
パワハラ衆議員議員を叩きのめせ!
パワハラ衆議員議員を叩きのめせ!
【東京5区・閑散とした商店街】
昼下がりの東京5区。くすんだシャッターが並ぶ商店街の通りに、けたたましいスピーカーの音が響き渡る。
「皆さま!皆さま!本日はお忙しい中、お集まりいただき誠にありがとうございます!」
選挙カーの上、石井べろ子がマイクを握りしめ、演説の幕を開けた。
彼女の足元には、石井べろ子の名前が大きく書かれた赤と白の横断幕。道路沿いには選挙スタッフが立ち、手には「未来を拓く!石井べろ子」のプラカード。商店街の先には、彼女の応援演説を聞こうと集まった聴衆の姿があった。
いつもなら閑散とした商店街だったが、今日は違う。人々は選挙カーの前にぎっしりと集まり、手にはスマートフォンや応援グッズが握られている。誰もが待ちわびていた。「総理大臣が応援演説に来る」と、数日前から宣伝されていたからだ。
べろ子は胸を張り、満足げに観衆を見回すと、ゆっくりと口を開いた。
「この光景を見て、私は…涙が出そうになりました…!」
彼女は大きく腕を広げ、街の風景を指し示す。
「かつてはにぎわっていた商店街が、今やどうでしょう?シャッターは閉まり、人通りもまばら。この活気を失った街、いったい誰のせいだと思いますか!?何が、私たちの生活をこんなにも苦しめているのでしょうか!?」
選挙スタッフの一人が、ここぞとばかりに声を張り上げる。
「イオンだー!」
「そうだ!イオンのせいだ!」
観衆がそれに続き、口々に同じ言葉を叫び始める。
べろ子は満足げにうなずき、手を振って煽る。
「いいえ!違います!イオンだけじゃありません!もっと悪い奴がいるんです!」
彼女は一呼吸置き、観衆をじっと見つめた後、声をひときわ強めた。
「それは――『日本を弱く貧しくする』ことを目論む隣国の工作員たちなんです!!」
一瞬の沈黙。だがすぐに「そうだ!」という叫びがいくつか飛び交い、群衆の熱気が高まる。
「私は、その野望を打ち砕きます!」
べろ子は拳を力強く握りしめ、群衆に向かって高らかに宣言した。
「東京5区――目黒区、世田谷区の商店街に活気を取り戻します!皆さま、投票所では、どうか『石井べろ子』とお書きください!」
拍手と歓声が沸き起こる。だが、この場の空気はまだ最高潮には達していない。人々は次の瞬間を待っていた。
べろ子はマイクを握り直し、再び声を張り上げた。
「そして、本日、私の応援に来てくださったのは――この国のリーダー!わが党の総理大臣です!!」
歓声が一気に高まる。待ちわびていた聴衆がスマホを掲げ、準備を整える。選挙カーの脇で待機していたスタッフが扉を開け、ゆっくりと総理大臣が姿を現した。
黒のスーツに身を包み、やや猫背気味に歩を進める。表情は落ち着いているが、目はいつものようにどこか遠くを見ている。彼がマイクを受け取ると、会場は静まり返った。
総理はゆっくりと口を開いた。
「えー、皆さん、こんにちは……。私はね……この東京5区の……この街並みを見てね……思うことがあるんですよ……。」
彼の独特な間の取り方に、観衆は固唾を飲んで次の言葉を待つ。
「僕はね……日本の商店街にね……光をよびこんでくれるのはね……」
一瞬の静寂。そして、彼はにこやかに微笑みながら、声を張った。
「石井べろ子君だと思っているんですよ!」
どっと拍手が沸き起こる。選挙スタッフが率先して手を叩き、それに続いて観衆も次々に拍手を始めた。総理は穏やかにうなずきながら続けた。
「石井君はね……国を思い……地域を思い……そして、皆さんの暮らしを思っている……。私はね……こういう政治家こそ……必要なんだと……思っているんですよ……。」
べろ子は満面の笑みを浮かべ、総理の言葉に合わせて頷く。彼女の中には確信があった。「これで、勝った」と。
「皆さん、どうかね……石井べろ子君を……よろしくお願いします……!」
総理がマイクを下ろすと、再び拍手の嵐が巻き起こった。べろ子は両手を振りながら、観衆に向かって声を張り上げる。
「皆さん、ありがとうございます!あたしはこの東京5区のために、命をかけて戦います!」
その言葉がスピーカーから響き渡る中、商店街の遠く、ビルの陰で一人の女性が静かにその様子を見つめていた。
堀部映理(ほりべ えり)――社獣ハンター。
スーツの襟を整えながら、彼女は微かに目を細めた。選挙カーの上で誇らしげに手を振る石井べろ子の姿を、冷ややかに見据える。
「この国のリーダー、ね……。」
堀部は小さく鼻で笑う。
彼女はスマートフォンを取り出し、画面を確認すると、軽く指を滑らせた。画面には、今まさにべろ子の演説をライブ配信するSNSの映像が映し出されている。
【選挙結果 テレビニュース】
〈テレビ局・報道スタジオ〉
アナウンサー(落ち着いた口調で):
「速報です。東京5区の小選挙区において、石井べろ子候補が 当選 しました。」
画面が切り替わり、選挙事務所の様子が映し出される。
部屋には「当選確実」と書かれたポスターが掲げられ、べろ子の支持者たちが歓声を上げながら拍手を送っている。カメラの中心には、花束を抱えた石井べろ子が立ち、満面の笑みを浮かべながら支持者に手を振る姿が映る。
べろ子(マイクを握り、勝ち誇った表情で):
「皆さまのご支援のおかげで、この東京5区での勝利を勝ち取ることができました!私はこの街のために、全身全霊をかけて戦います!」
支持者:「べろ子先生、おめでとうございます!」
事務所のスタッフたちは盛り上がり、祝杯を交わす者もいる。だが、一方で冷ややかな目でこの光景を見つめる者もいた――それは、スタジオの解説者 大口太蔵 だった。
〈テレビスタジオ〉
画面がスタジオに戻ると、スーツ姿のコメンテーター・大口太蔵が腕を組み、険しい表情で首を振る。
大口太蔵(呆れた口調で):
「正直、今回の選挙結果には 非常に疑問 を感じますね。」
アナウンサー(少し驚いた表情で):
「疑問、というのは?」
大口太蔵(ゆっくり頷きながら):
「ええ。石井べろ子という人物ですが、過去に天皇陛下の園遊会へ無資格で侵入し、
『自分は中共産国党のウー・テンタイ首席の娘だ』と主張しながら、
なんと一族郎党を引き連れて 大暴れした という前代未聞の騒動を起こしたんです。」
スタジオが静まり返る。画面には「石井べろ子・過去の問題行動」と書かれたテロップが表示される。
