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局アナを食らう社獣コメンテーター
男の名は松町太蔵(まつまち たいぞう)。かつては国会議員として活躍し、いまやワイドショーの常連として名を馳せる売れっ子コメンテーターだ。その歯に衣着せぬ物言いと、煽りを交えた議論術で多くの視聴者を魅了する一方、権力と利己心にまみれた彼の裏の顔を知る者は少ない。
松町太蔵は、テレビ局の明るくも無機質なスタジオに立っていた。煌々と光るLEDパネルが背後でニュース映像を映し出し、巨大なカメラがいくつも彼に向けられている。番組スタッフがガラス張りの副調整室で忙しなくモニターを覗き込み、ディレクターが手元のスイッチャーを操作しながら指示を飛ばしていた。
「カメラ3、寄って!」
松町はカメラ目線を意識しながら、しっかりとスーツの襟を正す。ダークグレーの高級スーツに、赤いネクタイが映える。丸みを帯びた顔には、年齢の割にたるみが多い。しかし、その目はどこか鋭く、獲物を狙うハゲタカのような冷酷な光を帯びている。額の生え際は後退しているが、それを隠すように前髪を流し、顔には薄くファンデーションが塗られている。鼻筋は太く、口角は上がり気味で、人を小馬鹿にしたような笑みが特徴的だった。
【テレビ番組出演中】
──最後のワンカット──
松町太蔵:「国産共中党から最も多額の献金を受けているのが、実は◯◯総理なんです。皆さん、彼が総理大臣になって最初にやったこと、ご存知ですか?」
観客:「???」
松町太蔵:「それは、中国人へのビザ免除です!理由が分かりますか?」
観客:「ざわざわ……」
松町太蔵:「彼の兄が中国人の入国手続きを専門に扱う会社を経営しているからですよ!」
観客:「ええっ、そんな……!」
松町太蔵:「では、次にやったことは何か?インドネシア人へのビザ免除ですよ。これも理由があるんです。弟がインドネシア人を受け入れる会社を運営しているからです!」
観客:「ひどい!許せない!」
松町太蔵:「政治家なんて、そういうものなんですよ!」
スタジオの空気が一気にヒートアップする。スタッフは映像の切り替えに集中し、サブディレクターは観客のリアクションを煽るように指示を出す。モニターには松町のアップが映し出され、その表情には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。
──番組終了──
【松町太蔵の控室】
撮影を終え、松町太蔵は控室へ戻るなり、乱暴にネクタイを引き緩め、ふんぞり返るようにソファへ沈み込んだ。室内には彼専用に用意された高級な装飾品が並び、テーブルには一流の仕出し弁当がずらりと並べられている。壁際には局のスタッフが何人か立っており、彼の指示を待っているようだった。
松町は無言のまま高級な寿司の折詰を開け、中トロをつまんで口へ放り込む。その仕草一つをとっても、周囲の人間を見下すような横柄さが漂っていた。
そこへ、テレビ局の制作責任者が恭しく控えめな笑みを浮かべながら近づいてくる。
スタッフA:「先生!本日の放送、視聴率が跳ね上がりました!特に最後の発言、ネットでも話題になっております!」
松町は鼻で笑い、湯呑みの茶を音を立ててすすった。
松町太蔵:「ほう、当然だな。俺が口を開けば数字が動くのは分かりきったことだろう。」
スタッフたちは卑屈な笑顔を浮かべ、彼の機嫌を損ねないよう細心の注意を払っていた。
しばらく沈黙が続いた後、松町は無造作に弁当のフタを放り投げ、テーブルに肘をついて低い声で言った。
松町太蔵:「ところで――今夜の“用意”はできているんだろうな?」
室内の空気が一瞬、凍りついた。スタッフたちは互いに視線を交わしながら、誰が答えるべきか迷っているようだった。
スタッフB:「え、ええ、もちろんです。あの……どのような方をご希望でしょうか?」
松町は嘲笑混じりに口角を上げ、指をパチンと鳴らした。
