら静かに口を開いた。
チャップ:
「先日、高橋恵子市議会議員が自殺した、警察は自殺と処理したが…」
堀部映理は腕を組み、じっとチャップを見つめる。
堀部映理:
「なにか裏があるのね。わかったわ。AI先生!お願い全て資料を選別して!」
AI先生のモニターが点滅し、大量のデータが画面上に流れていく。堀部映理はそれを見ながら、新たな戦いの準備を整え始めた。
かくて社獣ハンター「高橋恵子謎の死事件」に取り組むのであった。

【政府系与党市議会議員田村うさぎ家】

市議会議員田村うさぎはもとは地域活性化活動家の34歳で、その性格はというと、

明るく前向きで、困難にも負けない強い意志を持つ。
周囲の人々を元気づけるエネルギーがあり、音楽活動を通じて地域の若者たちに夢を与える存在。
政治家としては、市民の声をしっかり聞き、特に女性や若者の権利を守る活動に注力している。
正義感が強く、社会の不正に対しては毅然とした態度を貫く。

まるで政治家になるために生まれて来た女性である。
田村は、帰国子女で学生時代にはいじめにあったものの地元の活性化のために市議会議員となった。この自治体ではまだまだ女性議員が少なく、特に年配の男性議員からの軽視や偏見にさらされることも多い。しかし、彼女はそうした壁を乗り越えながら、地域のために奮闘している。

【田村うさぎのオフィス】

田村うさぎのオフィスは、市庁舎の一角にあるこぢんまりとしたスペースだが、明るく清潔感に溢れている。外観は特別派手ではないが、入口には「田村うさぎ市議会事務所」と書かれた木製のプレートが掲げられ、ドア横には彼女の政策の一環として取り組んでいる地域活性化プロジェクトのポスターがいくつも貼られている。
中へ入ると、壁には地元の子どもたちが描いたカラフルな絵や、地域イベントの写真が飾られており、温かみのある雰囲気が漂っている。デスクの上には整理された資料の山と、市民からの要望書や手紙が置かれている。田村は、コーヒーを片手に椅子へと腰掛け、愛用のノートパソコンを開いた。毎朝のルーティンとして、市民からのメールをチェックすることから始める。

【予想外のメール】

受信トレイには、地域のイベントについての連絡や、市民からの要望、政策に関する問い合わせが並んでいる。その中に、ひとつ見覚えのある名前を見つけた。
「蛭田無犯窓……?」
彼女は眉をひそめた。この名前には記憶があった。先日の「外国人の不法投棄を考えるシンポジウム」で一度だけ会った男だ。直接的なやりとりはほとんどなかったが、名刺交換をしたことを思い出した。
「何の用かしら?」
不審に思いながらもメールを開くと、意外にも内容は彼女の誕生日を祝うメッセージだった。
「田村議員、お誕生日おめでとうございます。」
そんな一文が並んだ後、彼女の眉がピクリと動いた。
「おデートしよう!」
「……なにこれ、馬鹿じゃないの?」
彼女は思わず苦笑しながら、ため息をついた。政治家として活動していると、時折こうした軽薄な誘いを受けることがある。無視するのが一番だが、これ以上関わりたくないという意思をはっきり示す必要もある。

【田村の返信】

彼女は落ち着いた口調で、必要最低限の礼儀を保ちながら、毅然としたメールを打った。


件名:Re: お誕生日おめでとうございます

蛭田様

お心遣いありがとうございます。誕生日を覚えていてくださったことには感謝いたします。

しかしながら、私の立場上、個人的なお誘いには応じかねます。議員として、市民の皆様との公平な距離感を大切にしているため、ご理解いただけますと幸いです。

今後も必要な場面で意見交換の機会があれば、ぜひ公の場でよろしくお願いいたします。

田村うさぎ

送信ボタンを押した瞬間、彼女は軽く肩を回した。これで終わりだろう、と考えていたが、事態はそう簡単には終わらなかった。

【執拗なアプローチ】

その日の午後、再びメールが届いた。
「お堅いなあ。お茶くらいならいいでしょ?」
田村は眉をひそめ、すぐにゴミ箱へ移動させた。
翌日、また別のメールが入る。
「議員だってリラックスが必要だよ?仕事ばかりじゃつまらないでしょ?」
今度は無視することにした。だが、数日経っても彼からのメールは途切れなかった。
「僕のこと、誤解してるよ。誠実な話がしたいだけなんだ。」
「応えてくれるまで送り続けるよ?」
ぞっとするような一文が目に入ったとき、田村はついにため息をつき、秘書に呼びかけた。
「ちょっと、これ見てくれる?」
秘書が画面を覗き込むと、顔をしかめた。
「これは……ちょっと気味が悪いですね。ブロックした方がいいんじゃないですか?」
「そうね、ただ、万が一のために記録は残しておきましょう。」
田村は毅然とした態度で、メールを専用フォルダに保存し、蛭田のアドレスをブロックリストに追加した。しかし、その執拗なアプローチは、思いもよらぬ形で彼女の生活に影を落とし始めるのだった――。