アナウンサー(少し戸惑いながら):
「それは、正式に報道された出来事なのですか?」
大口太蔵(深く息をつきながら):
「公にはあまり取り上げられていませんが、関係者の間では有名な話です。
園遊会への招待資格がないにもかかわらず、べろ子氏は 『私は特別だ』と喚き散らし、
中国要人の娘だと主張しながら勝手に皇室関係者の席に座ろうとした という証言もある。」
アナウンサー:「……それが事実なら、かなり深刻な問題ですね。」
大口太蔵(皮肉めいた笑いを浮かべながら):
「深刻なんてもんじゃないですよ。
こんな人物が、国民の代表として選ばれるとは、 正直 日本の政治も終わってますね。」
スタジオには、重たい空気が流れる。次第にSNS上でも、「石井べろ子の過去」が話題となり始めていた。
【テレビの前 べろ子】
自宅の応接間。重厚なソファに深く腰掛け、ワイングラスを手にしながら、べろ子はテレビ画面を睨みつけていた。画面には、コメンテーター・大口太蔵の顔が映し出されている。
「正直、この結果には感心しませんね。この石井べろ子という人、以前天皇陛下の園遊会に――」
その瞬間、べろ子はリモコンを乱暴に握りしめ、勢いよく ピッ と電源を切った。リモコンを投げ捨て、荒い息をつく。
「大口太蔵……馬鹿な奴め……。」
べろ子は苛立ちを抑えきれず、ワイングラスを傾けるが、ほとんど口にはせず、グラスをテーブルに乱暴に置いた。
「今に見ていなさい……。」
その場にいた秘書の 大塚誠 に向かって、甲高い声で叫ぶ。
「大塚!大塚ァ!!」
べろ子の声に驚き、大塚は慌てて部屋へ駆け込んできた。額には薄く汗がにじんでいる。
「は、はい!石井先生、どうされましたか?」
べろ子は不敵な笑みを浮かべながら、机の上のスマートフォンを指で弾いた。
「中共産国党の工作部に連絡を入れなさい。大口太蔵を始末するように指示を出すのよ!」
その言葉に、大塚の表情が一瞬凍りつく。
「……え?あの、まさか、冗談ですよね?」
べろ子は眉を吊り上げ、冷たい目で見据える。
「冗談?冗談に聞こえる?あたしは 中国共産党幹部の娘 なのよ!工作部は、あたしの言うことなら何でも聞くの!」
一瞬、部屋が静まり返った。べろ子の顔がみるみる赤くなり、唇が震える。
「い、いいのよ、そんなことは!!!」
彼女は大塚の顔を睨みつけながら、手元のワイングラスを握りしめる。中の液体が揺れ、こぼれそうになるが、それでも彼女は構わず続けた。
「細かいことを気にするんじゃないの!とにかく、連絡しなさい! あたしをバカにした奴は、必ず消す! それが、あたしのやり方よ!!」
大塚は唾を飲み込みながら、小さくうなずいた。
「……か、かしこまりました……。」
彼はそっとスマートフォンを取り出し、震える指で連絡先を探し始める。その手のひらには、じっとりと汗が滲んでいた――。
【翌日】
朝焼けが薄雲を染める静かな多摩川。
水面は穏やかに揺れ、小さな波が岸辺へと打ち寄せていた。だが、その静寂を破るように、突如として川のほとりから悲鳴が響き渡った。
「ひ、人が……!川に……!!」
早朝のジョギングをしていた男性が、思わず足を止めて川面を指差す。その先、ゴミや枯れ葉がたまった川の岸辺に、 男の遺体 が浮かんでいた。
警察が到着すると、現場にはすでに野次馬が集まり始めていた。ブルーシートが広げられ、遺体が引き上げられる。
水を含んで膨れ上がったスーツ、ゆるく乱れたネクタイ。顔は蒼白で、目は半ば開いたまま。誰かが小声で呟いた。
「……あれ、テレビでよく見る顔じゃないか?」
警官の一人が顔写真を確認し、すぐさま無線を入れた。
「身元判明……コメンテーターの 大口太蔵 だ。」
その名が伝えられると、現場は騒然となった。記者やカメラマンが一斉に集まり、警察が彼らを制止する。
数時間後、警察は早々に「溺死」として結論を出した。
「昨夜、大口氏は都内のバーで大量の酒を飲んでいたとの証言が得られました。その後、一人で帰宅途中に足を滑らせ、川に転落した可能性が高いと見ています。」
取材陣が詰め寄る。
「事件性は?」
「他殺の可能性は?」
だが、警察関係者は断言した。
「事件性はなし。事故死として処理します。」
それ以上の追及を遮るように、記者会見はあっさりと打ち切られた。
一方、そのニュースを静かに見つめる者がいた。
石井べろ子。
彼女はゆっくりとワイングラスを傾けると、冷えた赤ワインを口に含み、微かに微笑んだ。
「まったく、バカな男ね。」
べろ子はグラスを揺らしながら、テレビ画面の向こうに映る多摩川の映像を眺めた。
「運が悪かったのかしら、それとも……ね?」
彼女の目は、まるで何もなかったかのように涼やかだった――。
【べろ子の新人秘書教育 川畑俊彦】
選挙に当選し、議員としての地位を固めた石井べろ子は、新たに任命された 秘書・川畑俊彦 を執務室へと呼びつけた。
初めての指示を受けるのだと思い、川畑は緊張した面持ちで ドアをノックする。
「失礼いたします。」
しかし、べろ子は 彼の姿を見た瞬間、薄く笑った。
「へぇ……あんた、意外といい顔してるじゃない。」
椅子にふんぞり返り、彼を 上から下までじっくりと品定めするように 眺める。
川畑は 礼儀正しく背筋を伸ばし、恐る恐る口を開く。
「あの……本日から秘書として精一杯努めさせていただきます。何かご指示をいただけますでしょうか?」
べろ子は 面倒くさそうに手をひらひらと振る。
「いいから、そこに立ってなさい。」
「……は、はい。」
戸惑いながらも、彼は言われたとおり直立する。
べろ子は ゆっくりと立ち上がり、彼のすぐそばまで歩み寄る。
トン……トン……
べろ子の ハイヒールが床を叩く音 が、不穏なリズムを刻んでいた。
「まず、あんたは “あたしへの正しい挨拶” から覚えなきゃならないわね。」
彼女は 指でデスクをコツコツと叩きながら、ゆっくりと続ける。
「挨拶するときは45度の角度でお辞儀。」
「そのまま『先生、今日も素晴らしいお姿でございます』って言いなさい。」
「え……?」
川畑は、耳を疑った。
「聞こえなかったの?45度よ、45度!きっちりやりなさい!」
「は、はい……。」
彼は ぎこちなく上半身を折り、頭を下げる。
「ダメ!! 浅すぎるわよ!!」
バンッ!