松町太蔵:「わざわざ言わせるな。今度の女子アナ、アレはどうだ?最近入ったばかりの、あの――清楚ぶってる奴だ。」
スタッフBは一瞬躊躇いながらも、すぐに顔を引き締めて頷いた。
スタッフB:「かしこまりました。手はずを整えます。」
松町は満足そうに笑い、煙草に火をつけた。
松町太蔵:「よし。しっかり仕込んでやれ。俺に逆らう気を起こさせるなよ。」
その言葉には絶対的な支配者のごとき冷酷な響きがあった。彼に逆らえばキャリアを潰されることを、スタッフたちは誰よりも理解していた。
こうして、松町の横暴な振る舞いは日常の一部として繰り返されていくのだった。
【橘すみれの夢と現実】
橘すみれは、幼い頃から憧れていたアナウンサーの世界に足を踏み入れたばかりだった。幼い頃からニュースを読む女性たちの凛とした姿に憧れ、努力を重ね、狭き門をくぐり抜けた。しかし、華やかな世界の裏に潜む暗部に、彼女はまだ気づいていなかった。
テレビ局に入社し、最初の半年は雑務やリポーター業務が中心だったが、ある日、局内で噂になっている名前を耳にすることになる。
「松町先生に気に入られたら、出世も約束されたようなもの。仕事も増える。でも……気をつけたほうがいい。」
先輩アナウンサーがそう囁いたとき、すみれはまだ深く考えなかった。だが、その意味を思い知る日はすぐにやってきた。
【支配と圧力】
上司に呼び出されると、制作責任者が神妙な顔つきで座っていた。机の上には彼女の最近の出演記録が並べられている。
「橘、最近の仕事ぶりは悪くないな。」
そう言ったのは、局の幹部である権田だった。彼はにこやかに笑っていたが、その目の奥には冷たさがあった。
「松町先生が、君に興味を持たれているそうだ。」
その一言が落とされた瞬間、すみれの背筋に冷たいものが走った。
「先生の番組に出させていただけるのでしょうか?」
努めて明るく聞き返すと、権田は小さく笑い、書類を片付けながら言った。
「君がその気になればね。」
その後の言葉は、もはや彼女にとって凍りつくような内容だった。
「先生はね、君のようなフレッシュな人材を特にかわいがるんだ。君のキャリアのためにも、先生との関係を円滑にしておいたほうがいい。仕事を続けたいなら、な。」
すみれは言葉を失った。
「それって……」
「そういうことだよ。」
「……お断りしたら?」
「それは君の自由だ。ただ、今の契約が更新されるかどうかは分からないな。それに、この業界は狭い。君が使えない人材だと思われたら、もうどこにも居場所はないぞ。」
権田の言葉は穏やかだったが、そこには明らかな脅迫の響きがあった。
【恐怖と屈辱】
控え室で震えるすみれの前に、再びスタッフが現れた。
「準備はいいか?」
逃げたい。でも逃げたら全てを失う。必死に努力して掴んだ夢が、今ここで砕け散る。
彼女の手は震えていた。涙を堪えながら、すみれは立ち上がった。
「……分かりました。」
【工作員会館 一室】
高級感あふれる部屋に通された女性(堀部映理)は、控えめに扉をノックする。
松町太蔵:「どうぞ!」
恥ずかしそうに顔を伏せた彼女が入室すると、太蔵は手にしていたグラスを置き、彼女をじっと見つめた。
松町太蔵:「遅いじゃないか?途中で寄り道でもしていたのか?」
彼は女性の顔を一瞥すると、不敵に笑う。
松町太蔵:「おう、これは極上だな……SSS級美女だ。しかし、テレビで見たことがない顔だね。」
女性(堀部映理):「局アナの雛です。まだ正式には出ていませんが、勉強中でして……」
松町太蔵:「なるほどな。新人というわけか。さあ、早速始めてもらおうか?」
女性(堀部映理):「……えっ?」
松町太蔵:「えっ、じゃないよ。ディレクターから聞いてるだろう?まずは準備だ。しっかり整えてから、太蔵様のおもてなしを受けるがいい」
戸惑ったふりをしながら、堀部映理はワインを取り出す。
女性(堀部映理):「その前に、極上のワインをご用意しましたの。オーストラリアから仕入れた高級品です。一杯いかがですか?」