【犬笛が鳴る──蛭田のネットリンチが始まる】

【蛭田専用チャンネルより】

夜の闇に包まれた画面の中央、スーツ姿の男が映し出される。紺のジャケットに白いシャツ、ノーネクタイというラフなスタイル。しかし、その目は鋭く、冷ややかにカメラを見つめている。背景には本棚が整然と並び、一見知的な雰囲気を醸し出しているが、その口から発せられる言葉は、まるで剃刀のように鋭い。
「信者の皆さん、労働者の皆さん、こんばんは。日本の救世主、蛭田無犯窓です」
お決まりの挨拶と共に、彼の声がチャンネルを通じて響く。
「今日はね、ちょっと大変なお話をします。皆さんはご存知でしょうか?日本一の美貌を持つ論客市議会議員、田村うさぎさん。30代半ばの彼女ですが、昔ね、池袋で立ちんぼしていたんですよ。そう、売春婦です」
静寂が数秒続いた後、蛭田は口角をわずかに上げ、嘲るように続ける。
「当時は、まさか彼女が市議会議員になるなんて思ってもいませんでした。でもね、あまりにもよく見かけるものだから、忘れようにも忘れられなかったんですよ。驚きですよね。売春婦が市議会議員ですよ?こんな人物が公職に就くなんて、日本の政治の健全性を考える上で許しがたいとは思いませんか?」

【コメント欄──ネットリンチの炎が燃え上がる】

配信が進むにつれ、コメント欄には信者たちの罵詈雑言が飛び交い始める。

「うわー、そんな過去があったんかよwww」「これ本当なら終わってるわ」「うさぎ(笑)公務員のくせに娼婦とか、日本の恥だろ」「マジで辞職しろよ。税金で食ってるくせに」

画面のスクロールは止まることなく、罵倒が次々と投下される。中には田村の個人情報を探ろうとする者、過去の写真を掘り起こそうとする者まで現れる。

「誰か池袋時代の写真持ってない?拡散しようぜw」「こいつの事務所、どこにあるの?抗議しに行こうかな」

蛭田は満足そうにコメント欄を眺めると、静かに微笑んだ。
「そうですね、皆さん。これは決して許されることではありません。我々は健全な政治のために、声を上げ続けなければなりません」
その言葉を合図に、ネットリンチの嵐はさらに激化していった──。

【田村うさぎの反論】

田村は自身のSNS、そしてチャンネルを新たに作り、無実を訴えかけます。
しかし、蛭田の犬笛の効果は凄まじく、1日千件以上もの罵詈雑言が書き込まれている。
田村は日に日に憔悴していった。
社獣ハンターたちはこれに目をつけた。そして堀部映理は絶えず田村を監視し守り続ける。

【田村うさぎの反論──そして折れる心】

田村は自身のSNSを通じて反論を開始し、新たにチャンネルを立ち上げて無実を訴えた。しかし、蛭田の放った犬笛の影響は凄まじく、1日千件以上の罵詈雑言が彼女のもとに押し寄せた。
「デマです。私はそんなことしていません!」
震える声でカメラに向かって訴えるも、コメント欄にはさらなる中傷が書き込まれる。
「嘘つけ、証拠出せよ」「お前みたいな奴が政治家やってるのが許せない」「恥を知れ、売女が!」
何度も反論の投稿を試みるが、そのたびに信者たちは押し寄せ、誹謗中傷の波を止めることはなかった。彼女のスマートフォンは鳴り止まず、SNSの通知は際限なく増えていく。ダイレクトメッセージには暴力的な言葉や、個人情報を晒すと脅すような内容が並ぶ。
彼女の顔は日に日に痩せこけ、目には疲労と絶望が刻まれていった。朝起きるとまず確認するのは新たな攻撃の有無。それが日常になり、眠れぬ夜を過ごすことが増えていった。食事も喉を通らず、画面の向こうの罵声が耳から離れない。
ある夜、彼女は机に突っ伏したまま、震える手で投稿を打ち込んだ。
「もう……どうすればいいの……」
その一言が投稿されると、さらに嘲笑のコメントが押し寄せた。
「お?折れたか?www」「やめるなら早くしろよ」「泣き言言うくらいなら最初から出てくるな」
田村の心は、確実に折れかかっていた──。