べろ子は デスクを叩き、苛立ちをあらわにする。
「もう一度! 角度が違ったら、やり直し100回よ!」
川畑は 仕方なくもう一度お辞儀をする。
(……何なんだ、この職場は……?)
彼の心に、不安がじわりと広がる。
「まあまあね。」
べろ子は 気だるそうにため息をつく。
だが、次の瞬間――彼女は足を前に出し、ピカピカに磨かれたハイヒールのつま先を見せつけるように動かした。
「次に、あんたにやってもらうことがあるわ。」
「……え?」
「この靴、汚れてるじゃないの。」
彼女は つま先で床をコツコツと鳴らしながら、川畑を見下ろした。
「さっきの礼儀作法を生かしなさいよ。秘書の務めとして、きれいにしてくれるわよね?」
川畑は、背筋が凍るのを感じた。
「え……えっと……それは、雑巾などで拭いた方が……」
「あんた、まさかあたしに道具を使えって言ってるの?」
べろ子は 鋭い目つき で彼を睨みつける。
「あたしの靴を磨くのに、一番いい方法があるでしょ?」
「…………。」
川畑は、ゴクリと唾を飲んだ。
「さあ、どうするの?」
彼女は、腕を組みながら、ニヤリと笑う。
「これが、あたしの下で働くってことよ。」
川畑の こぶしが震えた。
(……こんな異常な職場、耐えられるのか……?)
その日、彼は べろ子の“新人秘書教育”の恐ろしさ を 痛感することになった。
そして、それは まだ始まりにすぎなかった――。
【秘書 川畑俊彦の弁当事件】
昼下がりの議員事務所。外の陽射しが窓から差し込む中、石井べろ子はソファにふんぞり返り、指先でテーブルをリズミカルに叩いていた。
「川畑くん!」
鋭い声が執務室に響く。ドアの外で待機していた川畑俊彦は、反射的に背筋を伸ばした。
「はい、石井先生!」
彼は急いで手帳を取り出し、メモの準備をする。
「お腹が空いたわ。弁当を買ってきなさい。」
「かしこまりました。石井先生、何か特別に召し上がりたいものはございますか?」
べろ子は鼻で笑い、椅子にもたれかかる。
「そんなの、自分で考えなさいよ。あたしが何を食べたがってるかも分からないようじゃ、秘書失格ね。」
川畑は戸惑いながらも、小さく頷く。
「は……はい。それでは、適当にいくつか用意させていただきます。」
その言葉に、べろ子の目が鋭くなる。
「適当じゃダメよ!あたしにピッタリのものを持ってきなさい。それと、安物なんて持ってきたら、あんた即クビだからね。」
川畑は冷や汗をかきながら、慌てて事務所を飛び出した。
〈街中〉
川畑は、汗を拭う間もなく街を駆け回った。和食、洋食、中華、ヘルシー弁当、肉料理弁当と、あらゆるジャンルの高級弁当を買い揃える。
1種類ではべろ子の好みに合わないと叱られることを恐れ、自腹を切って5種類も用意した。
「これなら、文句は言われないはず……。」
そう自分に言い聞かせながら、彼は弁当の袋を握りしめ、事務所へと急いだ。
〈議員事務所〉
息を切らしながら戻ると、べろ子はデスクの前に座り、無表情で彼を見つめていた。
「石井先生、お弁当を用意いたしました。和食、洋食、中華、ヘルシー志向、お肉中心のもの、それぞれございます。」
べろ子は興味なさげに弁当を見下ろし、面倒くさそうに言った。
「ふーん。どれもイマイチそうね。でも、まあ、食べてあげるわ。」
まずは和食弁当を手に取り、一口。すぐに顔をしかめた。
「……味が濃すぎる!あんた、何考えてんの?こんなもの食べたら、あたしの舌が死ぬわよ!」
川畑は息を詰まらせる。
「申し訳ございません……。では、洋食を。」
べろ子は洋食弁当のハンバーグを一口かじると、大げさに咳き込んだ。
「油っぽい!!あたしを脂ぎった政治家にするつもり!?ほんと無神経ね。こんな弁当、猫でも食べないわよ!」
「も、申し訳ありません……。では、中華弁当を……。」
だが、それも一口食べた瞬間、箸を机に投げ捨てた。
「辛すぎる!!あんた、わざとでしょ!?これ以上あたしを苦しめてどうするつもりなのよ?」
「いえ、決してそのようなことは……。」
どの弁当も一切気に入らず、べろ子は川畑を冷たく睨みつける。
「ほんと、アンタって役立たずね。あたしみたいな政治家を支えるには、才能が必要なのよ。センスがゼロね。こんなこともできないなんて、もう秘書辞めたら?」
川畑は拳を握りしめ、顔を伏せるしかなかった。
やがて、べろ子は大きくため息をつくと、立ち上がる。
「もういいわ。どうせ全部不味いんでしょ?あたし、外で食べるから車を出しなさい。」
川畑は歯を食いしばりながら、低く答えた。
「……かしこまりました。」
「それと!」
べろ子が指を立て、彼を鋭く睨む。
「弁当代を経費にするんじゃないでしょうね?あたし、あんたの自腹で買わせてるんだから。領収書なんか持ってこないでよ?」
「……もちろんです。すべて、私の負担で……。」
べろ子は満足げに頷き、笑う。
「それでいいのよ。それが秘書の仕事なんだから。」
べろ子がハイヒールを鳴らしながら歩き去るのを見送り、川畑は深く息を吐いた。
テーブルの上には、手をつけられることのなかった5種類の高級弁当が並んでいた。
時間が経つにつれ、それらは冷たくなり、食べられることのないまま、ただ虚しく置かれ続けるだけだった――。
【政策秘書 荻野和夫の場合】
午後の喧騒が残る東京の街を、一台の黒塗りの公用車が疾走していた。車内は、エアコンの静かな音以外、ある一人の声に支配されていた。
「あんた!何やってんのよ、このノロマ!」
後部座席から響き渡る怒声。石井べろ子 だった。
「あと10分で到着しなかったら、選挙区のあの馬鹿どもに悪印象を与えるじゃない! 分かってんの!?」
運転席にいる 荻野和夫 は、汗ばんだ手でハンドルを握りしめる。
彼は政治の世界に身を置いて長いが、この仕事ほど精神をすり減らすものはないと感じていた。
信号が赤になり、車を停車させると――
ドンッ!