太蔵は一瞬驚いた表情を見せたが、興味深そうに頷いた。
松町太蔵:「ほう、いい心がけだ。じゃあ、そのワインをいただこうか。」
彼女はグラスにワインを注ぎながら、そっと時間差で効く眠り薬を混ぜる。
女性(堀部映理):「お口に合うといいのですが……」
松町太蔵:「これは美味い!これはシャブリの赤か?」
心の中でツッコミを入れる堀部映理。
女性(堀部映理)心の声:「シャブリは白だけです……」
女性(堀部映理):「さすがですね。ワインに詳しい方とお聞きしましたが……」
松町太蔵:「まあね、僕は“格付け一流コメンテーター”だからな!」
彼は豪快に笑いながらワインを飲み干し、再び女性に目を向ける。
松町太蔵:「さあ、儀式の時間だ。太蔵様にひれ伏し、ありがたくこの“威光”を受け入れるがいい。」
女性(堀部映理):「……はい。では、まず……」
堀部映理は言われた通り、ゆっくりと動きながら、そっと手を伸ばし、彼の腕を取る。
松町太蔵:「おっ、いいぞ。そうだ、その調子で──」
突然、力強い手つきで太蔵の手首を固める堀部映理。
松町太蔵:「なっ、なんだ?」
一瞬の隙を突き、彼女は手際よく太蔵の動きを封じる。
松町太蔵:「ぐっ……何を……」
顔を歪めながら抵抗しようとするも、薬の効果が回り始め、彼はふらついた末にソファへ崩れ落ちた。
女性(堀部映理):「お休みなさいませ、太蔵様!」
彼女は冷静にグラスを片付けると、素早く部屋を後にした。
【テレビ局】
テレビ局に到着した松町太蔵。いつものように、何食わぬ顔で控室に入ると、スタッフたちが駆け寄ってきた。
ディレクター:「先生!お待ちしておりました。遅かったので心配しましたよ。昨日の局アナの娘、そんなによかったんですか?」
松町太蔵:「……うるさい、余計なことを言うな。」
太蔵は不機嫌そうに返すと、スーツの襟を整えながら吐き捨てるように言った。
松町太蔵:「昨日のことだが……妙だ。何か仕掛けられた気がする。」
スタッフA:「えっ、先生、それは……」
松町太蔵:「お前ら、ふざけるなよ。どういう人選をしてるんだ?あんな妙な女をよこしやがって……おかげでとんでもない目に遭った。責任取れるのか?」
ディレクター:「申し訳ありません、先生。でも、それなりに厳選したはずで……」
松町太蔵:「いいか、今はオンエア前だから大人しくしてやる。だが、終わったらきっちり説明してもらうぞ。覚悟しておけよ。」
彼の言葉には苛立ちが滲んでいた。ワイングラスを持ち上げる手が一瞬止まり、鋭い視線が宙を彷徨う。
そんな会話を交わしている最中、ノックの音が控室に響く。
スタッフB:「先生、出番です!」
太蔵はスーツのボタンを締め直し、わずかに眉を上げると、いつもの余裕たっぷりな笑顔を作ってスタジオに向かう。その背後で、スタッフたちは顔を見合わせた。
【スタジオ】
収録が始まり、太蔵はいつもの調子で饒舌に語り始める。
松町太蔵:「さて、今日は日本の政治家の親中工作が裏でどれだけ進行しているかをお話ししましょう……」
その時、スタジオの大型モニターが突然切り替わる。そこに映し出されたのは、前夜の太蔵と堀部映理のやりとりの映像だった。さらには、控室での彼の発言までもが流れ始める。
観客:「これ……何?」
松町太蔵:「違う!違う!こんなのは捏造だ!」
慌ててスタジオの照明が落とされるが、映像は止まらない。会場は騒然となり、太蔵は顔を真っ赤にして立ち上がる。
松町太蔵:「僕はこんなこと知らない!陰謀だ!」
観客やスタッフの視線が鋭く突き刺さる中、太蔵は身を震わせながらスタジオを飛び出した。
松町太蔵:「助けてくれ…」
【テレビ局を去る堀部映理】
スタジオの喧騒を背に、堀部映理はテレビ局を後にする。空を見上げながら、軽く微笑む。
堀部映理:「これで太蔵も終わりね。あとは被害者の証言をまとめて、警察に提出すれば……一巻の終わり。」
彼女の目には、次なる標的を見据える決意が宿っていた。会社に巣食う社獣たちを一匹残らず駆逐するまで、堀部映理の戦いは終わらない。