【密かに見守る影──堀部映理の存在】

田村が孤独の闇に沈みかけていたその頃、ひとりの女性が彼女を密かに見守っていた。堀部映理──ネットリンチを監視し、標的となった者を守るために動く者だった。
彼女は田村のSNSをチェックし、彼女の配信のたびにコメントの流れを分析した。攻撃が激化するたびに、田村の心が崩れていくのを感じ取っていた。
「このままでは、危ない……」

堀部は田村の行動パターンを把握し、必要があれば直接接触する準備を進めていた。彼女の自宅周辺の監視カメラを確認し、匿名のアカウントを使って暴走する信者たちの動きを追った。
夜の街、人気のない場所で田村が一人歩いている姿を、遠くからそっと見つめる堀部。その目は決して田村を脅かすものではなく、むしろ彼女を守る決意を秘めていた。
田村がどこまでも孤独に追い込まれていく中、彼女だけが彼女を見守っていた。

【田村うさぎの自殺未遂】

薄暗い東京郊外の川。霧が立ち込め、川面は月明かりにわずかに揺れている。周囲は静まり返り、遠くに車のエンジン音が微かに聞こえるだけだった。
田村は震える手でスマートフォンを握りしめ、最後のメッセージを見つめていた。

「……もう終わりにしたい……」
風が彼女の髪を乱し、冷たい空気が肌を刺す。ゆっくりと川岸へ歩を進め、膝を折る。水面が近づくにつれ、彼女の目には涙が浮かび、声にならない嗚咽が漏れた。
その瞬間、影が動いた。
「田村さん!」
暗闇の中から走り出した堀部が、迷わず水へと飛び込んだ。冷たい水が全身を包み込む。堀部は必死に田村の腕を掴み、力いっぱい引き上げた。
「離して……もう楽になりたい……」
「駄目!あなたを死なせるわけにはいかない!」
堀部の声が夜に響き、必死の抵抗の末、ついに田村は岸へと引き戻された。

【病院にて】

田村は救急搬送され、真っ白な病室のベッドに横たわっていた。静かに響く機械音、点滴の滴る音。青白い顔の彼女。
病院の廊下では堀部が心配そうに待っていた。腕を組み、何度も足を組み直しながら焦燥を隠せない。
ようやく医師が病室から出てきた。
堀部は肩の力を抜き、深く息を吐いた。
「あたしがついていながら……申し訳ない」
病室の扉をそっと開け、田村の顔を覗き込む。目の下に深い隈ができ、唇は血の気を失っていたが、静かに寝息を立てていた。
数日後、少し回復した田村は、ベッドの上で静かに目を開けた。
「……堀部さん」
堀部は彼女の手をそっと握る。
「田村さん、全部話してほしい」
涙を浮かべながら、田村はこれまでの出来事を語り始めた。

【背後にいた蛭田無犯窓】

田村が精神的に追い詰められていた頃、彼女は蛭田に直接LINEで懇願していた。
田村:
「もう嘘の拡散と信者によるネットリンチはやめてください」
蛭田:
「どうすれば、やめるかわかっているんだろう」
田村:
「わかりません!どうしろというのですか?」蛭田:
「私の前に身体を差し出せということさ」
その言葉に震え、田村の心は完全に崩壊した。そして彼女は、死を選ぼうとしたのだった。
その真実を知った堀部の目には、怒りと決意が宿っていた。
「許さない……絶対に」

【蛭田のオフィス】

翌日のニュースで田村うさぎの自殺未遂が報じられていた。
「馬鹿め……俺の女になるのと、死ぬのとどっちがいいんだ?損得勘定もできない女ばかりだな……高橋恵子にしても、田村うさぎにしても」
蛭田は苛立たしげに唇を舐めた。デスクの上に置かれた新聞を乱暴に払いのける。
「しかし……つまらん。俺の楽しみがまた一つ減った。だが、まだ手はある。この事務所で働く女は全員、俺の女。最近秘書になった五十嵐いづみ……あの女も、じきに俺のものにしてやるさ」
そこへ、五十嵐が笑顔でオフィスへ入ってきた。
「おはようございます」
無邪気な挨拶に、蛭田は不敵な笑みを浮かべる。
「なあ、おデートでもしないか?」
しかし、意外なことに五十嵐はいともあっさりと応じた。それどころか、デート先とホテル――小島ホテルまで指定してくるではないか。
「ふふ、随分と積極的じゃないか……」
蛭田は思わぬ展開に、満足げに目を細めた。