後部座席から、べろ子のハイヒールがシートの背もたれを蹴りつけた。
「赤信号なんか無視して進みなさいよ!議員様を遅らせるなんて、ありえないでしょ!」
荻野は冷静を装いながら、なんとか返答する。
「石井先生、それはさすがに……違反になりますので……。」
べろ子の顔が険しく歪む。
「違反?違反って何よ!あたしの政治生命の方が違反より重いのよ!」
べろ子は手元の 議員スケジュール帳 を掴むと、それを荻野の肩越しに思い切り投げつけた。
バシッ!
「これでもくらえ!この間違いだらけの予定表しか作れないアンタにはお似合いよ!」
急カーブを曲がりながら、荻野は深呼吸する。
焦ってはいけない。だが、この状況が続くことに耐えられるのか――?
(どうして、こんな人の下で働いているんだ……?)
家のローン、子供の教育費、将来への不安。簡単には辞められない。彼は苦い思いを噛み締めながら、ハンドルを握る手に力を込めた。
しかし、次の瞬間――
ブレーキランプの列。渋滞。
車が止まると、べろ子はすぐに助手席に身を乗り出し、荻野の腕を掴んで激しく揺さぶった。
「あんた、何やってんのよ!?渋滞って、どうにかできないの!?ヘリを呼ぶとかさ!」
「へ、ヘリなんて無理ですよ……。それに、渋滞は天候や交通状況のせいで……。」
「天候?交通状況?そんなの関係ないのよ!あたしが『行く』と言ったら、道が開けるのが当然でしょ!!」
べろ子は怒りのあまり、ハイヒールを脱ぎ、それを荻野の肩に パシン!パシン! と叩きつけ始めた。
「石井先生!運転中です!危険ですのでお静かに……!」
「静かに!? あんたが私の指示通りに動けば、あたしは静かでいられるのよ! でも、あんたがポンコツだから無理ね!」
彼女は苛立ちを募らせ、ついに後部座席から身を乗り出し、荻野の頭を ペチン!ペチン! と叩く。
「ほら!早く飛ばしなさいよ!あんたのせいで遅刻したら、選挙スタッフ全員クビ だからね!」
その言葉に、荻野の表情が一瞬だけ険しくなる。しかし、すぐに彼は無表情を取り戻し、ハンドルをしっかりと握り直した。
(……このモンスター議員が、本当にこの国の未来を背負えるのか?)
そんな疑念が、脳裏をよぎった。
外では、クラクションの音が響いていた。どこまでも続く渋滞の列の中で、荻野の心もまた、出口のない迷宮に閉じ込められていた。
【家族への侮辱】
事務所内に冷たい沈黙が流れる中、べろ子はゆっくりと視線を巡らせた。
ソファにふんぞり返り、指でデスクをコツコツと叩きながら、不機嫌そうに口を開く。
「でさぁ、あんたたちの家族に、あたしがどれだけ“お恵み”を与えてるか、ちゃんと分かってんの?」
荻野と川畑が一瞬顔を見合わせる。嫌な予感がした。
「あたしの影響力のおかげで、あんたたちの家族が路頭に迷わずに済んでるのよ?」
べろ子は嘲るように笑い、ゆっくりと足を組む。
「まさか、自力で食っていけるなんて思ってるわけじゃないでしょうね?もしあんたたちがあたしに歯向かったら、家族ごと地獄行きよ?」
荻野の手が震えた。彼の脳裏には、妻と娘の顔がよぎる。
「……それは……石井先生のお力のおかげです……。ありがとうございます……。」
絞り出すような声で言うと、べろ子は満足げに鼻で笑った。
「“ありがとうございます”じゃないのよ!もっと頭を下げなさいよ、そうやって!」
荻野は屈辱に耐えながら、ゆっくりと深々と頭を下げる。拳を握りしめ、唇を噛みながら。
べろ子はそんな彼の姿を見て、愉快そうにクスクスと笑った。
一方、川畑は拳を強く握りしめた。彼の中で、今まで我慢してきた感情が、音を立てて崩れ去るのを感じた。
(……もう、これ以上は無理だ。)
【川畑、社獣ハンターの事務所へ向かう決意】
その日の夜、川畑は自室で、一人ベッドに沈み込んでいた。暗闇の中で天井を見つめても、べろ子の怒声が頭の中で何度も繰り返される。
「家族ごと地獄行きよ」
「もっと頭を下げなさいよ!」
(このままじゃ、俺だけじゃなく、荻野さんの家族まで壊される……。)
川畑は震える手でスマートフォンを取り出し、過去に何気なくスクリーンショットしていた 「社獣ハンター」 の情報を検索する。
画面には、「社会の害獣を取り除く」という言葉が大きく表示されていた。
(……石井べろ子こそ、まさに害獣そのものだ。)
川畑は迷いなく、表示された番号に指を滑らせた。
コール音が鳴る。
1回、2回、3回。
――「……もしもし?」
静かな、しかし鋭さを感じさせる女性の声が応答する。
「……お願いがあります。僕の雇い主……石井べろ子 という議員を、何とかしてください。」
川畑の声は震えていたが、その中には確かな 決意 が込められていた。
【社獣ハンター・堀部映理、参上】
翌朝、川畑俊彦 は緊張した面持ちで、ある事務所の前に立っていた。
周囲に人気はなく、看板も掲げられていない。ビルの片隅にひっそりと佇むその扉は、まるで何者かの存在を拒むように、ひんやりと冷たかった。
川畑は 深呼吸 する。心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、震える手でノックをした。
コン、コン。
数秒の沈黙。すると、静かにドアが開かれた。
「どうしたの?」
落ち着いた声が響く。
現れたのは、一人の女性――堀部映理。
無駄のない黒のジャケット、鋭い眼光。彼女の冷静な視線が、川畑を一瞬で見抜くように突き刺さる。
「君、ずいぶん疲れているようだけど。」
その言葉に、川畑は一気に肩の力が抜けた。
「お願いがあります……。」
声が震える。
「僕の雇い主……石井べろ子 という議員を、どうにかしてください。あの人は 社会の害 そのものです。僕だけじゃない、周りの人間も……壊されてしまう……!」
川畑は必死だった。
べろ子の暴言、圧力、秘書たちの苦しみ、家族への侮辱――すべてが、彼の中で 限界 を超えていた。
堀部はしばらく無言で彼を見つめた後、静かに 頷いた。
「話を聞きましょう。詳しく教えて。」
その一言が、川畑の中に一筋の光を差し込んだ。
彼は震えながらも、これまでの出来事を語り始める。
べろ子の パワハラ、秘書への暴力、横暴な言動――すべてを。
話すほどに、長い間胸の中に溜め込んでいた 怒りと絶望 が、言葉とともに流れ出す。
堀部は最後まで黙って聞いていた。彼女の表情に 一切の感情の揺れ はなかった。
そして、川畑の話が終わると、彼女は 静かに立ち上がった。
「……なるほどね。」
鋭い眼光が、まるで獲物を見定めるかのように冷たく光る。
「標的は決まったわ。」
川畑はその言葉を聞いた瞬間、初めて 心の底からの安堵 を感じた。
長く続く悪夢の終わりが、ようやく見えた気がした。
【堀部映理の罠が仕掛けられる】
堀部映理は、着実に 標的への包囲網 を狭めていた。
すでに 川畑俊彦 と 荻野和夫 から 石井べろ子の事務所内の状況 について詳細な情報を入手済み。
彼女の横暴、秘書への圧力、権力を悪用した数々の行為――すべてが、確かな証拠とともに積み上がっていた。
次に必要なのは、決定的な証拠 だ。
そこで堀部は、べろ子自身の「口」から真実を引き出す ための罠を仕掛ける。
名目は――「働く女性国会議員のリアル」 という 週刊誌の取材。
堀部自身がジャーナリストとして潜入し、堂々と事務所に入り込み、彼女の言動を記録する計画だった。
【事務所への潜入】
「週刊誌の取材?」
べろ子は目を輝かせながら、堀部の依頼を 即座に快諾 した。
自分がメディアに注目されることに 心底満足 している様子だった。
「やっぱりね、あたしの仕事ぶりは 注目されるのよ!」
胸を張りながら、自信たっぷりに続ける。
「あたしのような女性議員こそ、この国の未来を切り開く存在なの!」
堀部は柔らかな笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いた。
「その通りです、石井先生。先生の 日々の活動を詳細に記録 し、ぜひ読者にその素晴らしさをお伝えしたいと思っています。」
堀部の口調は、あくまでも 礼儀正しく、尊敬の念を込めたもの だった。
だが、その瞳の奥には、鋭い光が潜んでいる。
べろ子は、そんな堀部の内心には 微塵も気づいていなかった。
「いいわよ!」
大きく手を振りながら、満面の笑みを浮かべる。
「でも、あたしの魅力を余すことなく伝えてよね! 中途半端な記事なんて許さないから!」
――計画は順調だった。
こうして、堀部映理は 堂々と事務所に出入りする許可を得た。
あとは、ターゲットが 自ら証拠を語る瞬間 を待つだけだった。
【盗聴と隠しカメラの設置】
堀部映理は、取材を装いながら 着々と罠を張り巡らせていた。
カメラバッグに偽装した機材を手に、彼女は自然な動作で 事務所の至るところに盗聴器や隠しカメラを設置 していく。
その作業は、川畑俊彦 と 荻野和夫 の協力によって、誰にも気づかれることなく進められた。
堀部が小さなマイクを本棚の隙間に忍ばせていると、川畑が 低い声 で囁く。
「……ここなら、先生の暴言が最も鮮明に記録されるはずです。」
荻野も慎重に周囲を確認しながら、スーツの内ポケットから小型カメラを取り出し、執務室の隅にそっと取り付ける。
「執務室の隅にも仕掛けましょう。」
彼は堀部を振り返る。
「ここなら、外部の人間が入ってきても気づかれません。」
堀部は無言で頷き、設置した機材を最終確認する。
一つ、また一つ――罠は着実に張られていく。
「これで彼女の本性をすべて暴ける準備は整った。」
堀部の瞳には、冷たい光が宿っていた。
「あとは、決定的な瞬間を待つだけね。」
静かに、しかし確実に、石井べろ子の終焉が近づいていた。
【仕掛けられるミス】
次の段階は、べろ子を意図的に怒らせる「舞台」を用意すること だった。
堀部映理は、慎重に計画を練りながら 川畑俊彦 と 荻野和夫 に向かって指示を出した。
「わざと小さなミスを仕込んで、彼女の怒りを引き出すのよ。」
彼女の声は低く、確信に満ちていた。
「その怒りが 証拠 になる。」
川畑は深く頷きながら、苦笑を浮かべる。
「……そうですね。石井先生のことですから、些細なことで怒り狂うのは確実 です。」
荻野も冷静な表情で付け加えた。
「むしろ、これまでの暴言よりも さらに酷い言葉を引き出せる かもしれません。」
二人は堀部の指示に従い、スケジュールや公式書類の中に、 微妙な矛盾 や わずかな誤字脱字 を散りばめた。
予定時間を 数分ずらす、意図的に 会議の場所を間違える、提出書類の 日付を曖昧にする――。
表向きには 単なる事務的なミス にしか見えない。だが、べろ子の 完璧主義と短気な性格 を考えれば、これだけで 確実に怒りのスイッチが入る。
やがて、静かに仕掛けられたミスが、破滅の扉を開く鍵 となる――。
【べろ子の怒りの爆発】
数日後、事務所内に怒号が響き渡った。
「何よこれ!?」
べろ子の甲高い声が壁に反響する。
バンッ!