【小島ホテル】

小島ホテルは、国内でも屈指の高級ホテルとして名を馳せる場所だった。エントランスには大理石が敷き詰められ、シャンデリアが豪華な光を放つ。ドアマンが恭しく扉を開けると、ロビーには静かに流れるクラシック音楽とともに、高級ブランドの香水がほのかに漂っていた。
フロントデスクのスタッフは洗練された身のこなしで応対し、スイートルームへと案内する。専用のエレベーターで上階へと進み、扉が開くと、そこには広々としたリビングスペースが広がっていた。
豪華なシルクのカーテンが大きな窓にかかり、東京の夜景を一望できる。バルコニーにはャグジーが備え付けられ、ダイニングエリアには最高級のワインが並ぶ。

「ほう……なかなかいい趣味してるじゃないか」
蛭田はスイートルームの豪奢な内装を見渡し、満足げに笑う。深紅のベルベットソファに腰を下ろし、グラスに注がれたシャンパンを軽く回した。
「ははは、これでお前も俺のものだな!」
彼は衣服を脱ぎ捨て、全裸で五十嵐を追いかける。だが、その瞬間だった。
突如として五十嵐が冷笑を浮かべ、スッと距離を取った。
「やはり、思った通りのクズね、蛭田無犯窓」
「な……何?」
次の瞬間、ドアが開き、静寂を裂くような叫び声が響く。
「そこまでだ!」
入ってきたのは堀部映理とその仲間。彼女は一瞬の隙を突き、鮮やかな蹴りを放つ。
「必殺・飛燕真空蹴り!」
蛭田の巨体が宙を舞い、床に叩きつけられた。そのまま意識を失う。
堀部映理はすぐに五十嵐へと駆け寄った。
「いづみ、大丈夫だった?」
五十嵐は微笑みながら頷く。
「大丈夫よ」
直後に社獣ハンターのスタッフが突入し、倒れた蛭田の身体に素早く小型ダイナマイトを取り付けた。
「これで終わりだ」
五十嵐は冷たい視線を蛭田に向けた。
「あたしは社獣ハンターのメンバーよ。ずっと、あなたの罪を暴く機会を狙っていたの」

【街宣場】

選挙演説の場に立たされた蛭田の耳には、小型無線から社獣ハンターの声が響いていた。
『さあ、真実を話せ』
蛭田の額には汗が滲む。体に仕掛けられたダイナマイトが、彼の命のカウントダウンを刻んでいると思い込んでいた。
「わ、私は……」
無線の指示に従い、彼は真実を告白し始める。
「私は……アジアのある国から送り込まれた破壊工作員だ!『日本に栄光を取り戻す!日本人の生活をより豊かに!』というのは真っ赤な嘘!本当の目的は、日本を弱体化させ、日本人を貧しくすることだった!」
聴衆のざわめきが広がる。
「さらに……自殺した高橋恵子市議会議員は、私が……私が無理やり犯そうとしたが、抵抗されたために殴り倒し、そのまま屋上から突き落として殺した……!」
現場は騒然となり、怒号が飛び交う。報道陣のフラッシュが激しく焚かれる。
蛭田はがくがくと震えながら、最後の言葉を絞り出した。
「た、助けてくれ……!」
それと同時にSNSでは蛭田の全裸画像と動画が拡散された。
しかし、社獣ハンターのリーダーチャップが冷ややかに告げた。
「その爆弾は偽物だよ」
蛭田は目を見開いた。
「な……何だと?」
「お前を爆破するつもりはない。ただ、お前の口からすべてを語らせるのが目的だったんだ」
観衆の怒りの声が激しさを増す中、警察が駆けつけ、茫然とする蛭田無犯窓に手錠をかけた。
【エピローグ】

ニュースでは、選挙演説の場で蛭田が自身の悪事を告白し、その場で逮捕されたことが大々的に報じられた。
「正義は成された……」
社獣ハンターのメンバーたちは静かにそれを見つめ、次のターゲットへと目を向けるのだった。

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