机を力強く叩きつけ、手にしていた書類を バラバラと床に投げ捨てた。
「間違いだらけじゃないのよ!これ!!」
彼女の視線が 川畑俊彦 に突き刺さる。
「あんたのせいよね!? どうしてあたしをこんな目に遭わせるの!?」
川畑は歯を食いしばりながら、視線を伏せた。
「……申し訳ありません……確認が不十分でした……。」
しかし、その言葉がべろ子の怒りをさらに煽る。
「不十分!? 秘書失格よ、あんたなんか!!」
拳を握りしめながら、彼女は 怒りのままに机を蹴飛ばした。
「今すぐやり直して!時間はないのよ!!」
彼女の視線が次に向かったのは、荻野和夫 だった。
「荻野!あんたも何してんのよ!? こんなミスを見逃すなんて、あたしを馬鹿にしてるの!?」
荻野は冷静を装いながら、頭を下げる。
「……大変申し訳ございません。私も注意が足りませんでした。」
「足りませんでした、じゃないのよ!!」
べろ子は 激しくソファに腰を下ろし、イライラと足を揺らしながら 叫んだ。
「あたしがこんな無能な秘書どもと一緒にいるなんて、世間に知れたら恥よ!!」
「ほんと、あんたたちみたいな出来損ないを雇ってるなんて、もう耐えられない!!」
その間も、執務室の 隠しカメラと盗聴器 は、彼女の暴言の すべて を余すことなく記録していた。
堀部映理は、事務所の片隅で静かに腕を組み、じっと状況を見守っていた。
「これで十分な証拠が揃ったわ。」
彼女は冷静に心の中で呟く。
「石井べろ子……ついに、お前の罪がすべて表に出る日が来た。」
――罠は、完全に機能した。
【翌日:すべてが明るみに】
翌朝、石井べろ子は いつものように優雅に玄関のドアを開けた―― その瞬間だった。
バシャッ!バシャッ!
無数のカメラのフラッシュが一斉に炸裂。
眩しさに一瞬たじろぐ間もなく、記者たちが殺到 した。
「石井議員!秘書に対するパワハラや暴言についてどうお考えですか!?」
「選挙区の有権者から不満の声が多数寄せられていますが、何か弁解は!?」
「中共の工作員との関与が取り沙汰されていますが、真相をお聞かせください!」
次々に突きつけられるマイク、カメラ、厳しい視線。
べろ子の顔が 一瞬で険しく歪む。
「ちょっと!何なのよ!!」
彼女は苛立ちを隠せないまま 声を張り上げた。
「どけなさいよ!あたしは国会議員なのよ!!何を聞いても答える義務なんかないわ!!」
しかし、記者たちは 一歩も引かない。
マイクが押し寄せ、カメラが至近距離でべろ子の顔を捉える。
「秘書への暴言の音声データが公開されましたが、それについては!?」
「議員給与の不正流用疑惑も報じられています!説明責任を果たすおつもりは!?」
「SNSでは『辞職しろ』の声が相次いでいますが、どう受け止めていますか!?」
べろ子は 完全に動揺していた。
額に汗がにじみ、視線が落ち着かない。
「……ちょっと、あんたたち、しつこいわよ!!」
彼女は ヒールを鳴らしながら、記者たちを強引に押しのけるように 足早に玄関へ引き返す。
しかし、玄関前に立ちふさがるカメラマンたちは、容赦なくシャッターを切る。
「説明をお願いします!」
「議員辞職の可能性は!?」
べろ子は 顔を真っ赤にして怒鳴る。
「答える義務はないって言ってるでしょ!!この国はどうなってんのよ!!」
彼女は乱暴にドアを開けると、 バタンッ! と力いっぱい閉めた。
だが、外では記者たちが ますます勢いを増していた。
そして――その様子を 一歩離れた場所から静かに見つめる女性 がいた。
堀部映理。
彼女はポケットからスマートフォンを取り出し、ニュース速報を確認する。
そこには、すでに 「石井べろ子議員、パワハラ・秘書給与流用疑惑で炎上」 の文字が躍っていた。
堀部は 静かに微笑む。
「さて……ここからが本番ね。」
彼女の罠は、完全に機能していた。
【自宅のリビング】
べろ子は、荒い息をつきながら ソファに沈み込んだ。
手にしたリモコンを握りしめ、震える指でボタンを押す。
ピッ――
テレビの画面が明るくなり、朝のニュース番組が流れた。
「衆議院議員 石井べろ子、秘書への暴言と秘書給与ピンハネ疑惑」
べろ子の目が カッと見開く。
画面には 大きな赤字のテロップ、そして、堀部映理が仕掛けた隠しカメラ や 盗聴器が記録した決定的な映像と音声 が、次々と流れ出していく。
映像:事務所内の様子
べろ子の 怒声 が、クリアな音質で響く。
「アンタたち、秘書失格よ!!」
ドンッ!!(机を叩く音)
「こんな無能な奴らがいるから、あたしが苦労するのよ!!」
カメラはべろ子の怒り狂う顔をはっきりと映し出している。
続いて、彼女が 川畑や荻野に浴びせた暴言 が次々と流れる。
「安物の弁当なんか持ってくるんじゃない!! あたしに恥をかかせる気!?」
「アンタの存在自体が恥よ!! そんなこともわからないの!?」
べろ子の 醜悪な表情、荒々しい口調――。
それが、全国の視聴者に 生々しく晒されていく。
画面が切り替わり、ニュースキャスターの解説が入る。
「この映像は、元秘書たちの協力により撮影されたもの です。」
「また、石井べろ子議員が 秘書たちに対し、不当に高額な私的出費を要求していた疑惑 も浮上しています。」
「さらに、雇ってもいない架空の秘書の名前を利用し、秘書給与を横領していた疑惑 も……。」
次の映像――。
今度は、べろ子が 中国共産党との関係を誇示する決定的な音声 が流れた。
「中共産国党幹部の娘であるこのあたしを、誰が止められるっていうのよ!?」
べろ子の顔が、みるみるうちに真っ赤になる。
「何よこれ!?」
リモコンを握りしめ、思わず テレビに怒鳴る。
「全部捏造よ!! これは陰謀よ!!」
「あたしを引きずり下ろそうとしてるんだわ!!」
だが、画面は止まらない。
次々と、新たな暴露が流れ続ける。
映像:元秘書たちの証言
画面には、スーツ姿で顔にモザイクがかけられた 川畑俊彦 の姿が映し出される。
彼の顔には 疲労と苦悩 がにじんでいた。
「僕たちは、ただ正当に仕事をしたかっただけです。 でも、石井先生の下では、毎日が地獄でした。」
「彼女に逆らうことなんて、できませんでした……。」
次に、画面に映るのは 荻野和夫。
彼は 涙をこらえながら、絞り出すように語る。
「家族にまで侮辱されて……。もう限界でした。」
「あの環境では、人としての尊厳が失われます。」
べろ子の 指先が震える。
テレビの音声が、頭の中でこだまする。
全身が 冷や汗 に覆われる。
「……どうして……。」
だが、次の瞬間――
ニュースキャスターの口から、さらに 衝撃的な言葉 が発せられた。
「さらに、新たな証言によれば――」
べろ子の 破滅 は、もはや 止まらなかった。
【べろ子の取り乱し】
べろ子は 荒い息をつきながら、リモコンを握りしめた。
「……こんなもの、デタラメよ……」
テレビを消そうと ボタンを押す が、指が震えてうまくいかない。
ピッ、ピッ――
画面は消えない。次々と流れる自分の 醜態、証言、疑惑の数々。
「……嘘よ……こんなの……!!」
怒りが 頂点に達する。
バンッ!!
べろ子はリモコンを 壁に叩きつけた。
カツンッ……リモコンは床に転がり、沈黙が訪れる。
「……くそっ……」
彼女の顔は怒りと焦りで 歪んでいた。
「誰がこんなことを仕組んだの!?」
「あたしを裏切ったのは誰!?」
「大塚!川畑!荻野!どいつもこいつも、許さないからね!!」
荒れ狂いながら、何度も 部屋の中を行き来する。
「くそっ……くそっ……!!」
だが、その時――
外から、またも聞こえてきた。
【SNSも大炎上】
ニュース番組が流れ続ける中、SNSはすでに大炎上していた。
「X(旧Twitter)」のトレンド一覧には、赤字で表示された 「#石井べろ子辞職しろ」 のタグが堂々の1位に浮上している。
さらに、その下には 「#パワハラ議員」「#秘書給与ピンハネ」「#べろ子アウト」 など、彼女の不祥事を追及するタグが並ぶ。
投稿欄は怒りの声で埋め尽くされていた。
📢 @tokyo_watch 「この映像ヤバすぎる……これが国会議員?石井べろ子、完全に終わったな」
📢 @saiyou_japan 「こんなクズが税金で給料もらってたのか。税金泥棒、今すぐ辞職しろ💢💢💢」
📢 @shisho_victim 「秘書にここまでのパワハラをしてたなんて……これ、もう議員辞職だけじゃ済まないでしょ?」
📢 @politic_eye 「『あたしの靴をなめろ』発言、ヤバすぎる……まるで時代錯誤の独裁者。こんなやつを当選させた東京5区の有権者、反省してくれ」
📢 @bengo_news 「これ、秘書給与のピンハネだけじゃなくて、もしかして中共との癒着まであるの? これもう、議員辞職どころじゃなく、逮捕案件では?」
📢 @nekoneko_news 「ニュースのこの映像見た???『私は中共幹部の娘』発言、完全にアウト。スパイかよwwww」
📢 @Xtrend_bot 「🚨速報🚨 Xトレンド #石井べろ子辞職しろ が急上昇中 」
一方、石井べろ子を支持していた一部の層も、彼女の発言と行動には擁護しきれない様子だった。
📢 @bero_support 「さすがに、今回の件はやりすぎでは……?? べろ子先生、ちょっと落ち着いて……😨」
📢 @tokyo_conservative 「日本の政治を支えるはずの人がこんなことしてるなんて……裏切られた気分だ」
📢 @otaku_news 「やばいな、もうべろ子の名前がニュースサイトにもバンバン出てる……これは消されるわ」
記者たちの声。
「石井べろ子議員!早急に釈明会見を開く予定はありますか!?」
「議員辞職の可能性についてどうお考えですか!?」
「このままでは、逮捕の可能性も取り沙汰されていますが!?」
フラッシュの光が窓の隙間から差し込む。
べろ子は 耳を塞ぎ、崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。
「……こんなの……」
呆然とした瞳で、何もない空間を見つめる。
「……夢に違いない……」
唇が震える。
「あたしが……こんな目に遭うなんて……」
「……ありえないわ……」
「どうして……どうして……」
だが、現実は無情だった。
この瞬間、石井べろ子は 完全に追い詰められていた。
【最後の電話】
――プルルルルル……プルルルルル……
静まり返った部屋の中に、携帯電話の 無機質な着信音 が響く。
べろ子の 血の気が引いた顔 が、震える手でスマホの画面を覗く。
そこに表示されていた名前は――
「○○首相」
――ゴクリ。
べろ子は、喉を鳴らす。
指先が小刻みに震えながらも、なんとか通話ボタンを押した。
「……し、首相……?」
その声は、かつての 傲慢さ とはかけ離れた、か細いものだった。
電話の向こうから、首相の 冷静な声 が響く。
「石井君ね…これ以上の騒動は与党にとっても大きな打撃だ。」
「離党と議員辞職を即刻行うべきだ。そうすれば…これ以上の調査は控える。」
「だが、君が辞職を拒むならば、党として君を除名せざるを得ない。」
べろ子は、息を詰まらせた。
「し、首相……!」
青ざめた顔で 必死に言葉を搾り出す。
「あたしを信じてください! これは陰謀です!」
「敵対勢力の工作で、あたしを貶めようとしているんです!!」
だが、石破首相の声に 揺らぎはなかった。
「石井君ね…もう誰も君の話を信じてはいない…善処を期待している。」
――プツッ。
通話が 一方的に切れた。
べろ子は、スマホを持ったまま その場に崩れ落ちた。
目の焦点が合わない。
口が わずかに開いたまま、声にならない声を漏らす。
「……終わった……?」
耳元には、もう何の音も聞こえない。
唯一響いていたのは、彼女の心臓の鼓動だけ だった――。
【終幕】
翌朝、新聞の一面に 巨大な見出し が躍った。
「石井べろ子議員、辞職不可避――不正とパワハラの全貌」
その下には、彼女の これまでの悪行の数々が克明に記されていた。
秘書への暴言、秘書給与のピンハネ、中国共産党との癒着――。
世間が その実態を知った今、もう逃れる術はなかった。
【べろ子の末路】
📺 ニュース速報:石井べろ子議員、辞職を表明
ニュース番組が緊急特番を組み、画面には「速報」の赤い文字が点滅していた。
📢 アナウンサー(厳しい口調で)
「本日午後、石井べろ子議員が 議員辞職を表明 しました。これにより、東京5区の議席は空席となりました。」
画面が切り替わり、記者会見場に移る。
記者たちのフラッシュが激しく焚かれる中、ぼろぼろになったべろ子 が記者会見の壇上に立っていた。
化粧は崩れ、髪は乱れ、目の下にはくっきりとクマができている。
かつての傲慢な態度は影を潜め、焦燥しきった表情を浮かべていた。
📢 べろ子(弱々しく)
「……このたびは、私の不徳の致すところで、多くの皆様にご迷惑をおかけしました……。」
かすれた声。震える手。
かつての自信満々な議員の姿は、そこにはなかった。
📢 記者A(冷静に)
「石井議員、パワハラ問題や秘書給与の横領疑惑について、改めて説明してください。」
📢 べろ子(目をそらしながら)
「それは……誤解……誤解です……。しかし……」
📢 記者B(容赦なく)
「中共との関係についても、まだ説明責任を果たしていませんが?」
📢 べろ子(しどろもどろに)
「それは……私は……」
もはや何を言っても、誰も信じない。
ネット世論、テレビ報道、新聞記事――すべてが彼女を追い詰め、逃げ道を完全に塞いでいた。
彼女は震えながら、たどたどしく言葉を絞り出した。
📢 べろ子(涙を浮かべながら)
「……本日をもちまして、議員辞職いたします……。」
📢 記者たち(ざわめき)
「責任の取り方として、これで十分だとお考えですか?」
「離党だけではなく、政治家としての活動も完全に引退するのですか?」
「不起訴処分を狙っての辞職ではないのですか?」
べろ子は何も答えず、うつむいたままマイクを置き、そのまま会見場を後にした。
カメラが彼女の後ろ姿を映し出す。
あれほど強気だった女が、今や 一匹の敗残兵のようにうなだれていた。
📱 SNSでは、冷酷なリアクションが相次ぐ
X(旧Twitter)では、「#石井べろ子辞職」「#議員辞職じゃ済まされない」 などのトレンドが次々と更新されていた。
📢 @politic_eye
「べろ子、ついに議員辞職! でも、辞めるだけじゃなくて ちゃんと刑務所行けよ。」
📢 @tokyo2025
「辞職するなら、不正に得たカネを 全部返還しろ! 税金泥棒!」
📢 @bengo_news
「議員辞職=不起訴ではない。今後、検察の動きに注目が集まる。」
🚨 ついに、特捜部が動く 🚨
📺 ニュース速報:東京地検特捜部が石井べろ子の自宅を捜索!
議員辞職から数週間後、べろ子の自宅に東京地検特捜部が強制捜査に入った。
テレビのニュースには、ダークスーツを着た捜査官たちが、大量の段ボールを運び出す映像が流れる。
📢 アナウンサー
「本日未明、東京地検特捜部は、石井べろ子氏の 秘書給与の不正流用、および中共との不透明な資金の流れ に関する捜査の一環として、自宅および関連施設を家宅捜索しました。」
📢 記者A
「関係者によると、石井氏は『あたしは悪くない』と供述しているとのことです。」
📢 記者B
「しかし、押収された資料には、違法な資金の流れを示唆する書類が多数含まれているようです。」
📺 【速報】東京地検、石井べろ子の逮捕状を請求へ
数日後、ニュースは最高潮を迎える。
「逮捕」――それは、もう時間の問題だった。
🔗 べろ子の転落
「……石井べろ子元議員、本日 詐欺罪
で逮捕 されました。」
ついに、その時が来た。
テレビには、警察車両に乗せられるべろ子の姿が映し出される。
以前の華やかな衣装はなく、シワの寄ったスーツ。
目の下のクマは深く、肌には生気がない。
カメラのフラッシュが焚かれる中、彼女は 記者たちを睨みつけるように 口を開いた。
📢 べろ子(怒り狂って)
「あたしは無実よ!! これは陰謀なのよ!! あたしをハメたのよ!!」
📢 記者C
「では、あなたが不正をしていないという証拠は?」
📢 べろ子(動揺して)
「そ、それは……」
📢 記者D
「中共との関係についても、ご説明を!」
📢 べろ子(顔を歪めながら)
「ちょっと!! うるさい!! あたしを誰だと思ってるのよ!?」
警察官に腕を掴まれ、彼女はパトカーの中へと押し込まれる。
ドアが閉じられ、サイレンが鳴り響いた。
📢 SNSの最終ジャッジ
📢 @tokyo_news
「#石井べろ子逮捕 ついにきたか。これで日本の政治が少しはクリーンになるな。」
📢 @justice_watch
「べろ子、あれだけ偉そうにしてたのに、最後は『あたしをハメた』とか情けなさすぎるwww」
📢 @bengo_news
「政治家の汚職はこれで終わりではない。これを機に、さらなる改革を求める声が高まるだろう。」
📢 @saiyou_japan
「ま、当然の結果だな。パワハラ政治家の末路なんて、こんなもんよ。」
【べろ子のその後】
拘置所の冷たいコンクリートの壁を見つめながら、べろ子は すべてを失ったことを実感する。
地位も、名声も、財産も。
かつて群がっていた秘書や支持者たちは、誰一人として面会に訪れなかった。
📢 べろ子(虚ろな目で)
「……どうして……こんなことに……」
だが、もう遅い。
世間は、べろ子の存在など とっくに忘れ去っていた。
こうして、石井べろ子は 日本政治史に残る"最悪の議員"として、その名を刻むことになった。
🔥 パワハラ衆議院議員の転落――ここに、完全決着
堀部映理は、スマホの記事を閉じる。
表情には 何の感情も浮かんでいない。
ただ、淡々と 使命を果たした者の静けさ があった。
「……これでまた一つ、社会の害獣を駆除できたわね。」
低く囁きながら、コーヒーをひと口。
新聞をテーブルに置き、堀部は立ち上がる。
「でも、まだ道半ば。」
窓の外に目を向ける。
街は、今日も変わらず動いている。
だが、その影にはまた 新たな害獣が潜んでいるのだ。
「次の獲物は、どこかしら。」
堀部映理の目が、次の標的を探し始める。
――こうして、石井べろ子は すべてを失い、政治の世界から姿を消した。
だが、堀部映理の社会の害獣を "狩る" は終わらない。
新たな標的を求め、彼女は次なる戦場へと歩みを進めていく――。